ぼくたちと駐在さんの700日戦争

赤土山に熊がいる経緯を、グレート井上くんに教えられた僕たち。

「へー。そいじゃ、モロッコもー」

「グレート父さんとタカさんの愛の結晶の！」

「そういう言い方はやめろよ・・・・だいぶ語弊があるから・・・」

まったくです・・・。

とにかく、赤土山は、石灰が採れた頃には、熊はいなかったそうなので（そりゃそうだ）、グレート井上家で逃がした『カムイ』という熊の子孫である可能性大。

「へんな因果だなー」

「熊の寿命ってどれくらい？」

「だいたい20年から30年といったとこかな？」

「ってことはーーーーー」
「ダイレクトの子供って可能性あんじゃん！」

「それはどうかなぁ・・・・」

熊は行動範囲が広いので、一階にそうとは言えませんが、グレート父さんが不法侵入のハンターに怒りまくった理由は、だいたいこのあたりにあるようです。

「あ・・・親って言えば・・・・そうだ！この下にいたんだ！親熊みたいなの！」

「マジかよ？」

「うん。さっき土手下にいたんだよ。な？ジェミー！」

「いました～～～。先輩は『パンダの黒い部分だ』って言い張ったんですが、ボクは『そんな珍獣いるわけない』って笑ったんです～～～」

「パンダつったのはお前だろっ！」

あー。まったく、どこに連れて来ても腹の立つヤツです。

「それが、いた、って言うよりは、落ちてたって感じで・・・・」

「え～～～～・・・・」
「嘘だろ～～～・・・・」

もし、あの熊が母熊であれば、モロッコの処置は簡単です。
ただし。

「無事であれば、だろ？」

「うん・・・・・・・・」

西条くんにとっては、一度、自分が助けた熊が落ちている、となれば、おだやかではありません。

モロッコは西条くんにまかせて、残りのメンバーでさっきの発見場所まで下りて来ると、

「どれだよ？熊ぁ」

「ほら、あれ、あの黒いの」

倒れた熊は、以前と場所は変わっていませんでしたが、茂みの葉っぱの位置が変わっていて、本当にわずかにしか見えなくなっていました。

「あ！あの三角の？」

「そうそう！いるだろ？」

「いるつってもなーーー。ただの黒い三角だな、あれじゃ」
「秘所地の出来事だな！秘所地の出来事！」
「あはははー。言えてる！」

「倒れてる熊見て、よくそういうこと思いつくなぁ、千葉ぁ」

少し怒ったように言うのですが、

「だってなー」
「うん。毛むくじゃらだしなー」

そりゃ熊ですから。
黒くって三角形なら、なんでもいいのか？

「どう見ても秘所地のできごと！」
「お手入れがいきとどいてる！」

「え？お手入れってすんの？」
「そりゃすんだろー」

「どうなんだ？孝昭」
「え？俺？」
「お前じゃなくって姉ちゃんだよ！姉ちゃん！」

「んーーーーーーーー」

話はすぐにそっちの方へ。哀しき17歳。

「脇の下はともかく、そっちは見たことねぇなぁー」

それはそうでしょう。
見ていたら、孝昭くんは、もはやこの世にいないでしょう。

「プール授業前になると、風呂場で、イテーーーー、とか言ってるから、それかな？わはははは」

すぐ調子づくのが、この弟の欠点です。

「え？そいでそいで？」「そいで？」

「んーと、そいでな？姉ちゃんの場合はー」

こんな口の軽い弟がいたんじゃ、年頃の姉もたいへんです。


「先輩～～～～、こっちからよく見えますよ～～～～」

と、ジェミーがさらに下方から呼ぶまで、おおよそ20分を「秘所地」に費やし、

ようやく、

「ほんとだ」「熊だな、あれ」

「だから最初っから言ってるだろ？」

「生きてんのか？」
「さっきは動いてた」
「秘所地が？」
「熊がっ！」

「あん時の熊かなぁ」

「おそらく」

そして、おそらくモロッコの親。

「わかんねぇぞ？争って落ちたってこともありえる」

しかし、あんなところに倒れていたのでは、ハンターに見つけられたらひとたまりもないわけで。

「誰か下りてって確認してこい」

「え！冗談じゃねぇぞ！」

「うーーーーーん・・・・」

誰が行っても命がけ。

「いっそ駐在、落としてみるか？」
「あははは。そりゃいいな！」

警察官を？落とすのが？

「いいか、井上がここまでおびき出したら、俺が足払いかけるから～」
「そこで千葉がいっきに！」
「おお！カンペキ！」
「あはははははは！」

「ほぉ。そりゃカンペキだな」
「だろ？誰か駐在、呼んでこいよ」
「呼んでこなくっても、さっきからここにいるぞ？」

「ここにって・・・？」

「どわぁ！ちゅ、駐在！」

い、いつの間に！

「秘所地の出来事あたりからだ」

「な、なんで秘密会議に駐在がいんだよ！」

「今度から秘密の会議は屋外ではやらないことだな」

もっともです。

「しかし、お前ら・・・いつも話し合ってることって、そんな内容なのか？」

「まーーー、7、8割方は・・・・・」

そんなもんです。

「立派な犯罪集団だな・・・・。お前ら・・・・」

「い、いや、冗談です、冗談ですってば」
「そうそう、冗談ですよ」
「誰も人を突き落としたりは」

「そうか？その割に、千葉が『押せ』の体勢に入ってんのはどうしてだ？」

「あ～～・・・いやぁ～～～・・・・」

立派な犯罪集団です。

「しかし・・・。いるとは思ってたが、親熊も揃ってるとなるとやっかいだな・・・」

「ええ・・・」
「いたんです・・・」

駐在さん、さすがに事態をわかっていました。

「駐在さん、お願いがあるんですがー」

「なんだ？千葉。人を殺そうとしたくせにあらたまって」

「アレは、パンダだってことにしてもらえませんか？」

「無理だ」



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