ぼくたちと駐在さんの700日戦争

駐在所から奇妙な音楽が流れています。
グレート井上くんとの学校帰り。

♪ひとっつひっとより、ちっからもち～

しかも異様なボリューム。

♪ふたっつふっるさっと、あっとにして～

「大ちゃん音頭*だ・・・」。
（*マンガ『いなかっぺ大将』テーマソングで歌は吉田よしみ　現天童よしみさんが歌っていました）

「どうしちゃったのかな。駐在さん・・・」。

「いや。駐在さんじゃないだろう」。

「ということは・・・」。

すでにいやな予感ぷんぷんです。

♪みっつみらいのおおもっのだぁ～い

「誰だろ？」
「のっぽさん部隊だろうなぁ」。

「森田？」
「いや。森田、放送機材詳しいけど、そんなことするやつじゃない」。

「チャーリーか？」

「ありえるなぁ。最近実行に目覚めてきたから」。

「根に持ってるもんなー。チン○のこと」。

「うん。あいつが根に持つほど、ちっちゃいって言ってるようなもんなんだが」。

♪ダイちゃんあっちょでにっんきもの～

そして駐在所の前。

孝昭くんと、西条くん。そして一緒にいたのは、

新キャラ。放送委員の安部（あんべ）くんでした。
安部くんは、その声質から「バリトンくん」と呼ばれていて、誰も本名で呼ばないので、これも本名を覚える必要はありません。

「バリトン・・・・」。

「あ！おまえら！いいとこきた！」
孝昭くんが僕たちに気づきました。

いや。とっても悪いとこに来た気がします。

「なにやってんだ？お前ら・・・」。
グレート井上くんがもっともな質問をしました。

バリトンくんがその超低音の聴き取りにくい声で、説明を始めます。

「いやぁ～。駐在所の放送設備にさ～。外部入力端子あるか見に来たんだけどな」。

外部入力端子・・・。

「うん。それで？」

今度は孝昭くん。

「ほら。俺たち、ここんとここの拡声器にやられっぱなしじゃん。こっちでコントロールできないかと思ってさ」。
「その実験」。

「それでバリトンを？」

「ああ。こいつ放送設備は詳しいと思ってよ。で、見ろ！駐在所の放送、のっとったぞ！」

見るとその「外部入力コード」の先にはテープレコーダー。
うん。たしかに街中に『大ちゃん音頭』かかってるけど・・・。

♪て～んてん、て～んか～の～　い～なか～っぺ～

「問題はな・・・。コードの長さ以上には離れられないってことだなー」。
バリトンくんがのっそりと答えます。

確かに。そこは外とは言え、見るからに駐在所の前。というか、窓の真下。
これをコントロールしていると言えるのでしょうか？

　　　　「そんなことしてただですむと思うか？」

「ただですむもなにも、お前・・・」。

「お前って。僕ら、なにも言ってないぞ」。
答える僕。

「え・・・・」。

全員がおそるおそる後ろを振り返りました。

♪むっつむっしゃくっしゃすっるとっきは～　だいちゃん、ドバっとまるはっだか～


→ → → → →

「ママチャリぃ」。

「はい・・・」。

なんで僕が・・・。

「もう、お前らに説教するの飽きた。俺は」。

「あ。ちょうどよかったです。僕たちも説教されるの飽きたとこだったんで・・・」。

「お前らは飽きるな！！！！」

「はい・・・」。

「なぁ。高校生にもなって”大ちゃん音頭”街中に流して、なにがうれしい？」

そういうのはうれしいやつに聞いてもらわないと・・・。

「まぁ。オバQ音頭よりは新しいですし・・・」。

「ほぉ」。

「やっぱり水前寺清子のほうがよかったですか？」

「ほぉ」。

「あ・・・次はサブちゃんにします・・・」。

「そういうこと言ってるんじゃないっ！」


→ → → → →

「またお前らのせいで除雪だよ」。

「まぁまぁ、そう言うな。汗して働くのはいいことだ」。

西条くんが言いますが、下校時ごとに強制労働させられている高校生って、全国にそんなにいっぱいいるのでしょうか？

「だからのっぽさん部隊、実行に使うなって言ってるだろ？」
グレート井上くんも、スコップを持ちながらぼやいています。

「なんで駐在帰ってくるかなー」。

いや。帰って来るだろ。職場で家なんだから。

「いや。そうでもないぞ。あの時間にはいないはずなんだ」。

僕たちはすっかり駐在さんのタイムテーブルを把握していました。

「おかしいな・・・。最近ランダムにいなくなっては帰ってくるんだよなぁ」。

「そう言えば・・・」。

「なんだ？井上」。

「いや。奥さん見ないな、と思って」。

「そうだな。最近見てない・・・」。

「なんか関係あるのかな」。


実は関係大アリで、僕たちにも多大な影響を及ぼすことになるのですが、この時はとうてい気づけることではなかったのです。




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