ぼくたちと駐在さんの700日戦争

＜本日2話連続←第33話からどうぞ＞

「で・・・捕まえられたのは？」
「俺だ」
捕まえたのは、髭男でした。まるでそれが「手柄」とでも言いたげです。
確かに手柄なのかも知れません。人間からは、ですが。

「お前も、なんか文句あんのか？」

子グマは「1匹で車が買える」というくらい高値な上、親グマとちがい、小さいので分け前がほとんどありません。誰が捕まえたかは、とても重要なのです。

ところが、髭男の相棒の元ヤンキー。
ナマイキな高校生相手がイヤになったのか。地主の息子がいるので焦ったのか。

「巡査さん、アンタ、警察官だろ。こいつら逮捕してくれ」
「はあ？」
「俺たちは、ここには役所の依頼で来てんだから。これ、公務だから」
「はあ。その通りですが？」

「だから、公務執行妨害で逮捕してくれよ～、ジャマだから！」

つまらない脅しを・・・。しかもヘラヘラと・・・。
そんなので井上が引くと思ってるのか？

「いや、公務執行妨害ってのはですねぇーーー」

普段は、しょっちゅう「公務執行妨害」をふりかざす駐在さんですが、ここは僕らにつきました。

「アンタが逮捕しないんだったら、別の警察官呼ぶよ？」

この言葉で僕の我慢も、限界に達しました。

「いえ、逮捕されるのはあなたがたです」

「へ？」「はあ？」「あ？」

「その先で捕まえたっておっしゃいましたよね？」

僕は手にしていた地図を広げると、

「これ、ここの地図なんですが・・・・。あったあった、車はここですよね？Uターンできるように、って、ここに停めたわけでしょう？」

猟友会のメンバーも、髭男たち以外は良識があるようで、僕の質問にも答えてくれました。
「ぁあ？」「あー、ここだな」
「そうそう。バックじゃ降りられないからな。こんな山道」

「じゃ、現在地はここらへんで・・・・子グマ捕まえたのはここらへんですか？」

「もう少し上かな？」「だよな」

「じゃ、ここいらへん・・・」
「ああ、そのあたりだったな？」「うんうん、そんなもんだ」

「そこは狩猟法で違反です。鳥獣保護法もかな？」

「あ？なに言ってんだ？オマエ」
「だからー。俺たちはちゃんと役所の依頼でやってんだっつーの！」

あいかわらずヘラヘラと勝ち誇っています。

「どこの役所の？」

「この町に決まってんだろ！」

髭男たちも、西条くんたちも、僕がなにを言い出したかわからないようでした。

そこで再び地図です。

「みなさんが車を停めたあたりが、Uターンできるここらへんで・・・・みなさんが、子グマを捕まえられた所は、このあたり・・・・」

「そうそう」と、猟友会メンバー。

「そこ、隣りのC村ですから」

「あ？」「え？」「おあ？」「へ？」

「ほら！」

赤土山は、入り口こそ、僕たちの町ですが、大きな山なので、3つの市町村にまたいでいます。

「ここからは依頼された自治体とはちがます。ですから、そこは禁猟区です」

（害獣の殺処分や捕獲は、放獣も含め、許可された市町村の境界を超えることはできない）

ましてや私有地。

「駐在さん、届け出出しました？C村には」

「いんや！」

そうでしょうともー。
そこは駐在さん。期待を裏切りません。

「う・・・・・」「ぐ・・・・・・」

悔しがる髭男たちと、

「あ、ホントだー、ここC村になってる！」
「境界杭なかったから、わかんなかったなぁ」
「自治体がちがえば、まだ禁猟期間ってことになるなー」
良識ある（分け前のない）猟友会メンバー。

「でしょ？」

ほかの猟友会のひとたちが納得してくれたので、さらに髭男に向かってトドメ。

「だから、この子グマは、井上家の所有財産ですから。ここに置いてっていただかないと・・・・さらに窃盗、ですかね？駐在さん」
「そうだなあーーーー。私有地だからなあーーーーーーー」

「いや、持ち主本人おどしましたから強盗ですかね？駐在さん」
「そうだなあーーーー。強盗かもなあーーーーーーー」

「逮捕ですよね？」
「そうだなあーーーー。ことと次第じゃなあーーーーー」

ああ、駐在さんの棒読み、大好き！
駐在さんの奥さんはもっと大好き！

ここは、ハンターもすごすごと帰るしかありません。

駐在さんは猟友会の人を、駐車していた所まで送って行きました。

「ふ～～～～～・・・・・・・」

実はハラハラでした・・・。

「よくやった！」「えらい！」
「アンタが大将！」「アンタが軍師！」「アンタが歩兵！」

身分、下がってますけど？

「にしても、井上は知らなかったのか？」
「知らなかった・・・。いくら自分ちの土地でも、山の境界なんてわかんないよ・・・・」

「その通り」
「え？」

「わかんないから、助かったんだよ」

僕は、さっき見せた地図を、さらに広げました。

「あ！下がある！」

「そうそう。実は下があったんだ」
折ってただけ。

「あの人たちが使う山の地図と、僕が持ってる不動産用じゃ倍率も見方もちがう」

「なんで不動産用の地図持ってんだ？」

「えっとーーー・・・井上王家の財産調べてて。あんまり自慢するから」

「やなヤツーーーーーー！」
「実は夕子姫、狙ってやがんな！」
「その後に井上王子とジャマになった和美を殺害して・・・・」
「まんまと王の座を！」

こらこらこら・・・・。ジャマってなんだ・・・。

「極悪非道の悪党め！そうはさせないぞ！」
「げ！井上王子、生きてたのか！しぶといヤツ！死ねーーーー」

なんか勝手にストーリーが進んでます。
グレート井上くん本人が混じってるのがシャレになりません。

「ウソだよ。井上のお父さんから頼まれた時に、役所でとってきたんだ」

その折りこんでいた下側、

「今、僕らがいるのは、本当はこのあたりだ」

「え・・・・・！実はうちの町・・・・・・」

「そう。あの人たち、Uターン場所を探して車停めたから、それを目印にしたけど、実は、さらに上にもあるんだ。Uターンできる所が」

上までは通れませんから、彼らには知る由もなかったのです。
もともと、目印になるものが「Uターン場所」のみ。
不動産地図には、他の目印はないのです。

「ここ、戦時中は石灰とってたって言ったよね？トラックがすれちがうとこ複数なきゃ、運搬できるはずがない」

「なるほど・・・・」「人工的広場なんだ・・・」

だから不動産地図には「ノリ面」の記載があります（←平地があると、山でもその場所の価格が変わるため）
逆に山登り用の地図にはありません。

「で、上のUターンできるとこから。ほら、C村になるんだ」
「ほんとだ、C村・・・」

「じゃ、あいつらが地図で確認したのは別の場所・・・」
「そう。実はここよりずっと上」

「それって～～～～～～～～」
「やっぱ公務執行妨害じゃね？」

「いやいや～。地図の見間違いだよ、山じゃよくあることだ！不動産地図だけど！」

「まぁ・・・・・・・」「そうだ、な・・・・・・・」

感心しているような・・・。呆れているような。

「・・・・井上王子、コイツには気をつけろよ？」
「うん。姫には警護の兵を増やして、万全の注意を払うよ」

そりゃないだろっ!!



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