ぼくたちと駐在さんの700日戦争

西条くんの思惑とは無関係に、それは地主「井上家」対「ハンター」の様相を呈して来ました。

僕たちとしては、いずれにしても結果は同じですが。

狩猟のオンシーズン（解禁）は、5月の飛び石連休からです。
つまりまだ禁猟期間で、しかも私有地。
それを彼らは、僕たちに目撃されました。
ランクルで来ていて、ナンバーを確認できるくらいに足止めをくらったのは致命傷で、もし、通報されると、「狩猟法違反」もしくは「鳥獣保護法違反」。
実は、こうした地域内では、獲っていい獲物の数も決まっているのです。

「それを逃れるためには、合法にするしかない、ってわけだ」

「な～るほど！あったまいい！」
「感心してる場合か？」

「今日、来てっかな？ランクル」
「来てると思うよ」

モロッコ、もしくはその親が見つかるようなことがあれば、ほぼ絶望的。

熊は、皮から内臓、はては爪まで「身体の全て」が高価で取引される商品なのです。

「モロッコに罪はねぇよ」

その通りです。

「あるとするなら、地主の井上王・・・」

「なんでだよっ！」

理由は「金持ち」だから。

昨日、鎖の封鎖が破られていた『侵入禁止』看板のところまで来て、
事態の悪化は、確証めいたものになりました。

「看板も鎖もない・・・・」

「たぶん。役場か警察がはずしたんだ・・・」

「井上んちの許可なく？」

「それはないと思うけど・・・・・」

しかもそこから、何台もの車が山へ入った跡がありました。

「くっそーーーーーー」

もはや遅きに失した感さえあります。
モロッコは無事なのでしょうか？

「行ってみよう！」
「いや。井上の土地なんだから、許可とらねぇとー」
「なに言ってんだ？今さら・・・」

「いかがでしょう？井上王子」

「うむ！」

「じゃ、夕子姫はいただきます」

「誰がそこに『うむ』って言った！」

「いや～～～、物事はよく解釈しないと」

「勝手によく解釈するな！」

「じゃ、せめて夕子姫の熊・・・」

「ダメだ！」

「くそ・・・・相続税で苦しみやがれ！」

なんてリアルな負け惜しみ。
かつて孝昭くんが言った負け惜しみでも、ダントツ、リアルです。

「く・・・・！」

しかも効果は抜群だ！

鎖の封鎖がなかったので、僕たちは、初めてバイクで赤土山を登ることになりました。
四輪と異なり、オフロードは腕の差が歴然と表れます。

最も先頭に出たのは、意外なことに、オフローダーDT125に乗るチャーリー。
新聞配達用ヤマハメイトで、しかも後ろにジェミーを乗せた僕は、ドンケツ。
荒れた道路。車のわだちで、うまく運転できません。

「先輩～～～、遅いですね～～～～」

「うるさいな～。なんならお前、降りてもいいんだぞ！」

「あ、そんなこと言っていいんですか？原付で二人乗りしてるくせに」

「お前が乗ってるから二人乗りなんだろ？」

「あれ？」

こいつ・・・物事の根本をわかってない。

「和美センパイならうれしかったですよね？」

「あ？まぁ、そうだな」

お前よりはなー。

「右の和美センパイ？左の和美センパイ？」

く・・・・。またつまらんことを・・・

「どっちでもいいよ」

「井上先輩の妹さんだったらどうですか？」

「なんで、今その質問をする!?」

「フッフッフ。運転に迷いが出てますよ？先輩」

「降りろーーーーーーーーーー！」

あー腹立つ！あー殺したい！

しかし、一度止まったのは失敗でした。

惰性があったからこそ、50ccでも登って来られたのであって、新たに坂道で発進するのは、ヤマハメイトには酷でした。

「くそー・・・・。ジェミー、押してくれ！」

「わかりました！」

ドン！

「わぁ！バカヤローーーー！僕を押してどうすんだ！バイクだよ、バイク！」

「なんだぁ。最初っからそう言ってくださいよ～」

「じゃ、バイクを押せ」

「あーーー！それが人に物をたのむ言葉ですか？」

「なんだとぉ・・・・！」

しかし、ここは僕が歳上。
これ以上みんなに遅れをとるわけにはいきません。

がまんがまん。

「わかったわかった。そいじゃー、押してください」

ああ。めんどくせー。

「わかりました！」

ドン！

「おわぁ！だからなんで僕を押す!?」

「だって、『バイク押してください』って言わなかったじゃないですかー」

「こいつぅううううううう！」

「わ～～～～なにするですか～～～～～～」

すっかり、みんなに遅れをとった僕とジェミーです。



人気ブログランキング｜ブログ村ランキング

　ぼくちゅう10からへ→
　ポップコーン戦線 第32話へ→

　▲ポップコーン戦線 目次へ

　▼ぼくちゅう掲示板へ

関連記事

• 『ポップコーン戦線』第32話
• 『ポップコーン戦線』第31話
• 『ポップコーン戦線』第30話