ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「クマが？」「里を」

情報源がよくありませんでした。
なにしろ、天下の警察機関、駐在所です。

「そうなの。それで、主人、今日は赤土山に行ってるのよ？」

「どこからそんな情報が？」

「地元の猟友会からみたいね。だから放ってもおけなくって」

猟友会・・・・・。

この時、ピンと来ました。

クマはナワバリに厳しい動物です。1匹クマがいれば、そのまわりには別のクマは寄って来ません。
一番下まで来ていたのは、あのワナにかかった母熊。
もしくは、おそらくその子のモロッコですが、モロッコはむろんのこと、母熊も里に降りられる状況にありません。

　これは、あのハンターが仕返しに仕組んだのではないのか？

もし、里にクマが出た、という情報があれば、彼らは堂々と私有地である赤土山を探索できます。
むろん、クマを撃つことも。
それどころか、1匹しとめれば、役所から報償さえ出るのです。

しかし。ひとつだけ、雄グマの可能性だけが残されていました。
このため、僕たちは、それを「確証」として、奥さんに伝えることができなかったのです。

「あ。それより、ママチャリくん、テンホーが子供産んだのよ？見てく？」

「テンホー・・・ってなんですか？」

「あー、そうね。ママチャリくんたちが連れて来た犬よ」

「あーーーー、ラード王・・・・って、なんでテンホーなんですか？」

「さぁ・・・・よくはわかんないけど。主人が、『来た時からすでにデキてた』からテンホーなんですって」

「・・・・・駐在さん、そん時、麻雀やってたでしょ？」

「あら。よくわかるわね。五十嵐さんたちと。もう、愛が隣りで寝てるってのにねー」

「やっぱり・・・・」

来た時からすでにデキていたから『天和（テンホー）』・・・。
＜天和＝テンホー。麻雀でパイを配布された時点で、すでに役ができていること＞

ラード王より悪いかも・・・。

「あ。やっぱり、『ドラドラ』のほうがよかった？」

「ドラドラ・・・・・それも・・・・駐在さんが？」

「そう。でもねぇ、メスなのに『ドラドラ』ってねぇ・・・・おかしいでしょ？」

テンホーだって、じゅうぶんにおかしい。
それ以前に、犬に麻雀の役って・・・なに考えてんでしょうか。

「あら。でも、最初はもっと悪かったのよ？」

「最初は・・・なんて？」

「カズミ・・・って・・・・・」

和美だあああああああ？

あ。わかった！駐在さん、『和美が出産した』だけで、僕をからかうために・・・！
なんて警察官でしょう!?

「し、信じられん・・・・・」

「そうよねぇ。わたしもさすがに反対したもの。だってカズミちゃんって・・・ねぇ」

「ありがとうございます・・」

「だって、西条くんの猫でしょ？」

「あが？」

ああ・・・。
なんてニブくて幸せな人なんでしょうか。奥さん。

「そ・・・そうですね・・・・西条の・・・・・」

今は長内さんの猫ですけどね。

「こっちよ？玄関先に置いてるの。テンホー」

テンホー・・・いくら聞いても馴染めない・・・。

見せてもらいました。元ラード王、現テンホーの子供たち。

　キュ～ン
　　キュ～ン

「ウフフ。かわいいでしょ？6匹生んだの」

「へー。6匹も・・・そんなお腹には見えなかったけどなぁ」

「主人ったら、もう名前までつけちゃって♪」

「え・・・・子供にも・・・・駐在さんが・・・？」

「そう。左から、ピンフちゃん、チートイちゃん、タンヤオちゃん、イーペーコーちゃんと、それからなんだったかしら・・・」

全部、麻雀の役!?
イーペーコーちゃん!?

「あ！コクシムソーちゃん！」

聞かないほうがよかった・・・。

国士無双・・・・。
強そうではある。



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