ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「あれ？なんで山登ってんだっけ？」

歌にうつつを抜かし、本来の目的がすっかり吹っ飛んでいるみんなでしたが、

「小熊の確認だろ？」

今日は、グレート井上くんがいるので、きっちり締まります。

「あ。そうだったそうだった」
「さすが地主はちがうなー」

土地の所有とは関係ないとは思いますが。

しかし、さっき追いかけて来た位置には、小熊はすでにいなくなっていました。

「反省して帰ったかな？」
「反省はしねーだろ・・・」

「♪白帯さんたら読まずに逃げた～」

さらに登っていきますと、

「いた！」

小熊は、元いた土手に戻っていました。

「親熊もいるってことだぞ！に、逃げろ！」

「まー、待て」
と、西条くん。

「また逃げたら、また追っかけて来て、そいで、また登って来たら、またいて、また逃げてまた追っかけて来てまた登って～～～」

「～～～～永久運動だぞ？ここで卒業式迎えるつもりか？」

「わかったわかった・・・」

そんなにはやってられません。

「ここは俺が責任持つから」

「おお！」
「さすが西条！」
「空手バカ一代読んだだけあるな！」

「まぁなー。ジェミー！行け！」

「なんでそうなるですか～～～～～～！」

「俺が責任持つって！」

「責任持つなら、自分で行ってください～」

ジェミーが断固固辞したため、
やむをえず、全員固まってジワリジワリと近寄りました。

「ああ・・・こんなことならラード王、連れてくるんだった・・・」

「それは言わない約束でしょ？」


すると・・・

小熊の隣にミルク缶。

「和美出産祝いだ・・・・」

それも言わない約束でしょ？

しかし、フタが開いていません。

「ひょっとしてアイツ・・・・」
「フタ、開けてくれってこと？」

缶には、臭い穴だけが空いています。

「まさか。小熊だぞ？そんなにかしこいわけないだろ」
グレート井上くんは言いますが。

小熊の表情は、確かになにかを催促しているようでした。

試しにジワリと、さらに近づくと、
小熊はちょっとだけ後ずさりはするものの、ミルク缶から離れません。

「あ。わかった！」

「なんだ？井上」

「あれ、ミルクの臭いが残ってるんじゃないのか？」

「奥さんの？」

「粉ミルクのだよっ！なんで奥さんの母乳はいってんだ！」

「あーーー・・・・」

熊は臭覚で動く動物です。
犬の臭覚のよさは、よく知られていますが、熊の臭覚はその10倍！(←本当）
目よりも、ずっとよく働くのです。

「じゃ、お前の臭いも嗅ぎ分けてんじゃねーか？」

「僕の？」

「だって、和美の赤ん坊の親はお前だろ？」

「なんでそこでそうくる・・・・・？」

しかし、あのミルク缶をずっと抱えていたのが、僕であったことは間違いありません。
犬の10倍も臭覚があるのであれば、それくらいは嗅ぎ分けているかも知れません。

「じゃ・・・・僕に、開けてくれ、と？」

「かもね・・・・」

他のメンツはともかく、グレート井上くんが同意すると説得力があります。

とは言え、どこから母熊が襲ってくるかもわからないのに、うかつに近寄れません。

「あ。そうだ！」

「ん？西条。なんか浮かんだか？」

「アイツを『小熊王』と名付けよう！」

「なんだって名前なんだよ！」
「つーか、なんだって必ず王なんだ！」
「つーか、弱いのか強いのかわかんねーぞ！」

「こぐま王、りゃくして、『こぐ王』！」

「略し方が不自然だぞ！」
「つーか、一文字しか減ってねーぞ！」
「略す意味あんのか！」

「ダメ？」

ダメと言うか。
議論以前に名前がいらない。

しかし。よほどお腹が空いているのでしょう。
僕たちがどんなに大声で騒いでも、その場から離れようとしません。

小熊は、ミルク缶に残ったミルクの臭いと僕の臭いから、僕のことを「敵ではない」と判断したようです。

それなら・・・・応えるしかありません。

「よ・・・・よし！行ってくる！」

「マジか？」
「やめろって！」

「あの小熊は缶を開けられないんだ。西条、孝昭、援護してくれるか？」

「よっしゃ！」
「いいぜーーーーー」

小熊は、たじろぎもせず、じっと僕たちを見ていました。



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