ぼくたちと駐在さんの700日戦争

なんとなんと。
喰われにもどってまいりました(泣)。高校生ポップコーン添え・・・。

「駐在さんにでもたのめばいいものを・・・」

そう。熊が出た時は、役所か駐在所に届け出るのが普通です。

「ああ？駐在のほうがまずそうだろうが？」

「いや・・・」

立場が「ゴチソウ」になってるぞ？西条。

しかし。そこは西条くん、

「いいか？俺と孝昭が前に出る。お前らは後ろに下がれ！」

「西条・・・」

自分が前に出て、僕たちを後ろへとまわしました。

さすが武芸の達人。
よほどの自信があるようです。

「『空手バカ一代』でも、大山倍達（おおやまますたつ）は、熊ぁ倒してたからな！」

「え！根拠ってマンガ？」

＜『空手バカ一代』=1971年から少年マガジンで連載された、極真空手の祖『大山倍達』の半生を描いたマンガ。73年からはテレ朝系でテレビマンガにもなった。実際に熊と闘ったらしい＞

「ああ！大山先生も『熊殺し』って言われたくらいだ」

「いや、大山益達は10段だろーがぁ。西条は3段だろ？」

「フ・・・そう思ってたか？」

「え？ちがうのか？」

「あのマンガを読んだ後の俺は強いぜ！」

「・・・・・」「・・・・・」「・・・・・・」

「それはいいけどさ・・・西条」
と、チャーリー

「あ？なんだ？」
鼻息も荒く西条くん。

「大山倍達って・・・『牛殺し』じゃなかったっけ？」

「え・・・・そうだっけ・・・？」

チャーリーってば・・・余計なことを・・・・。

「ま・・・まぁ・・・熊なんぞ、逆さまにして3回ふれば眠る！」

「そりゃニワトリだろ？」
「ってか、熊、どうやって逆さまにするんだ？」
「持ち上げらんないだろー」

話せば話すほどに不安になる道中。

でしたが・・・

「ありゃ・・・・？」

さっきの熊の所にたどりつくと。

「熊は？」

「いる！ほら！」

さっきよりは、少し下に黒いかたまり。
いるにはいるのですが。

「寝てる・・・のかな？」
「いや・・・様子がおかしい」

熊はうずくまったまま。まったく動く気配がありません。
僕たちは、あえて賑やかにして来ましたから、熊は絶対気づいたはずです。

「んんん？」

すると、

「こ、こら！西条！あぶないって！」

僕たちの忠告を無視して、どんどん熊のいる土手を登る西条くん。

「ワナがあるから、お前らは来るなよーーー」

「どっちにしろ行かないってー！」
「いいからさっさと降りて来ーい！西条！」

やがて5mほどにも熊に近づいた西条くんから、

「死んでるーーーーーーーー」

「え！」「そんなバカな・・・」

「罠につかまったまんま死んでるーーーーー」

うそ？

「ほらーーーー」

　パン！　パン！
　
西条くんが手拍子をしますが、熊はビクとも動きません。
空しく山からこだまだけが返ります。

「やっぱり死んでるーーーーーーーー」

「いや・・・さっきは間違いなく生きてたぞ？」

確かに。

「たぶん・・・・あれが最期の力だったんだ・・・・・」

熊は。我々が近づいたことで、最後の力をふりしぼって対抗しようとしたのですが、それからわずかして、こと切れてしまったのです・・・。

「なんかぁ・・・わりいことしたな・・・・」

「いや・・・僕らが来なくっても死んでたって・・・」

死んでいるとわかっても、僕たちはそれ以上に熊に近づくことはできませんでしたが。

西条くんは平気なようで、熊のところまで行くと、

「あ。ほら・・・。足、罠に挟まってる・・・・。相当、もがいたんだなぁ、こいつ」

「あ、あぶないって！西条！」

「もう・・・動かねーよ・・・」

それから、

　カチャ・・・

杖にしていた棒を使って、熊の足の罠をはずしました。

「痛かったろうになぁ・・・・」

「まぁ、熊だから」
と言う孝昭くんに、

「熊だろーが痛てーもんは痛いって！」

少しムキになる西条くん。
普段、喧嘩三昧の西条くんが言うと、奇妙にも聴こえましたが。

「そりゃそうだろうけどよ・・・・」

「まわりの草木は全部喰ってる。そうとう腹へってたんだよ」
「だから、こっちから見えたんだな」

そのおかげで、僕たちの居る所からも、熊は確認できました。
熊はうずくまる、というよりは、腹を半分見せた状態でした。
普通、飢えた動物は、腹を下にして死にます。

おそらく、僕らに対抗しようとした時の姿勢から、そのまま死んだのでしょう。

「人さえ来なきゃなぁ。のどかに生活できてたもんを・・・」

西条くん、熊に手を合わせると

「埋めてやれなくってワリーな・・・森田いりゃ、念仏のひとつもあげてやれたんだがよ・・・・」

そう言いながら、熊の口もとに、持っていたポップコーンをぱらぱらと撒きました。

「そうとう・・・うまそうな匂いに思えたんだろうなぁ」

「ああ。鼻・・・あん時は動いてたもんな・・・」

「ほら。全部やっからよ・・・・。天国で喰えよな・・・？」

西条・・・・・。

僕たちも、初めて見る野生動物の壮絶な最期に、涙をさそわれました。

が・・・・

「んんんんん？」

「どうしたーーー？西条ーーーーー」

「げっ！動いた!?」

マジ？？？

「バカ西条がぁ！クマ生きてんじゃん！」

「念仏あげなくってよかったなー」
「そういう問題じゃねーーーー！」

「に、逃げろ！孝昭！」

「みんな！逃げろーーーーーーーー！」

またかよ(泣)



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