ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「盗みはダメだろう」
今さら理性をとりもどすグレート井上くん。

「盗んでも罪にならないものはある」
と、僕。

「なんだ？」
「カラスとか？」
「人の妹とか？」

人の妹は盗んだら罪だろーーーー

僕が言うまでもなく、すでに小競り合いが始まっています。

「音だ」

「音？」
「あーーー、録音するってこと？」

「そう！」

なにもカーちゃんを盗む必要はありません。

「一度、カーちゃんがしゃべったのをテープレコーダーで録音すれば・・・」

音を録って来るだけなら罪にはなりません。

「あーー、あとはそのテープを聴いて、役立てればいいんだな？」

「そ・・・そう・・・」

どういう役に立てるかは、ともかくとして・・・。

「あったまいい～～～！」

駐在さんのタイムテーブルは、押さえています。
いつ、駐在さんがパトロールに出て、いつもどるかがわかっているのですから、

「そん時、カーちゃんを引きずり出せればいい」

「なる！」

問題は、どうやってカーちゃんを駐在所の中まで連れ出すか？ですが、

偵察隊、ジェミーによりますと、

「カーちゃんは、午前中、晴れると外に日光浴に出す」らしいのです。

「それだ！ジェミー！よくやった！」

が。ご存知かどうかわかりませんが、高校生という職業には、午前中は「授業」というものがあります。

「うーん・・・。カラスの声聴くのに授業サボるってもなー・・・」

そんな高校生は、全国探してもいません。

でも、出した結論は、

「体育ならなんとかなるぞ？」

ということになりました。

作戦としましては、

「体育の授業で、ひとりかふたりケガ人を出す！」

「うんうん！」
「ケガ人出すんならまかせとけ！」

「いや・・・孝昭。なんで指ならす？そういう意味じゃないって」

もちろん、ひとりは仮病、というか、仮怪我です。

「サッカーなら、容易にケガ人を出せる！」

奇しくも、この時期の体育は、サッカーでした。

「ああ、5、6人なら病院送りできるぜ！」

「だから、そういう意味じゃないって・・・孝昭・・・」

「とにかく、次の体育でケガ人を出そう！」
「おおーーーーーー！」

「ケガ人を出す」ことで張り切るってのもめずらしいですが。

とにかく、ケガ人がひとり出れば、つきそいを含めて3人は、サボれます。

という策を練り、体育にのぞんだのですが・・・。

「本日から～～～～、槍投げをやる！」

「槍・・・・・」「投げ・・・・・」「・・・・・」「・・・・・」

「槍投げはやばいなー・・・」
「誰か刺されよ・・・」
「いや・・・ヘタすると死ぬぞ・・・」

死にます。

というわけで、作戦順延。したのですが、

「次回は、砲丸投げをやる！」

「砲丸も・・・死ぬよな？」
「たぶん・・・・」
「お前、当たれよ・・・命中させてやっから」
「や、やだよ・・・・」

悪事と言うのは進まないものです。

しかし、グレート井上くんから、
「なにも、ケガである必要はないんじゃないか？」
という、ごくごく当たり前の、意見が出されました。

「あ！それもそうだ！」

結局、グレート井上くんを使って、女子たちを口説き、次の授業を、
「あ。さっきの体育で気分悪くしたらしくってー」という理由で、サボりました。

そのまま勢いにのりまして、テープレコーダーを持参で駐在所。

奥さんは、この時間、お買い物に出られるので、いらっしゃいません。

「どこだ？カーちゃんは！」
「あ、あそこだ！あそこにカゴかかってる！」
「やりぃ！」

ジェミーの情報は本当でした。
住居部の外側にカラスのカーちゃんの籠。

「なんか・・・他のカラスも来てる」

孝昭くんが気づきましたが、それどころじゃありません。

「さぁ！カーちゃん、しゃべってくれよ～？」

テープレコーダーわくわくスタンバイ！

「カーちゃん、オハヨ？」
「オハヨー？」

またも「オハヨー」で青春を浪費する僕たちです。

この日、カーちゃんは、外に出ていて機嫌がよかったのか、

”オハヨーーーー”

前回の苦労がウソのように簡単にしゃべってくれました。

「やたっ！」

その喜び！

”オハヨーーーー”

続いて、

”♪ウ～～ンコチ～～ンチン”
”♪ウ～～ンコチ～～ンチン”

例によって、「ウンコチンチン攻撃」です。

しかし、ここまでは想定の範囲内。
ここでひるんではいられません。

西条くん、
「そうじゃなくってよーーー。アナターは？アナター？」

すると。一念岩をも通すというやつでしょうか。

”アナタ～～～”

「やったぁ！」

”アナタ～～～ゴハンヨ～～～”

おお！新パターン！

「な？生活の言葉、ほぼ覚えてんだろ？」
「うんうん！」

可能性がグンと高まりました！

ところが・・・ここからが長かった・・・・

確かに、いろんな奥さんの台詞をしゃべるにはしゃべるのですが、色っぽいものとはほど遠く・・・。

西条くん、とうとうイラつきだしまして、
「そうじゃなくってよー。カーちゃん。アッハン、ウッフンだろ？」

”アナタ～～～”

「そうじゃなくってよ！奥さんの声聴かせろよ！」

ここから「アッハンウッフン」誘発作戦です。

「アッハ～～～ン♥」「ウッフ～～～ン♥」
「イヤ～～～～ン♥」「ダメ～～～～ン♥」

なにやってんでしょうか？

そしてそしてそしてとうとうとうとうとうとう、カーちゃん、

”アッハ～～～ン♥”

「おおおお・・・・！」

「って、今の西条の声じゃん！」
「バカかっ！！！」

そう。なんとなんと、カーちゃん。西条くんの「アッハンウッフン」を覚えてしまったのです(泣)

そればかりではありませんでした。

”ソウジャナクッテヨ！オクサンノコエキカセロヨ！”

げっ!!!

「い・・・今のって・・・」

”ソウジャナクッテヨ！オクサンノコエキカセロヨ！”

「西条のさっきの台詞だ・・・・」
「お・・・覚えたのか・・・・・」

「あ・・・あたまいいなぁ・・・・カーちゃん・・・」

言ってる場合じゃありません。

「こ、こんなの駐在さんに聴かれたら・・・」

”ソウジャナクッテヨ！オクサンノコエキカセロヨ！”


”アッハ～～～ン♥　ウッフ～～～ン♥”

「ちゅ、駐在に、こ・・・殺される・・・・・」

”ソウジャナクッテヨ！オクサンノコエキカセロヨ！”




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