ぼくたちと駐在さんの700日戦争

第2話『オハヨー！カーちゃん』(2)

やがて夕方近くになり、
カーちゃん、

”オハヨ～～～～～”

「おお・・・・！」
「しゃ、しゃべった！」
「ほ・・・ホントに・・・」

カラスがしゃべるのが、こんなにうれしいなんて・・・。
みんな涙が出るほどよろこびました。

だって、「オハヨー」の割合は、人1000回に対しカラス1回。
これくらいやれば、タカギもしゃべる気がします。

「ほら。言った通りだろ？ゼェゼェ・・・」

得意満面の駐在さんですが。ゼェゼェ言ってんじゃん・・・。

「うんうん・・・」
「ついにな・・・」
「よかったなー・・・駐在ーーー・・・」

「うんうん！ありがとー！ありがとー！」

握手などしてますが、なにやってんだか・・・。

ところが！

ここからカーちゃん、堰を切ったようにしゃべり出したのです！

”オ～～～イ！カナコ～～～～～”

「え？」「まじ？」「すげ！」

「だろ？」

そればかりではありませんでした。

”アンタ？アノコノナンナノサ”

「おお！ダウンタウンブギウギバンド？」
「港のヨーコ・ヨコハマヨコスカじゃん！」

「ああ。最近テレビでよく流れるからな。覚えたんだ」


＜『港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ』＝宇崎竜童ひきいる『ダウンタウンブギウギバンド』の大ヒット曲。「あんた、あのコのなんなのサ」という台詞が大流行した＞

「す、すごいじゃないですか！駐在さん！」

「だからすごいつってるだろー」

駐在さんが手放せなくなったのもわかる気がします。

やがて、誰と言うでもなく、
「これ、テレビ出したらどうだ？」
「うん。出せるぞ、テレビ」
「うんうん！絶対出せる！」

「え？い、いや。それほどでもないだろ」

「いやー！出せますよ！駐在さん！」
「これは出すべきだ！」
「宇崎竜童も出てんだから！」

ここは宇崎竜童の出演とは無関係だとは思うのですが。

しかし、声もしっかり宇崎竜童で、いかにもテレビが喰いつきそうです！

「出すべきですよーーー！駐在さん！」
「そうだそうだ！すっげぇギャラ入るぞ！」

強くすすめる僕たちに

「え？い、いや。カラスがしゃべる程度じゃ出られないだろ」

めずらしく消極的な駐在さん。

「いや、カラスだからこそ出せますよ！」

しかも助けたカラス。美談です。

その間にも、カーちゃん。

”チョットマエナラオボエチャイルガ～”

「すげぇ！歌詞まで覚えてんじゃん！」
「テレビ出しましょう！」
「そうだ！井上、オヤジに頼んでみろよ！」
「あ、そうだね！電話お借りできますか？」

すぐにでもテレビ出演を薦める僕たちに対して、

「や、やめろ！井上！よけーなことすんな！」

駐在さん、俄然拒否。

「なんでですかぁ！」
「そうだぞ！駐在！こりゃ大スターだ！」

「よけーなことすんなつってるだろ！」

「なんで？」

「お、俺はそういうハデなのはキライなんだ！」

「じゃ、加奈子さんに出てもらえば」

「な、なおさらダメだ！ダメっつったらダメだ！」

またも意固地な駐在さんです。

あげくの果てには、

「お前ら！余計なことしたらタダじゃおかないからな！」

「？」「？」「？」「？」「？」「？」

その間も、カーちゃんは、べらべらとしゃべり続けます。

”カミノナガイオンナダッテ～～～？ココニャータクサンイルカラネー”

”アンタ？アノコノナンナノサ”

「やっぱ、そっくりだ！」
「こんなにすごいのになー」
「なんでテレビ出さないかな」
「もったいない・・・・・・」

不思議でしたが、その答えは、カーちゃん本人が教えてくれました。

「うるさい！お前らにとやかく言われる覚えはない！」

と、駐在さんがどなって、静まり返った駐在所に、
カーちゃん、




”ウ～～～～ンコチ～～～ンチン♪”




「！」「！」「！」「！」「！」「！」「！」

その後は、もう、クセになったかのように、

”ウ～～～～ンコチ～～～ンチン♪”
”ウ～～～～ンコチ～～～ンチン♪”
”ウ～～～～ンコチ～～～ンチン♪”

連呼！

「・・・・・」「・・・・・」「・・・・・」「・・・・・」

「い、いやぁ・・・。最初、女房がな？カーちゃんがしゃべったっつーんでな？まさかカラスが～、ってバカにして・・・、冗談で教えてみたら覚えたんだ・・・・」

”ウ～～～～ンコチ～～～ンチン♪”
”ウ～～～～ンコチ～～～ンチン♪”
”ウ～～～～ンコチ～～～ンチン♪”

「これが一番、言いやすいのか、一度言い始めると連呼するんだよな～～～～～。カーちゃん・・・」

”ウ～～～～ンコチ～～～ンチン♪”
”ウ～～～～ンコチ～～～ンチン♪”
”ウ～～～～ンコチ～～～ンチン♪”

さらに、

”■■■■■■■■■■■”

「・・・・・」「・・・・・」「・・・・・」「・・・・・」

”■■■■■■■■■■■”
”■■■■■■■■■■■”
”■■■■■■■■■■■”

「な？テ、テレビで言われると困るだろ？」

「バカかっ！駐在！」
「ったく！余計なもん教えやがって！」
「なに考えてんだっ！」

「いや～～～～～～～～～カラスって頭いいな～～～～～」

「アホ駐在！」

こうして、駐在さんのアホのおかげで、天才カラス「カーちゃん」は、世に知られることはなかったのです(哀)

”ウ～～～～ンコチ～～～ンチン♪”



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