ぼくたちと駐在さんの700日戦争

第1話【オハヨー！カーちゃん】

駐在さんも動物はお好きです。
好きなんてもんじゃありません。
以前、駐在所では、20匹からのネコを飼っていたことがありました。

「好きで飼ってたんじゃねぇ！」

あれ？

「お前らがマタタビで集めたんだろーがっ！」

「だって好きそうだったから・・・」

「やかましぃっ!!」

そうは言いますが、駐在さんの動物好きは有名。
ちょっと前までは、駐在所の住居部で、得体の知れない黒い鳥を飼っておりました。

「カラスだ。バカ野郎」

名前を「カーちゃん」。

「カーちゃんってなー・・・」
「まんまだな・・・」
「ってか、母ちゃんと区別つかない」
「タカギといい勝負の命名だ」

うるさいなー。久保家の『高木ブー』は、小学校の時だっちゅうに。
対して、駐在さんはすでに三十路。

「お前らに、鳥の名前まで指図される覚えはない」

ということで、カラスのカーちゃん。
朝方に、駐在所の窓へ突進して来て、脳しんとうだかなんだかを起こしたヤツを、駐在さんが助けたらしいのですが、

「おそらく、とある夜に娘さんになって恩返しに来るのを期待したんだな」

「西条と一緒にすんなっ！」

とにかく、落ちた得体の知れない鳥を飼うほどの動物好き。

「だからカラスだっつってんだろーがぁ！」

この「カーちゃん」。ケガが治ったらはなしてやるつもりだったのが、
なんとなんと！
飼ってるうちにしゃべるようになり、手放せなくなったのだとか。

「カラスがあああ？」

「カラスは頭いいんだ。お前らよりずっと頭がいい」

「言ったなー！なら、高校入れてみろよ！」
「そうだそうだ！うちの高校入れてみろ！」

マジになって怒るほどのことでもなかったのですが、
このへんが三流高校のつらさ。
もし、これがKJ館の生徒であったなら、カラスと比較されて怒るようなことはないでしょう。

「それがなー。カラスは、鉛筆が持てないんだ」

「くぅ・・・・・！」

しかも、こんなセリフで言い負かされてます。

　がんばれ！三流高校生！
　負けるな！三流高校生！

「い、今はマークシートなんだぞ!?」

うーん・・・。その口答えでは、まだ負けてます。

駐在さん談によれば、
「お前らもまっ青になるくらいのセリフしゃべる」らしいのですが、

このひきあいに、
「少なくとも村山よりはしゃべる」

などと言ったものですから、僕たちが一斉に激怒！

「そこまで言うなら聴かせてみろ！」

ということになりまして、駐在さん、
奥から連れて参りました。しゃべるカラス、カーちゃん。


「カーーーちゃん？カーーーーちゃん？」

（アホだな。この駐在・・・）
（前前からわかっちゃいたが・・・）

「あれ？今日は調子悪いな。カーーーーちゃん？オハヨウは？」

しゃべりません。

「うーん。人相の悪いの揃ってるからかな？オハヨ？オハヨ？」

「しゃべんねーじゃん」

「うるさい！黙って聴いてろ！カーーーちゃん？オハヨウ？」

　ーーー　10分経過　ーーー

「オハヨ？オハヨーーー？」

しゃべりません・・・。

少なくとも、いかに寡黙とは言え、村山くんなら、10分以内には返事します。

「カーーーーちゃん？カーーーーちゃん？オハヨ？」

　ーーー　20分経過　ーーーー

「カーーーーちゃん？カーーーーちゃん？オハヨ？オハヨ？」

「駐在さん。僕ら学校にもどりますので・・・」
「部活あるし・・・」
「しゃべったら駐在所放送で呼んでくれ」

が。駐在さん
もともと大人げないですから、すでに意固地になっちゃってまして、

「やかましい！こうなったら、カーちゃんがしゃべるまで帰さん！」

「え～～～～～～～～～～～～!!」

「一歩でも駐在所を出てみろ！逮捕してやる」

「え～～～～～～～～～～～～!!」

そんな交番、あるか？

「お前らを逮捕するネタはいくつでもあるってことを忘れるな！」

「くう・・・・う・・・・」
「なんて警察官だ・・・・」

で。
なぜか、みんなで、

「カーちゃん、オハヨ？オハヨウ？」
「カーーーちゃん？」「オハヨ？」
「オハヨー？カーーーちゃん？」

一転、しゃべってもらわないと困る立場になったので、必死です。

「オハヨー？オハヨー？」
「カーちゃん？オハヨー？」
「オーハーヨーーー？」

この二度とない大切な青春のひとときを、「オハヨー」で費やすとは・・・(泣)

やがて1時間もした頃に、カーちゃん、

”バカ～～～～～～”

「あ。駐在！今、カーちゃん、バカって言ったぞ」
「うん、言った言った！間違いない！」
「さぁ帰ろう！」

それは、どう考えても、フツーーーーのカラスの鳴き声なのですが、背に腹は代えられません。
はやく『オハヨー地獄』から開放されたい一心です。

「うんうん。カーちゃん、すごいな！」
「村山よりしゃべる！」
「そいじゃ、さいなら～～～～！」

なのに駐在さん、

「いや。カーちゃんは、もっとちゃんとしゃべる」

「くう・・・ううう・・・・・・！」

（このバカ駐在があああ・・・・！）
（必ず復讐してやる・・・・・！）

こうして、なおも続くオハヨー地獄。

「カーちゃん、オハヨ？オハヨ？」
「オハヨ？」
「オハヨー？カーーーちゃん？」

延々と。

「オハヨーーー？カーーーちゃん？」

＜クイズ：この話に『オハヨー』は、いくつあったでしょう？＞


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