ぼくたちと駐在さんの700日戦争

毎年、大晦日は、ソバ屋は大忙しですが、
この時期、いっきに暇になる職業があります。

そうです。クリスマスの最盛期を越したケーキ屋さん。

ところで、クリスマスケーキというヤツは、毎年、予想でつくられているので（予約制は波及していなかった）、けっこう残ります。

今年ケーキ屋メルヘンは、数の読み違いをして、大量に余ったようでした。

そこで、メルヘン会員様ご優待、年越しパーティを開いたケンちゃん。

「野郎ども。お足下の悪い中、よく来やがったなー」

「・・・・・」「・・・・・」「・・・・・」「・・・・・」

「では、今年のご愛顧に感謝して、年越しパーティを始める！」

「あの・・・・」

「なんだぁ？早乙女」

「いやぁ・・・。年越しってケーキでなのかなぁ、って」

「ケーキ屋なんだからあたりめーだろ？」

「でも、これ、クリスマスケーキでは？」
「そうそう・・・かれこれ1週間前・・・・」

「ちがう！」
と、ケンちゃん。

「これはお前らのためにつくった特別製、年越しケーキだ！」

「でも、この上に乗ってる、かわいい蝋細工は～・・・」
「サンタさんじゃ・・・・？」

「あん？よく見ろ。そりゃ恵比寿様だ」

「恵比寿・・・・」

「袋持ってんだろうがよ！」

「いや・・・サンタさんも持ってやすからねぇ・・・・」

「ほほぉ。するってーと、なにか？早乙女。俺が恵比寿様つくるのがヘタクソだと？」

「い、いえ、とんでもないっス！」
「恵比寿様っス！」「まちがいないっス！」

恵比寿様のようです。

「でも、ちと、恐れ多いんですがー、実はここに・・・・・」

「あー、るせーなー！早乙女はぁ！なんだ！」

「ちょっとカビみたいなのが・・・はえてんですけど？」

「あん？そりゃペニシリンだ」

「ペニ・・・・」「シリン・・・・・・」

「ペニシリンは身体にいいぞー！なんてったって抗生物質の親分だからな！お前らみたいな生傷たえねぇやつにはちょうどいい」

「いや～～～～～・・・」「でも～～～～～・・・・・」

早乙女さんたち、ゴールド会員の不満がおさまらないようなので、

「わかったわかった！ちゃんとお前らのために、小豆粥用意してっからよ！」

京都には、年越しに『小豆粥』を食べる風習があります。

「ほんとっすか！ケンイチさん！」
「さすがケンイチあにぃ！」
「ありがとうございやす！」

「おーーーーーーい、花ぁ！」

「は～～～～～～い♪」

と、メルヘンに勤める姪っ子の花ちゃんが、小豆粥を持って来てくれました。

「早乙女ちゃ～ん。たんとめしあがってね～～～～♪」
と、花ちゃん。

「へい！」「ありがとうございうやす！」

「へ～～～～。これが小豆粥～」「京都の人はシャレてますね～」
「見た目はグロテスクだけど・・・」

「こりゃ、ありがた・・・・」

ズズ・・・・

「お花ちゃん。ちと聞きたいんだけど。・・・・これ、ダシは？」

「一応、バニラエッセンスでとったんだけどー」

「・・・・・」「・・・・・」「・・・・・」「・・・・・」「・・・・・バニラ」

「あれ・・・？マズかった？」

「・・・・い、いえ」「・・・・ただ、ちょっと」
「・・・・この世のものと思えなかっただけで・・・・」
「このナメクジみたいな固まりは？」

「甘過ぎないよう、かくし味として、イカの塩からも入れてみたの。冷蔵庫にあったから」

「イカの・・・・・」
「塩辛・・・・・・」
「隠れてないような・・・・」

「お前ら。そりゃ花に失敬ってもんだろ！テメーらみたいなゴロツキに、うら若き生娘がわざわざつくってくれたんだぞ？」

「へ・・・へい」「いただきやす・・・」「がまんします・・・」

ズズ・・・・
「ぶぉお・・・！」「ぐ・・・・！」「ううう・・・・」

目を閉じ、鼻をふさぎ、いっきに飲み込みますが、

「あの～、お花ちゃん・・・今、なんかデカい固まりが喉を通ったような気がしたんだけど・・・・」

「あー。それはねー、恵比寿様！」

「恵比寿・・・」

「だって余ったケーキ煮込んでつくったんだもん。サンタさんったら溶けなかったのねー。根性あるわ！あははは」

「・・・・・」「・・・・・」「・・・・・」
「今、サンタって・・・・・」

こうして大晦日も、楽しく過ぎるケーキ屋メルヘンでした。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

「あ～～～～今年も無事、終わったなぁーーーー」

会員はともかく、メルヘンは無事でした。

「そうだね。アンタ。1年間おつかれさま」
と、奥様、妙子さん。

「会員たちも、よろこんでよろこんで、そらもう腹かかえて笑ってたぜ」

会員が腹をかかえていた理由は、ちがう気もします。

そこへ・・・

　ゴーーーーーーーーーン・・・・・

「あ。ほら。アンタ、除夜の鐘が・・・・」
「あん？今から初夜は無理だろーーー」
「バカ！」

「あ。恵比寿様来るかも知れないから。靴下用意しとけよ？」

サンタと恵比寿様がごっちゃなメルヘンなのでした。

「どれ、俺らも花のつくった小豆粥とやら喰ってみるか」
「アンタ。それは、やめたほうがいいと思うよ～～～？」

「なに言ってやんでぇ！せっかくかわいい姪っ子が丹精こめて・・・」

ズズ・・・・

「くぉおおお！」


『年末年始はしばらく休業いたします　メルヘン店主』



本年のご愛読、まことにありがとうございました！
よいお年を！


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