ぼくたちと駐在さんの700日戦争

恵美ちゃんは美奈子さんの車が突っ込んで来ているどさくさで、すでに森田くんの手の中にありました。
これで僕たちにはなんの憂いもありません。

それにしても「処女を守る会」。褒美がかかっているためか、すさまじいとしか言いようがありません。
特に代表らしきかの大男は、ばったばったと手当たり次第に相手を打ちのめしています。見るからに必死。
うーん。よほど美奈子さん、好きなんだなー。

西条くん、孝昭くんは、言うまでもなく、真ん中につっこんで大暴れです。
なにが幸いするかわかりません。これだけの大騒動の中でも、サンタ帽が目印になって味方が一目瞭然です。堂島たちは私服であったために、美奈処連合がユニフォームを着て来ているのも幸いしています。
これは美奈子さんが予め設定していたのでしょう。

僕が戦況を把握していると

「おい！なにやってんだ！」
お欄さんが声をかけてきました。

「あっち！堂島、逃げるぞ！追いかけるぞ！」

見ると堂島と数人が、戦況の圧倒的不利を悟って、車の停めてある堤防のほうへと走っていました。

「はい！」

僕はお欄さんたちと走りました。


が・・・

ピピーーー　ピピーーーー　ピピーーー

「あ！僕のコロナが・・・！」

堂島が声を上げて驚いています。

「な、ない！」

ピピーーー　ピピーーーー　ピピーーー

見ると、堤防の道路に停めてあった堂島たちの車が、次から次に「レッカー移動」されていました。

ピピーーー　ピピーーーー　ピピーーー

あ！あれは！

五十嵐さんだぁ・・・。

「おい！お、おまわり！ぼ、僕のココ、コロナは？」

「あー？君の車かねぇ？ここ。駐車違反だから。ね。通報あったんでレッカー移動させてもらったよ」。

「ええええ！」

堂島は振り返ると

「み、みんなーーー！た、たた、たたた、たいへんだ！く、車！車！つかまってるぞおおお！」

どんなどさくさでも、さすがに駐車違反はこたえるらしく

「ええええええええ！！！」

車を運転してきている連中がおおあわてで堤防へとかけのぼってきました。動ける者に限ってですが・・・。

「いや！マッ・・おまわりさん！レッカー移動って・・。それ以前にやることあるでしょ？下の乱闘、み、見えないんですか？」

「ん。いやぁー。僕は交機だからねぇ。あっちのおまわりさんに言って。そういうことは」。
「次、この車ねー。なんか違法改造もしてるみたいだからー。これ絶対ねー」。
そう言いながら、堂島たちを完全無視でレッカー移動を続けます。

ん？あっちのおまわりさん？

それまでレッカー移動を手伝っていた「あっちのおまわりさん」がやってきました。

駐在っ！

「お、おまわり！駐車違反よりなんであっちの乱闘ほっとくんだ！？」
堂島。必死。

「ん？」
駐在さん。

「いや・・・。スポーツには口ださないぞ。警察は」。

「え！い、いやいや。あれ、スポーツに見えるか？」

「ん？見える！どう見ても大学の特訓だ！」

言いきる駐在さん。

「いや・・見える・・ってあんた！」

堂島の仲間はまだ五十嵐さんを説得にかかっていました。

「あ！あの河川敷のクラウンはいいのかよっ！」

五十嵐さん。
「はぁ？河川敷は駐車違反じゃないぞ。どこに標識がある？」

「じゃじゃじゃ、じゃーあのバスは！あの小型バスはどうなるんだよ！」
美奈処連合の相乗りしてきたバスを指差しますが

「そんなでかいの簡単にレッカーできるわけないじゃん」。

「ええええええええええ？？？？？」

美奈子さん・・・。ここまで仕組んでいたか・・・。



あっけにとられてこれを見ていた僕たちの所へ、五十嵐巡査長がやってきました。

「こ、こないだのマッ・・・おまわりさん・・」。
お欄さんもビックリです。

「あーーーー。早苗さんーーーでしたっけ？おてんばがすぎますなーーーー。あははは」。

「い、いや。あの、あたしはそんな・・・」。

はぁ？なんだこのしおらしさは。「助手席バンバンバン」のお欄が！


結局堂島のコロナをはじめとする8台くらいはすでにレッカー移動が終わっていて、残り7台は駐車違反キップを切られていました。

ただでさえ人数で不利になっていた堂島たち一派は、さらに運転手たちが抜けたため、あっという間にカタがついてしまい、全員がしゃがみこんでいました。それを美奈処連合とお欄さんの部下たちが取り囲んでいます。

いつの間に来ていたのか、僕の隣にはグレート井上くん。

「これで堂島は出頭だな」。
「ああ。駐在さん・・。別件逮捕したんだ・・・」。

別件逮捕なら起訴は必要ありません。ひとつ（駐車違反）は現行犯ですから、後の犯罪は自白してもらえば立件できます。

「さすがだなぁ・・・。駐在・・。というか美奈子さん・・」。
「うん・・・。ひとりでみんなかたづけちゃった・・・」。

「井上。例のネガ持って来てるか？」
「ああ」。
「それ、駐在さんに渡して。あおのり事件も、まだ時効じゃないはずだ」。
「わかった」。

駐在さん、グレート井上くんからネガを受け取ると僕の元にやってきました。

「まったく、お前らには手をやくよ・・・」。

「え・・・。駐在さん。まず義妹さんに言ってくださいよ」。

「ははは。まったくだなー」。



Merry Christmas!!!



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