ぼくたちと駐在さんの700日戦争

＜本日フィナーレ。第120話からどうぞ＞


みんなは、僕の悩みや、孤独感もお見通しでした。

特にこの男。

「軍師がブレてんじゃよ。しかたねーだろ」

「西条・・・・・」

その通りだ・・・。


ケンイチ兄さんの報復は、やはり身元引き受け人が止めたようです。
いえ。正確には、止めたのは奥さん。

どういう関連かはよくわかりませんが、とにかくひとつわかったのは、

僕たちみんなの中で、一番強いのは、西条でも駐在さんでもケンイチ兄さんでもなく、
「実は奥さん」だったということ。

「そらそうだろ。王女様なんだから！」

「はは・・・・はははは・・・・」

「女はつえーよ」

「ホントだね・・・・」

弥生ちゃんも・・・。ホントに強かった。


＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊


弥生ちゃんから、僕に「初めて」の直接連絡が入ったのは、初演から数日後でした。

僕は、てっきり「謝礼」と思って受話器をとったのですが、
内容はまるでちがいました。

”次は、子供たちを集めた戦隊ものをやろうと思うんです”

「戦隊ものですか？」

”こないだの公演で、すごくウケたでしょう？”

「そうですね。集客に困りませんしね」

”それで・・・あのー、脚本、書いてくださいますか？”

「え・・・・僕がですか・・・・？」

弥生ちゃんは、僕よりもずっと文学的才能もありました。

でも。

きっとそれが、弥生ちゃんの「感謝の気持ち」なのだろうと。
ものごとを良くとらえまして、

「いいですとも！」


僕と西条くんは、銀河公園にもどっていました。
もちろん、子供たちに、「出演依頼」をするためですが。

そこには、もうひとつの思惑がありました。

そうです。タクミくん。

僕と西条くんで連れて来たのです。

「えーーーー！なんでロボットいんだよ！」
「コイツなんて無理無理！」

銀河公園は、痛烈な怒声で溢れました。
子供は、正直なぶん、残酷です。

あれから、子猫効果で、だいぶ普通にしゃべれるようになっていたタクミくんでしたが、
再び、元の「寡黙な少年」になっていました。

僕は、
「お前ら！自分となにかちがうと排除するのか！どこかちがうと悪いのか!?」

全員を前に叱りつけましたが、

「まぁまぁ・・・」
と、西条くん。

「こいつらに、そんなむずかしいこと言ったってわかんねーって」

「けど・・・・・・」

「お前ら。こいつはロボットだぞ？」
「西条！」

なんてことを！

「え・・・・？」「あ・・・・？」「へ・・・・？」

西条くんは、僕を黙らせると、

「アンドロイドに人間が勝てると思うか？」

「ぜんぜんだぜ！」「タクミ、ろくにあるけねーもん！」

「そりゃロボットの足に馴れてないからだ」

「・・・・・」「・・・・・」「・・・・・」

「鉄腕アトムも、サイボーグ009も、最初は動けなかった。けど、馴れてからは人間より、ぜんぜん強いぜ！」

「う・・・・・」「・・・・・」「・・・・・」

「こいつが、ロボット足の使い方になれてから全員で謝ってもおそいぞ？」

「・・・・・」「・・・・・」「・・・・・」「・・・・・」

西条・・・・・。

あいかわらず、突拍子もないことを言い出します。
まさか欠点を長所として言い出すとは、思いもよりませんでした。

しかし、やがて、リーダー格のトシオから

「わ・・・悪かった・・・。トシオ・・・」
「今までゴメン・・・・・」
「今度から・・・いっしょに遊ぼ・・・・」
「そ、そうだ。いっしょに遊ぼ？」

へんにギクシャクしていましたが、
そこは子供。
順応性は高く、1時間もせずに、銀河公園には、

「タクミーーーーー！着陸用意だーーーーーー！」
「ちゃくりくよーい！」

『新銀河戦隊』の声がこだましていました。

僕ですか？
僕はタクミくんが操縦士になったので、「謎の宇宙人」に降格しました・・・。


弥生ちゃんたちの新しい公演『カエル戦隊』は、
子供たちを交え、その後4回公演されました。

タクミくんの役柄は、運転手で、
キャスター付きの椅子で、スイスイ舞台を走り回ります。
雲Eよりは、ずっとスマートに。

脚本を書いた僕は、N市での公演におもむきましたが、

そこには、木島巡査と、奥様の姿があり。

「来てるな・・・」

「うん・・・・」

声をかけることはしませんでしたが。

「お。泣いてんのか？お前」
と、西条くん。

僕は、哀しくもなんともないタクミくん登場場面で、ご夫婦から、もらい泣きすることになりました。

それは、タクミくんの成長を見てのことなのか、
ひとつも「勲章のなかった闘い」をふりかえってのことなのか
よくはわかりませんでした。

「も・・・もらい泣きだよ」

「その涙こそが勲章だぜ？」

「バカ・・・・・」

かっこいいこと言ってんじゃないよ・・・。
ただのヘンタイのくせに！

いや・・・ちがう・・・・

「西条・・・。お前、最高のヘンタイだよ」

「それって褒めたか？」



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