ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「名付けて背水の陣大作戦！」

『背水の陣』は、本来、水辺を背にすることで退路を断ち、奮起する戦法で、「愚策」とも言われていますが、今回はまったく逆。
水辺が唯一の退路。

「え～、海に廃水しちゃダメだろー」
「だよな。海よごれるし」
「みんなの海だぞ！」

「いや・・・そっちの廃水じゃなくって・・・・」

久保一族。どうやら道徳観だけはしっかりしているらしい。

「んーと。そいじゃぁ、やるだけやって海に逃げよう陣」

「あ～～～、わかりやすい！」
「そっちのほうがずっといいぜ！」
「みんなの海だ！」

すっげぇなさけない策になりました・・・。
『やるだけやって海に逃げよう陣』。

「でもいっせいにこられたら逃げ切れねーぜ？」
「そうだそうだ！追っかけて来たらどーすんだ！」
「みんなの海だぜ！」

「いっせいには来ないから大丈夫」

「？」
「？」
「？」
「みんなの海だぜ？」

「はい」


暴走族の抗争、などというものは、策らしき策はなく、ほとんど人数でその勝敗が決定するものでした。
したがって、地場で、見物人を集めて味方にする、という敵のやり口は、実に姑息で、かつ的を射たものです。

菊池さん側が、前回の抗争から、せいぜい40人と踏んで行くと、たちまち相手は膨大な人数に「想定外に」膨れ上がる、という算段。

”なぁなぁ。こっち、援軍たのまなくっていいかぁ？”

その夜。意外なことに、菊池さんが電話してきました。
よほど不安なようです。
まぁ、無理もありませんが。

「何人にしてもおんなじですよ。これ以上いるのは逆に迷惑です」

”そ、そんなんで百人以上になっかも知んない相手に勝てんのかよ！”

「勝てます！」

”おおおおお！さすが銀河戦隊！”

「その代わり～～～・・・・・」

”え？”

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

そして決戦を翌朝に控えた土曜日。

「おおお！釣れたぜ！カレイだ！見ろ！」
「あいかわらずすごいなぁー。久保はー」

僕たちは、ひと足先にT市まで来て、釣り糸を垂れていました。

「けど、こんなことしてていいのかな？俺ら？」
「まぁまぁ。あ！西条！ひいてるぞ！」
「よっしゃあああ！」

内陸に住んでいる僕たちにとって、海釣りはめったに体験できません。
そこで、釣り好きの孝昭くんと久保くんが中心となって、「海釣り」を楽しんでいるのですが。

西条くん、
「ここの海よー、昔、道場で来たことあんだ」

「へぇー。海水浴？」
「そう」
（昔、内陸の子供たちは、子供会やいろんな集まりで「海水浴」という行事があった）

「ゆき姉と？」

「まぁ・・・な・・・・・。思い出すなぁ・・・・」

突然、しんみりし始めました。

「着替え・・・のぞいたっけなぁ・・・・」

そっち!?
そっちをしんみり？

「だって、ちゃんと見えなかったんだもん」

「いや・・・西条・・・・」

しんみりしかたが間違ってる気がします。

「10円払ったのに・・・・」

しかも金とられたのか!?
誰に!?

「ケンイチ兄ちゃんに・・・」

「兄!?」


僕たちが釣りをしている浜辺に、次々と久保一族がやってきました。

「よー！待たせたなー」
「こんなとこだったのか」
「釣れるかあ？」
「海はみんなのものだぜ！」

久保一族では、一番強い（らしい）ショウイチ（どのショウイチかは不明）は、すでに仕事についており、やって来たのは、午後10時を過ぎていました

「そいじゃ、みなさん、揃ったとこで、ポイント移動しますかぁ」
「だな！」

というわけで、ポイント移動。
どこって。
もちろん決戦の浜です。

「ありゃ？菊池たちは？」
と、孝昭くん。

「あー。ブラックエンペうーは別働隊だから」

「別働隊？」

「そう」

彼らには、重大な任務がありました。

「アテになんのかぁ？あいつら」

菊池さん。信用ありません。

「だいたいあいつらの抗争なのによー」
「だよな！」
「ったく！」

「いや、元はモモレンジャーの闘いだ」

「あ！だよな！」
「だったらいいやー」
「うん、いい！いい！」
「グッジョブ！」
男などというのは、そういうものなのです。

「モモレンジャーはみんなのものだ！」

「ちがうと思うよ？」

そのまま全員で夜釣りに突入し、午前2時。

「ああ・・・もう、釣り飽きた～～～～」

「そろそろ集まり出す頃じゃねぇか？」
「まだだろ。まだ交機うろついてるし」
「おそらく3時頃だと思うよ？」

だから午前4時などという、早朝を選んで来たわけですから。

が、やがて、さざ波の音に混じって、

　ウォオオオン………
　グオオオオオオン………
　ドドドドド………

遠く、あちこちから、爆音が聴こえ始めました。

「あ。来た来た」

「ブラックエンペ・・・うー、たちか？」
「ちがうよ。見物たちか・・・頭んとこのチームだよ。ブラックエンペうー、軽トラだから」

「軽トラぁあ？」

久保一族は、比較的ドンパチに馴れているのか、あまりビビった様子がありません。
当の久保くんも、さっき海辺で「マキ餌」して来たので、いつものハウドゥユドゥもなし。

これならバッチリいけそうです！

「いよいよかぁ」
「だな！」
「さっさと来ねーかな！」
孝昭くんなどは、もう待ち切れない、といった様子。

「そいじゃー、みなさん！次から次にやってきますから、かたっぱしからやっつけちゃってください」

「いや・・・次から次って・・・・」
「お前。かたっぱしからやっつけちゃえって命令あるか？」
「アバウトすぎるって」
「策を言え！策を！」

「そいじゃー。逃げ道はあっち」

「なんだそりゃ・・・」

午前3時30分。

　ウォンウォンウォン……！
　クォオオオオオオオオオ……！
　ドドドドドドドドドドド……！

爆音が、さざ波の音よりも大きくなりました。



人気ブログランキング｜ブログ村ランキング

　第110話へ→

　▲後編目次へ

関連記事

• 銀河戦隊クボレンジャー 第110話
• 銀河戦隊クボレンジャー 第109話
• 銀河戦隊クボレンジャー 第108話