ぼくたちと駐在さんの700日戦争

暴走族の抗争と言うヤツは、いきなりの襲撃か、偶発的なもんとかが多いわけですが、
そうでない場合。つまり、正規の対決には、なんと古式ゆかしい「果たし状」が使われました。

むろん、郵便とかではなく、一番下っ端くらいのヤツが、青タン作って持たされて来るのが普通です。
が。今回の「果たし状」は、なんと菊池さん宛に郵便で来ました。
これで、住所を知っている「桜庭」こと小川が関わっていることは、間違いありません。

普通に考えれば、それなりに力のある小川。菊池さんひとりを襲撃するなりすればいいところを、そうは出ませんでした。
今、菊池さん個人を襲っては、犯人がミエミエですから、本業を別に持つ彼には不都合なのでしょう。

「やっぱり頭いいなぁ・・・プロは～」

自分の手は汚さず、おそらくそこで起きることで、また一儲けを企んでいるのかも知れません。
示談屋にとって暴走族は、おいしいカモなのです。

「感心してる場合じゃねぃ！」

菊池さんは、初めて受け取る果たし状に、すっかり浮き足立ちました。

「こ、今度の日曜だってよ！ど、どうしよ～～～～～～」

「ブラックエンペうー総長が、そんなにガタガタしてどうすんですか」

「その、ブラックエンペうー、ってのがなぁ～～～。また一段と弱そうだ・・・・」

「え？日本最大級ですよ？」

「ブラックエンペラーはな・・・。エンペうーはちがうんだ」

菊池さんがビビるのももっとものこと。
「果たし状」などと言いますと、正々堂々としたもん、と、思われるでしょうが、暴走族の場合は、そうではありません。
時間と場所のはっきりしている果たし合いには、必ず、膨大な「見物」がつくからです。
見物も暴走族ですから、大人しく見てたりはしません。
意外なことに、地場意識が強く、必ず地域の族に味方します。

「へー。意外と郷土思いなんですねー」

高体連とよく似ています。
見物人は参加しませんが。高体連。

「あ。でも、サッカーとかバスケで見物人も参加できたらおもしろいでしょうね！」

「んなこと言ってる場合か？ぎ、銀河戦隊ってのは強いんだろーな！おい！」

「そうですねぇ。銀河守ってるくらいですからね」

「ホントかよ・・・・」

実際のところ、西条くん、孝昭くんは強いでしょうが、それ以外のクボレンジャーメンバーの強さは、まったくわかりませんでした。
僕たちからは、怪力千葉くんが劇団に抜かれているぶん、弱体化している、とも言えます。

「ああ・・・とんでもねぇアマに関わっちゃったなぁ・・・・」

「まぁまぁ。デートするんでしょ？」
（実は早苗さんと）

「え？あ、そうだった♪」

僕なんか、デートどころか、弥生さん本人からは、メンバーの中でも冷遇されていて、いいことはひとつもありません。

「それにしちゃ楽しそうだな・・・お前」

「え？そう見えます？」

決戦場所は例の浜辺です。
相手の名前は書いてありませんでしたが、あの浜辺を指定して来たことで、あの頭のいたグループであることは確定しました。

僕には、それが、少し残念でもありました。

「あの頭はいい人だと思ってたのになぁ・・・」

「だから言ってる場合じゃねーって！」

言うまでもなく、敵地では、敵に味方する見物人がほぼ100％。
こうなると相手の人数は、まったくわかりません。

「これって、どーーーーーー考えても、ぜったい負けるよなぁ？」

「そうですねー。こっちは顔出せないわけだし・・・」

「そうですね、って・・・。お前、平然と・・・・」

「まぁ、負けたら負けたで、ブラックエンペラー本体が仕返しに来てくれるかも知れないじゃないですか？なにしろ、メンツに関わりますからね」

「お前なぁ・・・・・」

果たし状では、決戦時刻は午前4時でした。
交通機動隊の暴走族対策室がまわるのが、だいたい午前3時までなので、その時間を避けたのでしょう。
つまり、見物人も、相手も「警察に捕まりたくない」のです。


一方、クボレンジャーはクボレンジャーで、イトコハトコ一同が久保くんに詰め寄っていました。

集まったN市河川敷。初の会議らしい会議です。

「ばっきゃろ！相手何人かわかんねーのに、やってられっか！」
「どうやってやりあうつもりだ！」
「痛てーことはごめんだぜ！」
「モモレンジャーに会わせろ！」

「いっせいにしゃべんなって！八つ目ウナギじゃねーんだからよ！」

「八つ目ウナギ？」
「八つ目ウナギってなんだ？」

「ほら。聖徳太子も一度に8人の言うこと聞き分けたって言うー」

「あ～～～、はいはい。八つ目ウナギね～」
「はいはい～八つ目」

それは『八つ耳王子』であって、八つ目ウナギは魚です。
久保一族、どうやら揃って勉強ぎらい。

「勝算は？」
と、久保くん。お鉢を僕にまわしました。

「まったくない」

またいっせいに、
「バッキャロ～～～、勝ち目ねぇケンカに巻き込むんじゃねー！」
「族同士のケンカにクビつっこんでられっか！」
「せめて勝ってから呼べ！」
「モモレンジャーに会わせろ！」

「だから～～～、八つ目ウナギじゃないんだから！」

「あ、そうだったそうだった」

黙ります。おもしろい一族だ。

「だからさ。特攻隊と頭の一団だけやって逃げよう」

なにも全面戦争にする必用はありません。
目的は、あくまで示談屋なのですから。

「逃げようって・・・あそこ1本道じゃなかったっけ？」

そうです。浜は、山側から来て、ラブホテル側に抜ける1本道。
このため、前回も退路がありませんでした。

「これが地図」

ひろげて見せますが、

「こっちが山。こっちがラブホテル街」

「逃げ道ねーじゃん！」
「逃げらんねーじゃん！」
「どーすんだ！バカ！」
「モモレンジャーに会わせろ！」

「逃げられる」

「どこに？」
「海」

「海～～～～～～～～～～～～？」

「暴走族も海までは走らないだろー」

「お前って・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「八つ目ウナギ？」

「ちがうよ・・・・・」



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