ぼくたちと駐在さんの700日戦争

地元で、地味に走っていた暴走族『アマンダ』にとって、この抗争は、まったく予想だにしないものでした。

そこで菊池さんがとった行動は・・・

「はあ？弥生さんを、自分の女って言っただああ？」

「そーなんでぃ・・・・」

「な・・・なんだってそんな大見栄を・・・・!?」

「だってよー。縁もゆかりもない女子の先輩のせいで、ドンパチになるなんて言えるか？」

「まぁ・・・そりゃそうですけど・・・」

それどころか、弥生ちゃんは後輩である菊池さんを「覚えて」さえいませんでした。

なのに、菊池さん、

「そのために口紅まで買ってきたあ？」

「うん・・・部屋にアリバイとしてー」

はぁ・・・・・。アリバイ・・・・。

「・・・・菊池さん」

「ん？」

「バカですねー」

「哀れむ目ぇすんじゃねぃ！」

いやぁ。哀れです。
口紅買って、部屋に・・・

「一応、弥生先輩の口紅に色は合わせた」

「え！弥生さんって口紅、つけてましたっけ？」

「ああん？気づかなかったのか？」

「ええ・・・・」

ちょっとビックリです。
確かに、化粧品の匂いはしていましたが、高専とは言え、高校生なのですから。
しかも、まじめ系。

「はあ？もう20歳なんだぜ？スッピンなわきゃねぇだろ」

「そうだったんだー・・・・」

「お前、女にうといなぁ」

「よくそう言われます」

「ぁあ？ホントにかあああああああ？」

「たまに言われます・・・」

言われてみれば、モモレンジャーの時は、化粧してたような・・・。

そっか。ケンイチ兄さんに言われて、素顔をバレないようにしていたのかも・・・。

「だからよー、弥生先輩にはお前からぁー・・・」

「や、やですよ！言えるわけないでしょ？」

「え！だって、俺らぁ、先輩のためにやりあうんだぜ？」

だいたい暴走族の抗争なんてそんなもんですが。
よくって「気に入らない」とか、「ガンつけた」とか、キッカケは、そんなレベル。

そういう意味では、僕たちこそ、暴走族とやりあう理由など、まったく希薄なわけです。
グロリアには事故にあわされましたが、それも西条くんと僕だけの話。

それでも菊池さんが、「なんとか！」と頼むので、

「まぁ・・・言ってはみますけど・・・・・」

「1度だけでいいんだ！そういうフリしてくれればよ！な？あの人、演技はうまいんだからよ」

「確かに・・・・」

弥生ちゃん、スケ番姿も堂にいっていました。
さすが演劇を長くやっているだけあります。

いや・・・まてよ？
アマンダの他の隊員たちは、そもそも「弥生さん」を見たことないわけですからー
弥生さんを名乗れば、誰でもいいわけです。

となればぁ・・・

そうだそうだ！
早苗さんにたのもっと！

「わかりました！菊池さん。まかせてください！」

「たすかるぜぃー！」

菊池さんの大好きな早苗さんだし！

「たのしみだぜぃ！」

「たのしみですね！」

とっても楽しみです。


「で、菊池さん。アマンダって弱そうなんで、新しい名前考えてきたんですよ」

「え？アマンダ、気に入ってんのになー」

「いや。敵が絶対復讐できないような名前じゃないと。もう隊旗も作ってきました」

「復讐できねーよーな名前・・・？」

さっそくノッポさん部隊制作の隊旗を見せました。

「うぉ！ブ、ブラックエンペラー、って・・・。まずくね？」

＜ブラックエンペラー＝70年代、関東を中心に暴れ回った2000名を越す巨大暴走族。俳優の宇梶剛士が総長だったことでも有名。ちなみに宇梶氏は7代目総長＞

「いやいや。菊池さん、よーく見てください。ブラックエンペラーじゃありません」

「いや・・・どう見てもブラックエンペラー・・・」

「それ、「ラ」じゃなくって「う」です」

「はああああ？あ！ホントだ！『う』だ！」

「少しカーブがゆるいでしょ？」

「あ・・・うーん。よく見ればー」

「だからブラックエンペうー」

「ブラックエンペうー・・・・」

「はい～」

「いや・・・『エンペ』までカタカナで来て、いきなり『う』がひらがなって・・・・おかしくね？」

「まぁまぁ。これで敵の逆襲は心配なくなります！」

「な、なんて姑息な・・・・」

「なんとでも言ってください」

卑怯だの姑息だのは、言われなれてます。

というわけで～

パチもん暴走族。ブラックエンペうー。結成。



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