ぼくたちと駐在さんの700日戦争

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「ゆき。心配すんな。あの詐欺は俺が証明してやっから！安心して銀行受けろや」

「うん・・・・」

「幸いよ。警察署の初潮さんまで、保証人になってくれるってんだぜ？これ以上はねぇだろ」

「アリガト・・・アニキ。でも、署長さんのイントネーションが少しちがった気がする」

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キジマタクロウは実際に事故を起こした人・・・？

「何度か、電話口で、おじさまが名前出してました」

「そっか・・・。確か、運転手の偽装入れ替えをしたんですよね？」

「だと思います。でも、あの保険にはもうひとつ問題があったみたいで」

「問題？」

「『家族限定特約』です」

＜一度説明したけど、家族以外が運転して起こした事故には保険がおりない、という限定＞

「それってつまり・・・・・・」

「そうです。おじさまの家は、記載ミスがあったにせよ、一円たりと支払う必用はなかった、ということになります」

キジマタクロウが運転していたのでは「一銭もおりない」どころか、膨大な請求が直接来てしまいます。

「そうか・・・・・それで示談屋は・・・・」

代理店のせいにして、むしりとることを考えた。

ケンイチお兄さんが怒り心頭なのは、あまりに当然のこと。

「弥生さんのお父さんは気づかれてなかったんですか？」

「うちは・・・・おじさまに言われてようやく。でも、その時は、もう、手遅れでした」

僕は、「スタンドの街金は、発覚を恐れた示談屋がしかけたもの」と思いましたが、それを口には出しませんでした。
今さら、第三者の僕が言っても、弥生ちゃんに、ケンイチお兄さんと同じくやしさが残るだけのことです。

いえ。頭のいい弥生ちゃん。ひょっとすると気づいていて、気づかない演技をしているだけかも知れません。
西条くんは、ゆき姉と弥生ちゃんには「似ているところがある」と言っていました。


スタンドがなくなってしまうと、この示談屋を追いかけるのはむずかしくなる、と考えたケンイチお兄さん。

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「お嬢ちゃん。両親は逃がしてやる。けど、そうすっと街金はアンタにむらがる」

「そういう・・・ものなんでしょうね・・・」

「アンタぁ、悪いことに若くってキレイだからな？捕まればカタにはめられて、風呂に沈められるか、チェンマイあたりに売られるか・・・。ま、どっちかだ」

「・・・・・・・・」

＜風呂＝当時の「トルコ風呂」のこと。現在のソープ＞
＜チェンマイ＝タイ北部の大都市。その昔、売春宿で栄え、日本人男性が大挙してツアーで訪れた＞

「警察あ、守っちゃくんねぇぜ？」

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「それで、おじさまは、金融屋さんをかたづけてから、二つ条件を出されて・・・・」

「条件・・・？」

僕は聞いていいか迷いましたが、弥生ちゃんの舌のすべり具合から、話すだろう、と確信していました。

「ひとつは・・・・。劇団を続ける事、と、戦隊ショーのバイトでした」

ケンイチお兄さんは、押さえた金融屋を通じて、「スタンドの娘が詐欺としての民事訴訟を企てている」というウワサを流します。
同時に、演劇をやっていて、「両親をさがすために」戦隊ショーに登場しているウワサも。

これには、当然、身を隠していた示談屋もおだやかでなく、まんまとひっかかりました。
いえ。正式には、「僕たち」もひっかかりました。
まんまと・・・。

そこで示談屋は「一番損をした街金」と手を組み、戦隊ショー帰りを狙おうとしますが、

「そこに張ってたんですね？」

「ええ・・・・あの日までは」

やはりその日、ケンイチお兄さんは、示談屋を捕まえたんだ・・・。間違いない。
その件で、「高知署」に入る事になったのでしょう。
おそらくは示談屋も一緒。

「だから戦隊ショー自体、意味がなくなっちゃって・・・」

「やめられたんですね？」

「だって・・・おじさまがいなければ、危ないだけですし・・・」

そう言ってから、
「楽しみにしてた子供たちには、悪いことしました・・・」

僕にすれば、ひさびさの「弥生さんらしい言葉」でした。


しかし、練習途中の劇団はやめられません。
弥生ちゃんは、主役で、主催者です。

戦隊ショーに出ない、ということは「両親が見つかった」ことを意味します。
捕まった示談屋は、ケンイチさんのいない間を狙って、今度は、手下を使い劇団の練習に張り付かせました。

それが「小川」であり、

僕たちのバイクとぶつかった・・・グロリア。だ・・・・。


「ふう・・・・。ようやっとわかりましたよ・・・」

絶対解けない。こんなの。

だって、演技していたのは、示談屋じゃなく、弥生ちゃん本人だったのですから。

「ごめんなさい・・・」

「いえ。そういう意味じゃなくって。えっとー、もうひとつの条件というのは？」

「それが・・・・おじさまのつくった新作ケーキを喰え、と・・・・」

「なんですか？それ？」

「さあ？一晩で、20個くらい食べさせられました・・・・」

「20個ぉ？？？？」

そういう・・・、ヘンタイ？

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「なぁなぁ、どっちうまかった？」

「えっと・・・コッチ・・・。おじさま・・・、少し休みませんか・・・？」

「あ～ん？高専やめてチェンマイ行くか？」

「次！ください！」

「へい！まいど！」

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