ぼくたちと駐在さんの700日戦争

＜シリアスモード。入ります＞

グル？？？

西条くんは、自分がA町に行った目的そのものには触れず、

「アンジェリーナ菊池の車、ヤツらにボコられたろ？」

「あ～～～、菊池サンの？」

アンジェリーナ菊池。合体するとカッコいい。

「その修理の交渉で行ったんだ」

「あーーーー・・・・なるほど」

「で、出て来たのが示談屋だった」

示談屋とは。

名前通り、交通事故の示談処理を裏で行う商売で（現在もある）、相手が厄介者であった場合や、自分の地位に傷がつきそうな場合に被害者との示談を代行する、というもの。
（当時）任意保険の加入率は7割以下であったため、あちこちにこの商売が暗躍しました。

ヤクザと渡り合ったりもするわけですが、たいていは裏で手を組んでいて、依頼者（または被害者）から徹底的に搾るだけ搾り取る、というのがやり口で、街金とのつながりも多かったものです。

つまりは、示談屋がからめば、依頼者（または被害者）の末路は決まっていました。
（よくやられた手口が「永遠に治らない鞭打ち」など）

正規に保険代理店資格を持つ者も多く（簡単に取得できたので）、保険会社のアジャスター（事故処理班）とやりあうこともありましたが、そのほとんどは保険詐欺的なもので、保険会社も対策班を設けなければならないほどでした。

示談屋は（事故に居合わせなければ、商売にならないので）警察無線などを傍受して現れる、と一般的に言われていますが、暴走族に限ってはそうではありません。
暴走族の車両は、事故が多い割合に、違法改造であるがために保険が下りないことが多く、（OBなどで）こういう裏商売をやっている人を頼りました。
よくとらえるならば、そのおかげで、保険が降りた被害者もいたわけですが、そこからも保険金の2割～5割くらいを搾取されました。

「つまりグロリアは、あいつらの顧問かOBってこと？」

「まぁ、そんなもんだろ。相撲崩れなんぞ、そうそういねぇからなぁ」

言われてみれば。わざわざ暴走族のいる浜に逃げ込んだのも、それならうなづけます。

が、菊池さんの前におめおめと出して来た、ということは、頭は、僕たちとの関連に気づいてはいない、ということです。

それでも、暴走族が示談屋側にくっつくのは目に見えているわけですから、菊池さんが出て行った段階で、すでにまるごと敵。
西条くんの言う通り「グル」です。

「こっちは？もう気づかれてるよね？」

「まぁ、あったりめーだろうな。菊池、車直してもらうことになったから」

「はあ？」

何考えてんだ。あの人は・・・・・。
自分の追っかけてた相手に・・・・・。

「気づいてねーみたいだったぞ。アホだから」

「ホントだねぇ・・・・・」

なんて幸せな人でしょう？

「まぁ、俺らにとっちゃ敵だけど、菊池には他人様だからな。GTO直すほうが重要だろ」

「うん・・・・」

それもそうです。

が、おかげで、僕たちの逃げ道も塞がれて行くことになりそうです。

「まずいな・・・・」

保険詐欺って・・・・示談屋だったのか・・・・。
つまり。本当に（詐欺の）プロでした。
今、のこのこ出て来れると言うことは、警察の調べでは「証拠不十分だった」ということです。

「ヤクザもんかな？」

「ヤクザもんかどうかはともかく、ヤクザと渡り合えるヤツらってことは間違いねぇ」

「なるほど。少し見えて来た！」

弥生ちゃんとの関連も。
徐々にではありますが。


「で。どうするよ？」
と、西条くん。

「どうするって？」

「降りるか？けっこう、やっかいだぞ？」

「西条は？」

西条くんの返事は、聞くまでもなかったのですが・・・・。

西条くんは、それには返答せず、

「詐欺師・・・騙せるか？」

「さぁ・・・・嘘つくのヘタだからなぁ・・・・正直に育って来たから」

「よかった！じゃ、命かかんない程度にダマして、ひとりずつ引きずり出してくれ！」

いや。ヘタだって言ってるでしょ？

「大丈夫だ！いつもどおり誠心誠意ダマせ！」

「だからぁーーーーーーー」

誠心誠意の意味が異なって来てるような・・・・？

「少なくとも劇団の公演前までになんとかしろ」

「公演まで・・・？」

「でないと、たぶん演劇の騒ぎじゃすまねぇぞ？」

あと、1ヶ月半・・・・・。

以内か・・・・・。



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