ぼくたちと駐在さんの700日戦争

そう言えば、久保くん。クボレンジャーでも、かなりベタな演技で、小学生とどっこいどっこいでした。
演技と言うのは、向く人と向かない人っているものです。

久保くんが「雲D」になったことで、グレート井上くんが本格的に始動！
おおよろこびで始動！
嬉々として始動！

そこでグレート井上くんが最初に言い出したことが、

「ダブルキャスト？」

（ダブルキャスト＝主役を二人の役者が別々に演じること）

「そう。だって弥生さんって人は、もう就職も決まってるかも知れないけれど、こっちは、とても同じだけの時間は裂けない」

「まぁ、そりゃそうだけど・・・・」

劇団の公演は1度だけではありません。
週末たびに1度はある、と言う感じで、最低でも4回。

僕の頭の中では、グロリアの連中と「ごたいめん」するまでしかなかったので、今さらながらの正論に、考え込んでしまいました。

「バカだな。なにをメインに考えてるんだ？途中から放棄する気か？」

「言われてみれば・・・・」

もっともです。

「そんなんだから君は、あさはかだ、とか、思慮が浅いとか、人間じゃない、とか、なんで生まれて来たんだとか言われるんだろ？」

「えっと・・・・」

誰もそんなことまで言ってない気がするんですが？
ってか、井上くんだけなんですけど？

「まぁ、それはいいとして」

よくねーよ！
なに勝手にまとめてんだよ！

「とにかく、日程的に高専の5年生には、とうてい合わせられないだろう」

言う通りです。

「ダブルキャストって？」

ひとりは千葉くんです。ここまではわかります。
たとえ、あさはかで、思慮が浅く、人じゃなくっても。

「いじけるなよ」

普通いじけます。

「もうひとりって村山？」

「村山は今からじゃ無理だろ。部活もあるし」

「じゃ、誰？」

それが。やはり、

「加奈子さん」

奥さんでした。

「え！同じ役どころを、男と女、バラバラでやんの？」

「だからおもしろいんだろ？」

な～～～～るほど～～～～～～

さすがグレート！

「そりゃおもしろい！」

「だろ？」

おもしろいけど。

奥さんは、まだ承諾を得ていません。
正確には、奥さんの承諾は得ましたが、そのダンナの承諾を得ていません。

「がんばれよ」

「いや・・・がんばれって・・・・」

がんばってどうこうなる問題でしょうか？

「人間、誠心誠意謝れば、通じるものだよ」
と、グレート井上くんは言いますが。

別に「謝り」にいくわけじゃないと思うんですが。

「通じる・・・かなぁ・・・・？」

「人と人っていうのは、そういうものだ！」

それが人間ぞ！

とまで言うので、

「えっと。井上、ずいぶん前なんだけどさ」

「なんだ？」

「君んちで、君がいない時、夕子ちゃんをオンブしたんだけどー」

「・・・んな!?」

「そん時、背中に夕子ちゃんの胸があたったんだけどー」

「んななななななな！」

「けっこうふくらんでて、なんとなくさびしかったー」

「な、な、な、なんだとぉおおおおお！」

「うん。僕が悪かった。すまなかった井上！このとおりだ！悪気はなかったんだ！」

誠心誠意謝ってみました。

なのに、グレート井上くん、
「僕は、お前をぜったい許さないからな！」

「いや・・・井上・・・・誠心誠意・・・は？」

「うるさい！絶交だっ!!」

「いや・・・井上、『人と人』は？」

「お前なんか人じゃないっ!!!」

「そんな・・・・」

言ってることと、やってることがバラバラなんですけど・・・・？

教訓：『誠心誠意謝っても通じない人には通じない』

今日もまたひとつ、大人になっていく僕です。

（駐在さんに申し出るのは少し待ったほうがよさそうだ・・・）


一方。西条くんは、劇団に執着していた僕たちとは、まったくちがう動きをしていました。

孝昭家。

「西条、今日もA町に行ったらしいぞ」

「マジか？なにしに？」

「わかんねーな。アイツのやることは」

確かに。

「原付でか？それって、えらくかかんない？」

「ちがう。ほら、あのニワトリの・・・ほら・・・・」

「アンジェリーナと!?」

「いや・・・ニワトリより原付のほうが速いだろ？」

それもそうです。

「菊池さんとか？」

「あー、そいつそいつ！今日、俺んちから一緒に行ったんだ」

「え！ここに来たの!?菊池さん！」

そいじゃ、もしかして・・・・

「そうそう、姉ちゃんが、お前に会いたがってたぞ？」

「え・・・・・・・・・・・」

やっぱし・・・・・・・・・・。

また「あることないこと」がバレてるにちがいありません。

「なんだか知らねぇが、さっさと謝ったほうがいいぞ？」

「あ・・・・そんなに怒ってた？」

「んーーーー。そうだなぁ。生理10回分くらいかなー？」

「10回・・・・・・・・・・・・・・」

早苗さんのご機嫌は、「生理」を単位に計ることができます。
ちょうど地震の震度と、思えばいいのですが。
孝昭くんが、早苗さんの生態をしゃべった時で、だいたい「5生理（＝震度5）」くらい。

10生理は、ちょっと想像が追いつきません。

「どう・・・・しよ・・・・・・？」

人と人。誠心誠意謝れば、通じるでしょうか？



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