ぼくたちと駐在さんの700日戦争

グレート井上くんと、「スカウトが来るほど」の奥さんを引き入れるには、久保くんを役どころからおろすしかありません。

グレート井上くんの話が本当であるならば、弥生ちゃんも相当困惑しているはずです。
舞台をやる限りは、そんな迷惑はかけられません。

「あーーー、久保ぉ。ちょっとシナリオ見てたんだけどさーーー・・・・」

”どうだ？足りない人数分、変更できそうか？”

「あ・・・うん。もちろん。それでさぁ、久保さぁー・・・」

”なんだよ。奥歯に銀歯つめたような言い方だな”

それって普通に歯医者でしょ？

「実は駐在さんの奥さんが・・・・」

すばらしいエキスパートであることを伝えました。

”マジ!?”

「マジマジ」

久保くんは、僕以上に、そのことに驚いていましたが

”ってことは、駐在の前のあれは演技・・・・”

「いや・・・・」

そういうことを知らせたかったわけではないのですが。

「そうじゃなくってー・・・それに合わせてシナリオ変えたほうがいいかなぁ、って思って」

”おお！そりゃいいな！”

「で、つきましては～～～～・・・・・」

久保くんの役所を変えたい旨を伝えてみました。

なにしろ、本来の目的は「久保はずし」。
酷なようですが、この際、背に腹は代えられません。

”え？いいけど・・・・”

久保くん、惜しみながらも比較的あっさりと承諾。

”どっちにしろ・・・なんつぅか。あの役は俺にゃちょっとな”

おお！自分を知っている！
素晴らしいことです！

”なにしろよー・・・台詞が２行以上あるんだぜー・・・・」

自分を知る以前の問題でした・・・・。
その程度が暗記できないとは・・・・。

なるほど。こりゃイクラちゃんかも・・・・。

♪は～～～い～～～～～

「一応、久保には、かっこいいとこ押さえたからさ！」

”ホントかよ！なんの役だ？”

「えっとーーーー・・・・雲・・・なんかどう？」


　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊


王子様を久保くんが降りたことで、グレート井上くんは、演出を快諾！

「助かるよ。井上」

グレート井上くんは、とにかく、首席だけあり、なにをやらせても頼りになります。
演劇も劇場通いしていただけあって、昔からうまく、学校の演劇部レベルであるなら、主役も張れる逸材でした。

さらに、その父親がまた、チケットなどをさばくのに、非常に便利。
たとえ、久保くんをどこかに監禁してでも、押さえたいメンツなのです。

「で。メンバーから演劇できるところまで育てるのに、どれくらいかかる？」

”そうだなぁ・・・・急げば1ヶ月あれば・・・・”

「かかりすぎるなぁ・・・・」

”それでも、やれるとするなら、千葉くらいかな？”

「千葉があ？」

”千葉。あれでいてけっこう演技派だぞ？”

確かに！
工藤先生の真似などをさせると、本人と区別がつきません。
また、ビジネスマンの真似にも長けていて、やらせるとサラリーマンまっ青。

「言えてる！」

”まぁ、演劇は発声からしてちがうけどね。千葉なら大柄で舞台映えするし”

しかも甘いマスクは、まさに王子様です！
どうして今まで気づかなかったのでしょう？

急浮上する千葉準主役説！

「え？別にいいけど？」

千葉くんは、僕の申し出は、まず断りません。

「断ると、お前、復讐するから」

「え・・・・・」

なにか僕という人間を誤解しているようですが。

「してない」

「え・・・・・」


ところが。
いきなり主役級から「雲」役になった久保くんは復讐して来ました。

春香さんの電話番号を、なんとなんとなんと、和美ちゃんの目前で手渡したのです！

「これ。春香さんの電話番号だ！」

「あ！こら！」

「早く電話しなよ？春香さんもさびしがってるからよ～～～」

くぅううううううう！

「春香さんって・・・・・だあれ？」
和美ちゃん、久保くんが去ったとたんに質問責めです。

むろん、僕が（当時つきあってもいない）和美ちゃんから、どうこう言われる筋合いでもないのですが、

「いや・・・劇団の人」

「劇団？」

僕は、話が「弥生さん」に及ぶのがイヤでした。
どうしてそれがいやだったのか。理由は自分でもわかりません。
ただ、なんとなく。
僕が「やっかいごと」に首をつっこむのを、和美ちゃんは歓迎しないのです。

弥生ちゃんが巻き込まれていることは、あきらかにやっかいごと。
それもスペシャル級であることは、間違いありませんでした。

僕が言葉を濁らせていると、
和美ちゃん。
「劇団って。女の人多いんでしょ？」

「え？まぁ・・・それは・・・・」

というか、男子が抜けたので、女の人しかいません。

僕は、ここで言い訳に詰まり、ついつい「駐在さんの奥さんも加わるかも」ということを、しゃべってしまいました。

「そ。仲良く楽しめばいいんじゃない？劇団でもなんでも！」

「え？なに怒ってんだよ」

「知らないわ！」

「か、和美ぃ！待てよ！待てってばーーーーー」

久保くん、「雲D」に格下げ決定！
決定ったら決定！



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