ぼくたちと駐在さんの700日戦争

グロリアは劇場に現れる。

「間違いないのか？」

「間違いない。もう学校には張れないだろ。警察に目をつけられたんじゃ」

「なるほど・・・・」

学校以外で、弥生ちゃんを押さえられるとすれば。

実は劇場のほうが、ずっと効率がいい。

「なにしろ逃げられないわけだから」

(故)藤山寛美などは、多額の借金を負っていましたが、借金取りは、自宅ではなく、会場に現れたそうです。


そのためには、まず劇団から抜けたメンバーを補充しなくてはなりません。
劇団あっての公演です。

僕たちから補充した場合、それ以前の大問題があります。

そう。練習場所。

ここからT市の小学校までは、片道で3時間、軽トラだと6時間もかかることが判明。
これでは、とても毎日練習はできません。

そこで、弥生ちゃんのT市と、僕たちの町との中心に会場を借りることにしました。

「だから本官の管轄じゃないって言ってるでしょ？」

訪ねたのは、中心地であるO町の駐在所。
駐在さん（前任）の赴任先です。

「いえ。体育館借りてもらえばいいだけです」

「自分で借りに行けばいいだろー！そんなことでいちいち警察を使うんじゃない！」

「O町は、町民以外は有料なんですよ」

「だ、だからって警察官が名義貸しなんぞできるわけないだろ？」

「それが、できるんです」

「な、なんだと？」

「県の公文書にそう書いてあるんです」

「県のこ、公文書に？」

「ええ。県警って言うくらいですから、管轄は県ですよね？」

「そりゃ・・・そうだが」

「そこが出してる公文書に明記されてるんですから！本署にも置いてありました！」

「ほ、ほんとかね。そりゃ！」

「ほら！」

と、差し出したのが、

「こ、これは県が発行している外国人向けの観光パンフレットじゃないか！」

「はい。だから英語なんですが～～～、ここです、ここ」

『Go to the police box when you embarrassing 』

「な、なんて書いてあるんだ！」

「『困った時は交番へ』と。困ってるんです」
（本当に載っている）

「バッカモーーーーン！それは外国人向けだろうがぁ！」

「じゃぁ、外国人連れて来ます」

「な、なんだと？」

「大丈夫ですかぁ？駐在さん。英語しゃべれましたっけぇ？」

「ほ、本官を脅す気か！」

「困ってるんです」

「・・・・・・・・・・」

快く引き受けていただけました。
よかったよかった。

これで練習場が確保できました。


次に、弥生ちゃんたちをO町まで運ぶ手段です。
O町の体育館は、T市よりは、我々の町に近いので、移動手段が必用です。

「人数からしたら3台以上いるぞ？」

「3台か。よかった、それくらいなら楽勝だ」

「誰にたのむんだ？」
「T市に知り合いなんぞいるか？」

「いるよ。こないだの暴走族」

「えーーーーーーーーーーー！」

「ヘッドは、良さげな人だったじゃない」

「良さげ・・・だったけど、送り迎えなんぞ受けるかなぁ・・・・暴走族だぜ？」

「受けるよ。必ず」

「またヘンな自信持ってんな」
「だいたい、あの頭の連絡先なんぞ聞かなかったろうが」

「ナンバーは覚えて来た」

「しっかりしてんなー」
「そいで？」

「暴走族のヘッドだもん！警察に登録されてるに決まってんじゃん！」

「また警察使うのか！」

千葉くんを呼びつけ、公衆電話から電話を2本。

「こころよく引き受けてもらえた！何人でも出してくれるって！」

さすがヘッドです。

「こころよくぅ～～～～～？」
「暴走族がぁ～～～～～～？」

「だって改造車だもん。みんな点数ギリギリだから。あはははは」

「あはは・・・って・・・」
「脅したのか？暴走族・・・・」
「警察使って・・・・・？」
「鬼だな・・・・」

久保くんたちは、
「なんか・・・・お前ってなんでも利用すんなー・・・」

「あったりまえだろ？自分じゃできないことは人をたよる！」

　それが人間ぞ！

「ひょっとして俺らも・・・・」
「実は・・・コイツに・・・・」
「利用されてるだけなんじゃ・・・・」

「や、やだなぁ。仲間はちがうってーーーーー」

「どうだかなぁ・・・・・・」
「あやしいもんだ・・・・・」

「そんなことないって！信じろ！僕が嘘をついたことがあるか？」

「ある！」「ある！」「ある！」「ある！」「ある！」「ある！」「ある！」「ある！」「ある！」「ある！」

練習場の手はずはうまくいきましたが、
仲間からの信頼関係は薄れました・・・・。



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