ぼくたちと駐在さんの700日戦争

バラバラになった僕たちは、連絡先をジェミーの所に決めていました。

夜9時以降に電話をかけられる家が、他になかったからです。

「ジェミー、久保から連絡あったらよろしくたのむぞ！」

”わかりました～～～・・・。おやすみなさい～～～。体操着に名札つけといてね・・・お母さん・・・”

　ガチャ。

「ダメだ・・・。ぜんぜん使えない・・・・体操着に名前つけとけ、だって・・・」
「なんだそりゃ？」

おかげで西条くんたちとの連絡まで断たれました。

「せめて姉ちゃんにするんだったか・・・」

孝昭くんは言いますが、とてもデマをならべたてた早苗さんに電話をする気になれません。
菊池さんなどから電話が入ろうものなら、えらいことです。

あれから1時間。浜近辺をウロチョロ、あてどなく探しまわりましたが、河野くんもショウジも見つかりませんでした。

何度かラブホテルに入ってくカップルを見ただけ。

「くっそ～～～～、いいな～～～～」
「なんだって俺らは野郎、さがしてんだ？」
「まぁまぁ・・・」

結論を言ってしまうと、実は、ショウジは、すでに家にもどっていました。
久保くんの血縁とは言え、やはり仲間たちとは異なります。

そして、河野くんはというと。
実は、警察に捕まっていました。
派手なチェイスが、暴走族を張っていたパトカーの目についたのです。

そうとは知らぬ僕たちは、アンジェリーナのドライブインで、心身ともに疲れ切って、西条くんたちを待っていました。

「一応、ジェミーにまたかけてみる？」

「そうだな・・・。河野が電話したかも知れないし・・・」

「もしもし？ジェミー。河野から連絡なかった？」

”上履きはいらないと思います～～・・・次の人にまわします～・・・・」

「いや。ジェミー、連絡網じゃなくって・・・・！」

　ガチャ。

「ぜんぜんダメ・・・今度は上履きだって・・・」
「なんの夢見てんだ？ジェミー」
「さぁ・・・・・？」

　♪パラッリッラ～～～

菊池さんのGTOがゴキゲンで戻って来たのが午前1時半。
ドライブインもとっくに閉店していました。

「バリバリだぜい！」

「遅かったな、西条」

「うん。菊池サンがまたアンジェリーナにがして・・・」

「また!?」
「でも、弥生さんがあっけなく捕まえた」

「へ・・・へ～～～～～～～」

「で？どうだった？」

「あ？道場か？なんか、ただの公民館だった」

「そっか。すると手がかりは？」

「ない。あとはお前が言ってた・・・・・」

「駐在さんか？」

「ああ。たよりはそれだけだなぁ・・・・あの駐在がたのみの綱とは・・・」
「皮肉だよな・・・」

まったく。

この時、河野くんもまた、駐在さんに助けを求めていました。
が、もちろんそのことも知るよしもありません。


近くの東屋のある公園に、キャンプを張ったのが2時半。

どんなに力を落としていても、男同士のキャンプは、それなりに楽しいものです。
特に、今回は、人一倍、アホな菊池さんがおりましたので、大盛り上がり！

「腹へった～～～、アンジェリーナ、喰っちゃおうぜ～」
「バカヤロ！ダメに決まってんだろ！」

しかし、菊池さんの話をよくよく聞くと、
「ある時な。ニワトリ小屋の近くでアンジェリーナ逃がしてよ・・・」
「あー、わかる！菊池さん、逃がしっぱなしですもんね」

「そん時・・・入れ替わった可能性もあんだよね～～～～～」

「アンジェリーナじゃないのかよっ！」

「みんな似てんだよなぁ・・・これが～～～」

そりゃそうでしょう。ニワトリですから。

養鶏場では、卵をとるためのメスと、交配や、鶏肉にするためのオスは、飼われ方がちがいました。
特に、交配向けのオスは、優遇され、せまいケージとは別な「遊び場」が与えられたのです。

「じゃ、喰おう！まよわず喰おう！」
「だ～～～～～！ダメだって～～～～～～」

「どうせまた逃げるんだからよ～～～」

「今度は大丈夫だぜぃ！弥生先輩から紐もらってつないだんだ！」

「ホントだろうなぁ～～～？」

いささか懐疑的な僕たち。

「もういいや。そろそろ寝よう。明日、バテるぞ？」
「だな・・・もう3時だ・・・・」


僕のテントでは、西条くんと肩をならべました。

「西条・・・・」

「ん？」

「ゆきさんのこと考えてたのか・・・？」

「あ・・・？まぁな」

「駐在さん、知ってるのかな・・・」

「ああ。あの春香さんの構え、あったろ？」

「うん。劇団の？」

弥生ちゃんに、構えを教えたという、道場に通っていた子です。

「あの人が見せた構えのひとつに、逮捕術があった」

「逮捕術って？警察の？」

「そう」

警察官は、剣道、柔道、合気道を、警察学校の必修科目として習得しますが、その他に、総合武術とも言える「逮捕術」というものを学びます。
これは、日本警察独自の武術で、末端の警察官まで習得することが義務づけられており、あとから生まれたものであるため、たいへんに優れているのです。

「それでな。駐在説って濃厚だと思ってよ」

「なるほど・・・・」

「生きてっかなぁ・・・ケンイチ兄ちゃん・・・・」

西条くんは、ケンちゃんのことを言いましたが。
たぶんそこは、ゆき姉、と言いたかったのでしょう。

「西条・・・あのさぁ・・・」
「・・・・・・・・」

「西条？」
「・・・・・・・・」

「なんだ寝たのか・・・・・」

無理もありません。
もう、午前3時半・・・・。

疲れはピークだったでしょう。

僕もそろそろ・・・寝るか・・・・・
明日も早い・・・・

　Zzzz・・

コケッケッケ～～～～！

「!?」「!?」「!?」「!?」「!?」「!?」

そこに安眠を切り裂くような一羽のニワトリの声！

コカッコッケ～～～～！

そうです・・・アンジェリーナ(不確定)が早くも目覚めたのでした。

ああ・・・さっき喰っとくんだった・・・・。



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