ぼくたちと駐在さんの700日戦争

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西条くんの兄弟子がA町に存在したことは、これで疑いないようです。
ただし、それは数年も前の話であり、道場がすでに閉じられたこともあきらかになりました。

なにしろ、最後はノート代を中学生からかすめとる、というセコい手段で姿をくらましていますから、その後のことはわかりません。

「いや！あの人は帰って来る！」
「そうだ！先生がそんなことして逃げるはずはねぇ！」

素直な暴走族たちには、絶大な信頼があるようです。
けっこうダマされてる気もするのですが、それだけ好かれていた、ということでしょう。

「ここで手詰まりか・・・」
落胆する西条くんに、

「そうでもないよ。西条」

「ん？」

僕たちには、唯一ちがう手がかりがあります。

「奥さんも知ってた。その人」
「え？奥さんって？」

「それに、駐在さんも」

「マジか？あ、あそこ、前任地だっけ？」

「そう」

突然、表情に明るさのもどる、西条くん。

「よーーし！もどろーぜ！」

「待て待て待て。劇団はどーすんだ」
「それにマークIIは？」

「あ、そうだった！あんにゃろーーーーーーーー！」

「なんだ？マークIIって？」
頭が聞いてくれたので、グロリアごと尋ねてみましたが、

「ノーマルじゃわかんねぇなぁ・・・」
「族車ならわかんだけどなー・・・・」

「からまれたり、からんだりしたことは？」

「ありすぎてわかんねぇ・・・・」
「だよなぁ・・・・・・」

やはり・・・・。

「とにかく久保と麻生は行っちゃってんだからさー。追っかけないと」
と、千葉くん。

「よっしゃ！行くか！」

と、暴走族までが腰をあげそうになった時。

ひとりの男が叫びました。

「待て待てーーーーーーぃ！」

菊池さんです。

「てめぇーらはそれでいいだろうが、俺は済んじゃいねぇぜぃ！」

ここで族の頭が、
「あ。アンタのGTOなら、こっちの保険で直すからよ。心配すんな」

と、奇妙なことを言いました。

保険？
いかなる保険であろうと、故意に起こした暴力沙汰に降りる保険はありません。

しかし。それは我々が知らなかっただけで

「あるんだな。これがぁ」

これを暴走族は、それぞれ勝手に”ソッポ”とか”ガチンポ”とか呼んでいましたが、チームそれぞれ違い、総称、俗称のようなものはありません。

車両保険は、保険料が高額になるため入っている族はめったにいませんでした（もともと改造車にはおりない）。
しかし、彼らは事故率も高く、抗争などでも車両はボロボロになります。
このために、わざと仲間同士の車（あるいは他人の車と）をぶつけて、保険金をせしめたのです。
専門のグルの修理屋も必ずいて、狙われたのはアジャスター（事故処理班）のしっかりしていない保険会社や保険代理店でした。

当然ながら、保険金詐欺ですので、捕まればたいへんなことになるわけですが、

「駐車場の事故には警察の事故証明はいらねぇんだよ。へっへっへ」
（公道の事故では、必ず事故証明が必用）

「なるほど・・・」

蛇の道は蛇です。

こういうことをやったので、専門代理店は、暴走族の加入を嫌いました。
したがって、入るのは、スタンドとかの、兼業の保険代理店だったのです。

「でも、それでも、だんだん厳しくなりませんか？」

これに対する答えが、実に驚きでした。

「あのなぁ。保険ってのは車にかかってるんだ。運転手は関係ねーんだよ」

あ・・・・・・

しかし、菊池さん、
「俺は、そういうこと言ってんじゃねぇ！」

今まで見た表情では、もっとも真剣でした。

「えっと・・・そいじゃ・・・なにを？」
「詫びか？」
「ケジメってんなら、やったヤツを・・・・」

「俺はそういうセコいこと言う男じゃねぇ！みくびんじゃねーぜぃ！」

　おおお・・・・

　男だ！

初めて菊池さんがかっこよく見えました。

「俺もアマンダの菊池っていやぁ、ちったぁ名も知れた走り屋だ！なめんなよ！」

「おみそれしやした。アマンダの・・・」
「じゃー・・・いったい・・・？」


「どなたかバッテリー充電ケーブル貸してくれませんか？」

菊池さん・・・・・・。



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