ぼくたちと駐在さんの700日戦争

＜明日はママチャリラジオ！＞

「えっとー、それはラジオ体操のハンコみたいな？」

「ちがうちがう！道場のポイントノートはすげぇんだ！」
「そうそう。なんたってハワイ旅行行けんだから！」

ハワイ旅行～～～？

景気のいい話題に、まわりは族で黒だかり。

「まずな。希望者はノートを200円で購入すんだ」

「はぁ、200円・・・・」

「それに1回道場行くごとにハンコもらえる」

はい。たいへんラジオ体操と似ています。「ノートが有料」という点を除いては。

「でな？1冊につき、200ポイントたまる」

「1冊。200ポイント・・・・？」

つまり「200日通わなくてはならない」ということです。

「で～～～～それが10冊たまると！」
「なんと！」
「ハワイ旅行へご招待～～～～～～～～～～！」

それだと通算2000日通わなくてはなりません。
年に200日通ったとしても10年。

「で？誰か行ったんですか？ハワイ旅行」

「それがよー、途中で中学卒業しちまったからな～～～～」
「中3までしか通えないんだ。道場」

中3まで・・・。

「俺、7冊めだった」
「惜しかったよな～～～」
「そうそう、あと少しでハワイだったのによ～～～～」

小学1年から通ったとしても、小中合わせて9年間。

それは、最初っからダマされているのでは？

「で、年に何日くらいあるんです？道場」

「ん～～～、週末と～、夏休みと～～～～冬休みと～～～」

絶対、2000ポイントいかない・・・・。

「いや。そうでもねー。誕生日とか10ポイントくらいくれるもんな？」
「そうそう！新しいノート買うと20ポイントくらい押されてもんな！」
「俺なんか、そのポイント欲しくって、4冊まとめ買いしたぜ！」

どう聞いてもすげぇ悪徳な商売です。
いたいけなガキ相手に。

しかし、ひとりだけ、

「俺は10冊いったぜ！」

という強者がいました。

「え！マジっすか？ヘッド！」
「さすがヘッドっす！」

なんと頭！

「その日、15の誕生日でよ。”1冊1000円払うなら、お前だけ特別に200ポイント押されたノートくれる”っつーんだ」

「へ～～～～大サービスっすね！」

サービスかなぁ・・・・？

「ヘッドだけずるいな～～～～～」

ずるい・・・・かなぁ・・・？

「へへ！誕生日特権ってやつさ！それで2冊買って、とうとう10冊いった！」

「え！じゃ、ハワイ旅行に行ったんすか？」
「すげぇっすヘッド！」

「それが、溜まった次の週に道場閉まっちまってよ～・・・」

やっぱりダマされてる・・・・。

「惜しかったっスね～～～。ヘッド～～～～」
「あとちょっとでハワイでしたね～～～、ヘッド～～～～」

「うん、惜しかった～～～～」

いや。それってどう考えても、計画的だと思うんですけど。
どこまでお人よしなのでしょう？田舎の暴走族。

ところが、これを聞いた西条くん。

「それはケンイチ兄ちゃんだ！まちがいねー！」

なにか確信を持ったようです。よくない意味で。

← ← ← ←

「ほら！こっからなら更衣室丸見えなんだぜ？西条」

「ケ、ケンイチ兄ちゃん、早く替わってよ！」

「じゃー10円」

「え？金とるの？」

「展望台の望遠鏡だって10円払うだろ？」

「そりゃそうだけど・・・」

「そこいらの景色でさえ10円払うのに、ゆきの着替えがタダだと思ってんのか？」

「う・・・・・そうだね」

「俺だってゼニ払ってんだぜ？西条」

「ほ、ほんとに？兄ちゃんなのに？」

「あったりまえだろー。俺なんか風呂には100円払ってんだかんな！」

「ゆき姉のお風呂なら100円の価値あるよね！」

「ああ！あるぜ！それがたったの10円だぁ！」

「はい！ケンイチにいちゃん！」

「西条、毎度アリぃ！」

わくわく。

「だ・・・誰もいないみたいだよ・・・ケンイチにいちゃん・・・・」

「そっか。運がなかったなぁー。30分したらまた来いや！」

「そ、そん時も10円いるの？」

「あきらめたらおしまいだぜぇ！西条！」

「そ、そうだね！」

30分後。

「こ、今度は道着着ちゃってるんだけど」
「そんなはずねぇだろ。どれどれ？」

「わぁお！ゆき！なんてことを！うわ～～～～、我が妹ながらすげぇーぜー！」

「ケ、ケンイチ兄ちゃん、なにおきてんの？ねぇ？代わってよ！」

「あーーーゆきって意外に胸ありやがんなーーーーー」

「ケ、ケンイチ兄ちゃん、はやくはやくううううう」

「なら20円」

「え～～～～～～～～～～！」

→ → → →

「結局、道場閉まるまで、1000円くらい払ったかな～～～～」

「で？観れたのか？」
暴走族の関心もそこです。

「うーん・・・。Tシャツまでだった」

こいつもダマされてる・・・。

「でも、穴からのぞくと、Tシャツのうなじでも、不思議に興奮するっつーか・・・・」

「わかる！わかるぜ！西条サン！」
「それでこそ男だぜ！」
「お前こそ男の中の男だぜ！」

なんか族と信頼関係が生まれ始めました。



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