ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「♪きゃ～わ～いい～～～あ～の娘は～～～ルイジアナ～～～」

アンジェリーナは静かになりましたが、そのぶん菊池さんがうるさくなりました。
自慢のコンポ『ロンサムカーボーイ』ではありません。
歌っているのは菊池さん。

黙って歌ってくれればいいのですが（黙って歌うというのもヘンだけど）身振り手振りのオンステージ！
運転席で。

時折、マイクの代わりにシフトレバーをいじるので、

　ばあああああああ！

その都度ギアがニュートラルになり、突然、驚異的にフケあがるGTO！

しかし、菊池さんが15回めだか、16回目にニュートラルに入れた時でした。

　ブオオオーーーーーー

左側から極端な割り込みで、車が一台入って来ました。

「ヤローーーーーーー！」

それこそ雄鶏のように、烈火のごとく怒り出した菊池さん！

「いい度胸してやんじゃねぇか！このマークII野郎がぁ！」


＜トヨペット・コロナマークII＝現マークX。72年、日産のスカイラインにトヨタが対抗して出したラグジュアリーカー＞

「ちょ、菊池さん！熱くならないで！」

が、無駄でした。

ペットは飼い主に似る、と言いますが、飼い主がペットに似てしまった悪い例です。

なにしろ暴走族。
思えば、三連ホーン以外では、初めて見せる菊池さんの暴走族の暴走族らしい姿でした。

　バオオオオオオオ！

が。

「待って！菊池さん！待ってって！」

「あんだこのヤロウ！」

なんと。

マークII、見る見る速度をあげると、はるか前を走っていた麻生くんのDTにベッタリとくっついたのです。

「アイツだ！グロリアだ！」

「マークIIだって！トヨペットコロナマークII」

「えっと、そうじゃなくってー」

言ってる間にも、マークII、速度をゆるめた麻生くんのDTを煽り始めました。

「やっぱりそうです！運転でわかります！やっぱり『ゆっくり走ろう』に気づいたんだ！」

「ゆっくり走ってねーだろーがよ？」

「いや・・・・・」

こういう人に物事を説明するのは、本当に大変（←本当に大変）

麻生くんが、左端に寄っているというのに追い越そうとしません。

「間違いない！・・・・しまった！」

こんなに早く登場するとは思ってもみませんでした。
でも、考えてみると、すでに劇団の練習している第6小学校は目前。
僕に土地勘がなかっただけだったのです。


「わかってれば、DTの運転は、せめて孝昭に代わってもらうんだった・・・！」

麻生くんは改造されているとは言え、さすがに125。
孝昭くんたちとは、ずいぶんと離れていました。

「孝昭が気づいてくれるといいんだけど・・・・」

麻生くんの走りには、すでに動揺が見てとれました。

「あのマークIIは、族じゃねぇぜぃ？」

「ええ。だって、たぶんヤクザですから」

「あんだってぇええええええええええ！聞いてねぇぞおおおお？」

もう何度も言ってるのに・・・・。

「菊池さんは、ホーンとニワトリで耳がいっちゃってんですよ、きっと」

「るせぇ、るせぇ！」

「あのマークIIとの間に割り込んでください！」

「じょじょじょ、じょーだんでございましょー？」

なんだって丁寧語になるんでしょうか？

「だ、だってここは追い越し禁止なのでございますよ？」

「いいから！しかけないと麻生があぶない！」

「あああん？そこまですんのか？そんなことしたら殺人未遂だろが」

「だって・・・・」

現に西条くんはやられました。
それくらいは平気な輩です。
（まー、実際は、暴走族も、それくらい平然とやってのけるのですが）

しかし、前方から久保くんと河野くんが同時に下がって来ました。
麻生くんの異常事態に気づいたのです！

よっしゃ。ここは。

「永ちゃんなら、ぜったいやりますよ？」

暴走族のカリスマ！E.YAZAWA作戦！
（実際、E.YAZAWAは、ヤクザにしかけた逸話がある）

「西条がいれば勝てます！」

「そ、そうか！だよな！よっしゃあああ！」

「そうこなくっちゃ！いけ！エイちゃん！」

「♪あ・・・あ～いらびゅ～～～、おっけい～～～」

「なんでバラードなんですかあっ！」

さっきとぜんぜん勢いがちがいます。

「いや～～～、だってヤッパよ～～～～～～」

すっかりビビリ入ってます。

ああ・・・こんなんだったら無免許の村山のほうがマシだった・・・・。



＜『アイラブユーOK』=75年、矢沢永吉のソロデビュー曲。矢沢10代の頃に作られた＞

もともと、グロリアが現れた時のフォーメーションにはGTOは不可欠でした。
車でなければ、わざと擦られた時、ひとたまりもないからです。

「じゃ・・・じゃぁ、なにがいいかな～～～～～」

はっきり言って、曲目悩んでる場合じゃないんですけど。

「さっきのでいいじゃないですかっ！」

「♪きゃわいいあの娘はルイジア～ナ？」

「そう！それ！発音いいですね！菊池さん！」

このさい、ニワトリもおだてりゃ木に登る作戦です。
とにかく勢いづいてもらわないと。

「え？まぁな。俺、こう見えてハーフだからよ」

「えーーー！そうだったんですか！」

とてもそうとは見えません。
人は見かけによらないものです。

「父ちゃんO型で、母ちゃんB型」

「さっさといけーーーーーーー!!」




人気ブログランキング｜ブログ村ランキング

　本日のアップへ→
　第52話へ→

　▲後編目次へ

関連記事

• 銀河戦隊クボレンジャー 第52話
• 銀河戦隊クボレンジャー 第51話
• 銀河戦隊クボレンジャー 第50話