ぼくたちと駐在さんの700日戦争

信号は赤！

なのに、グロリアも速度を緩める気配がありません。

田舎の交差点は、町中の交差点のような交通量はありません。
まして夜。
しかし、その分、車は飛ばして来ます。

「しっかりつかまってろ！」
「おお！」

西条くんは、バイクを急激に左に倒すと、そのままの速度で、左折の軌道をとりました。
赤信号突入としては、最も無難な方法です。
車にこれはできません。

　ギュ　ギュギュ

オフロードのタイヤのグリップは弱く、僕が後ろに乗っているというのに、簡単に悲鳴をあげます。

右は!?

「来てない！西条！」
「ラッキ！」

しかし、左から青信号でつっこんで来ている車がありました。

　バアーーーーーーーー！

「へ！クラクション鳴らす暇あんならブレーキ踏みやがれ！」

言えてる！

激しく蛇行しこの車を回避！

「グロリアは!?」
「来てる！」

　バアーーーーーーーー！

再び同じクラクションの音がして、直後、激しいブレーキ音！

　キキィーーーーー！

止まったのは左から来た車のほうでした。

　"バカヤローーー！”

ドライバーが怒鳴っているようですが、グロリアは当然無視！

「だめだ！西条！来てる！」
「しつっけーなーーーーーーー」

実は、僕には、いえ、おそらく西条くんにも、ここで「信号無視」をつかまえにパトカーでも来てくれればいい、と思っていました。
が、捕まりたい時には、捕まえてくれないものです。警察。

「くそーーーーー、いらん時はつかまえるくせになーーーーーー」

それはわが町のロボチュウだけ。

　オオオオオオオオオ…

再び直進のカーチェイス！
脇道を見つけて入りたいところですが、グロリアはわずか50センチほどにベッタリです。
速度はゆるめられません。

「クソーーーー！もうちと加速しねぇかなーーーーーーー！」

こうなると、もはや蛇行もできません。
相手は「衝突」を恐れていないのです。

ぶつかられて、大けがを負うのは2輪側。
相手はバンパーがへこむ程度なのですから、こうなると圧倒的に不利です。

「しかたねぇ！麻生の装置の成功にたよるか！」

「え？使うの？」
「この際、なんだっていいや」

いやぁ。なんだってよくはないと思うんですけど。

西条くんが、トグルスイッチを上げました！

「ファイアーーーーーーーーー！」

　パタ！

同時に、僕の後ろになにか違和感がありました。

「なんだーーーー、このスイッチーーーーーー？なんにもおきねぇな」

「なんか後ろに看板みたいの立ったーーーーーー」

しかもランプまでついてます。

「看板～～～～～～？」

「な、なんか、グロリアもっと怒っちゃってるみたい・・・・」

おそるおそる、その看板を見ると。





『お先にどうぞ！

　ゆっくり走ろう日本列島』





うわ～～～～～～～
麻生～～～～～～～

このシチュエーションで『お先にどうぞ』は怒るわ～～～～～・・・・

あーあ。グロリア、かんかん・・・・

ご丁重にイルミネーションまでつけちゃって・・・・。

お先にどうぞ・・・・・・・・


← ← ← ←

「ったく。いい根性してやがるぜ、このガキ！」

「へ。ざまみろ！」

唯一の手がかりであった年賀状を隠滅した少年西条くんは得意満面。

「ガキぃ。ハガキのインクはなぁ。毒なんだぞ、毒」

「え！」

もちろん、取り立て屋のウソですが、まだ幼い西条くん、この脅しに青ざめました。

「かわいそうになぁ。死ぬかもなぁ、ボウズ」
「そうそう。まだガキだってのになぁ。かわいそうに」

「えええええええええ？」

しかし。

「か、かまわねーよ！ゆき姉のハガキだったら！」

西条くんは、幼すぎて、まだ「死」の意味がわからなかったのかも知れませんが、
この、幼な子の「覚悟」に、さすがのヤクザ者も驚きました。

「ほほぉ～～～。よく言った！」
「このガキ、ここの娘にホレてんですかね？アニキ」

「そ、そそそそそそそそそ、そんなんじゃねーよ！」

「まぁまぁ。女にホレるってのは、そういうこった！見所あるぜ、ボウズ」

「え？」

「さっき言ったのはウソだ。安心しな、ボウズ。毒でもなんでもねぇ。ただなぁ・・・・」

「な、なんだ！」

「あの年賀状は、ババァのであって、娘のじゃねぇぞ？」

「・・・あーーーーーーーーーーーっ!!!」

西条くんは、この日を境に「老人」が嫌いになりました。

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