ぼくたちと駐在さんの700日戦争

【第24話 初恋をさがして(2)】

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その日、少年西条くんは、人っけのない道場の扉の前で、呆然と立ち尽くしていました。

窓からのぞいてみようとしますが、中からカーテンが閉められていて、なにも見えません。

ようやく、師範が事務所として使っていた窓。
ここだけは、ブラインドでしたので、横の隙間から中をかいま見ることができました。

泥棒に入られたかのように、ひどく散乱した室内。

飾ってあった絵までがなくなっていることの理由を、少年西条くんは、知る由もありませんでした。

が。その床に、1枚の額縁が落ちていることに気づきました。

それは、ゆき姉が、学校の書道展で表彰状をもらったもので、師範がたいそう気に入って、一時は道場にまで飾られていたのですが・・・。

「お父さん！」

「あ？道場じゃ師範と呼べ、師範と！」

「いいから、その習字はずしてよ！」

「え？なんでだ？よく書けてんのに」

「普通の道場じゃ、子供の習字なんか掛けないよ？」

「そーかなー。うまく書けてんだけどなー。な、西条。お前もそう思わんか？」
「えっと～～～～～～。思う。ゆき姉、字うまいね！」

「ほーら。西条もそう言っとる！」

「いいから外して！」

ゆき姉の猛反発をくらい、しかたなく事務室に移し替えたものでした。

その、ゆき姉の額縁が、踏みつけられガラスも割れているのが、西条くんにはいたたまれなくなりました。

つまりそれは、債権者たちにとって価値がなかったから、置き去りにされたわけなのですが、むろんそんなことは、少年西条くんにはわかりません。

「あ！そうだ！」

西条くんは思い出しました。

「たしか、更衣室のドア・・・・」

ゆき姉には、ケンイチ兄ちゃんという、暴れん坊の兄がおり、西条くんたち子供相手に、ろくでもないことをたくさん教えていました。

その中のひとつ、

「西条。更衣室のドアはなー、針金で開けられるんだぜ」

「へー。開けるといいことあんの？」

「ある！あるなんてもんじゃねぇ！」

西条くんは針金を捜しました。

　カチャ・・・

はたして
ドアは開きました。

「事務室はたしか、こっち・・・・」

ところが。もぬけのカラと思っていた家の中は、人がいたのです。

「ボウズ・・・・この家のもんか？」

固まる西条くん。

→ → → →

「生まれて初めて見たヤクザだったなぁ・・・・」

「へぇ・・・・」

「そいでな。そいつが聴くんだ。この家のもんが、どこ行ったか知らないか、ってよ」

「金貸し、かな？」

「ま。そんなとこだ。でも、ケンイチ兄ちゃんに比べたら怖くなかった」

「どういう兄ちゃんだ、そりゃ？」

「俺が知る限りで、地球上の哺乳類で最も凶暴だったなぁ」

「へー・・・・会いたくないな・・・」
「その妹ってのもすごそうだな。孝昭んとこを参考にすっと」

いい例えです。

「いや。孝昭の姉ちゃんとゆき姉いっしょにすんな！」

「どういう・・・」
「意味で・・・？」

聴けば聴くほど、よく似ている気がするのですが。

「孝昭の姉ちゃんほど、ペチャパイじゃねぇ！」

そっち？

「いや。西条。ゆき姉って別れた時いくつ？」

「小6」

そうか。早苗さん・・・小6に負けるのか・・・。

「バカ言え。早苗さん、17だぞ？胸もけっこうあるじゃん」

「あれ？孝昭から聴いてねぇか？ありゃ詰め物だからな。ダマされんなよな」

「え～～～～～～～～～～」

じゃぁ、あの、ムニュ♪も偽物？？？

それにしても孝昭くん。姉のプライベートというものを少しは考えないと・・・。
生理日から穿いているパンツ、胸の詰め物まで、すっかりバレバレ。


「どーれ。そろそろ行くかぁ！西条の」
「初恋さがし！」

「よせって・・・・」

西条くんの話を聞いてから、不思議と疲れは吹き飛びました。

そのままT市内。

「どこって言ったっけ？久保」

「T市立C小学校だ」

すでに時間は午後8時をまわり、僕たちは、T市内に入ったと同時に交番でたずねることにしました。
あたりの駐在所は閉まっていましたが、閉じた駐在所を開けてもらうのは、お手のもの。

自宅部分を訪ねればいいのです。

　ドンドンドン！

「あん？なんだ？」

対応に出た最寄り駐在さん。なんとパジャマ！
若くて強そうなのは、このあたりの治安がまだ悪いからかも。

自宅部分まで訪ねて来て、「道を聞くだけ」は、さすがに不愉快そうですが。

「市立C小学校ぉお？」

「はい。場所わかんなくって・・・」

「C小学校っつーとーーー・・・・・」

それでも対応してくださる若い駐在さん。
うちの町じゃこうはいきません。「撃ち殺されたいか？」とか言われるのがせいぜいです。

「市立C小は、第一から第六まであるんだけど。どれだ？」

「どれだ？久保」
「ああっと～～～～～～。わかりません。算数ニガテなもんで・・・・」

「というわけで、第1から第6まで全部教えてください」
「わかりやすく」

「・・・・撃ち殺されたいか？」



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