ぼくたちと駐在さんの700日戦争

【第19話 大誤解(2)】

「は～～～～い」

来ました！
うるわしの女王蜂様！

チャンスは一瞬です。
このわずかな間に、ガキどもが「本能」にまかせて、弥生ちゃんと同様にチュ～～～～してくれればいいのです。

が。

「ほえ～～～～～・・・・・・」

ガキども。いえ、銀河戦隊クボレンジャー。
足が止まりました。

それほどに、奥さんは「強烈に美人」だったのです。
子供が水鉄砲をためらうほどの。

考えてみれば、僕たちが初めて奥さんと出会った時だってそうでした。

そうこうしているうちに、駐在さんが制服を着替えるために、住居部へ。

「あららら・・・・」

西条くんの作戦は、女王蜂様の美貌の前に、あえなく失敗に終わりました。

失敗に終りましたが。

僕たちは心のどこかで、確かに「安堵」していたのです。

今までだって、奥さんにダイレクトに悪戯をしかけられたことは、実はほとんどありません。
やろうと思えば、奥さんのブラはおろか、オッパイだって、見ようと思えば見れたはずです。

「お前の作戦を持ってすればな」

「なんで僕に言う？」

しかし。一度もそうしようと思わなかった理由を。僕たちは、子供たちから思い知らされることになったのです。

同時に、西条くんがビショ濡れ弥生ちゃんを、見られたくなかった理由も。

「しかたない・・・。井上んとこでも襲うか・・・」

ぉぃぉぃ。別な集団になってるぞ。銀河戦隊。

それでも、トシオたちクボレンジャー隊員は、今回の遠征が楽しくてしょうがなかったらしく、

「またロボチュウと戦いたーい！」
「おもしろかったーーーー！」

「そうかそうか。いつでもあそこに立ってるから。またやろうな！」

「ウン！今度はもっとおもいっきり引っ張ってみる！」

それはやめたほうがいいかも。

「ところで、久保ってどうしたっけ？」
「あれ？」

クボレンジャーの「名前の元」がいません。
いまさら気づくのもどうか、と思われるかも知れませんが、久保くんがグループ行動から外れるのは、すでに常識化していて、誰も気に留めなかったのです。

しかし。
このことが、翌日の問題勃発の元になりました。

久保くんは、実は、ひとりだけ、弥生ちゃんのショーを追っかけていたのです。

「なんだとぉ！久保ぉ！」

いつも寛大な西条くんが怒りをあらわにしましたが、久保くんは、当然、西条くんが怒っている理由がわかりません。

「へ？なんで？お前ら、勝手にいなくなってたんじゃん」

「テメェが便所に消えたんだろーが！」

「なに怒ってんだよ？西条」

西条くんは答えられません。

「へ？ひょっとして西条、モモレンジャーちゃんにまいったのかぁ？」

「そんなんじゃねぇ！」

「やめとけやめとけ。相手は高専だぜ？95%が男子生徒だぜ？」

「だからそんなんじゃねぇって！」

ここは西条くんがちょっと気の毒でした・・・。

ところが、久保くんは、帰り足の弥生ちゃんとかなり話し込んだらしく、新しい情報を得ていました。

「そんなに会いたきゃ、劇団、行けば会えるぜ？」

「劇団？」

弥生ちゃんの劇団は、T市の小学校を借りて練習している、と言うのです。


その日の帰り。

「ふうん・・・。西条がねぇ・・・・・」

おおまかな話を知ったグレート井上くんは、あいかわらず冷静でしたが、

「で？劇団に行ってみるって言うのか？」

「そうなんだ。けっこう本気だ。西条」

「片思いでもしたのかな？」

「そうじゃないと思う・・・・」

僕も（この時点で）「ゆき姉」という人のことを、あまり詳しく知りませんでした。
詳しく知らないことを、いくら仲間とは言え、ベラベラと話すわけにはいきません。

ただ、「恋」というものとはなんとなくちがう、ということだけがわかっていました。

西条くんの恋というのは。

「もっとこう。瞳の輝きがちがう、と言うか・・・・」

もっと子供っぽい目で。

例えば。そう。

駐在さんの奥さんに見せるような・・・・・。

「あれ？」

「なんだ？どうした？」

「いや・・・・・」

僕にとって、このことが他人事でなかったのは、西条くんが、僕を誘っていたからでした。
久保くんの情報によると、劇団練習は午後6時から。
T市までの道のりは非常に遠く、学校が終ってから、バイクを飛ばして間に合うか、という微妙なところでした。

翌日。
予定では、西条くんとT市まで行く日。

僕は、まだ悩んでいました。

なにしろ、それほどに遠い。

T市も。そして、弥生ちゃんも。

「どうしたものかな・・・・」

が。

　ガツンッ！

突然、自転車が後ろ側に引っ張られました。

よろける僕に、

「わははははは～～～！捕まえたぞ～～～～！ママチャリ～～～～～！」

し、しまった！
あまりに考え込んでいて、そこが駐在所通りということを、すっかり忘れていました。

ガッチリと僕を捉えた駐在さんの片手に麦茶！

それを僕の股間に向けて

「う、うわっ！つ、冷めたっ！な、なにするんですかーーーーーーー！」

「うるさいっ！」

ズボンがみるみる濡れていきます。

「あーーーーー・・・ーーーー！」

なんと言うか。
なつかしい感覚と言うか。

いや、そんなこと言ってる場合じゃありません。

駐在さん、

「お～～～い。加奈子～～～。パンツの替えないか～～～？」

ことさらデカイ声で、

「ママチャリが、そこでションベンもらしたんだとさ～～～～！」

「な、な、なんてことを・・・・！」

この人通りの真ん中で！

「まったく高校生にもなって～～～～！わははははは～～～～～！」

勝ち誇るロボチュウ！

「駐在さんっ！」

「あのなぁ、ママチャリ。あの日な？本官は会議あったんだ、会議」

「はぁ・・・・」

「ビールの匂い、少し残っててな？どんだけ針のムシロだったかわかるか？」

「あー・・・そこまでは・・・。でも二次会じゃ飲んだんでしょ？」

「そういう問題じゃねぇ！」

そういうことだったかぁ・・・。

それにしてもこの逆襲・・・・。

そうこうしているうちに、奥から奥さん、
「パンツはあるけど・・・・ズボンはさすがに・・・・」

あいかわらずニブいのですっかり真に受けてます。
真に受けてること自体、高校生としては、かなりのショックです。

「い、いえ。奥さん、そういうんじゃなくって・・・・」

「じゃ、がんばって学校行って来い。ママチャリ。そのうち乾く」

行けるかっーーーーーー！



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