ぼくたちと駐在さんの700日戦争

車椅子バスケットの練習は、またも小学校の体育館を借りました。
それにしても、よく孝昭くんの申し出で貸してくれるものです。

「それが貸してくれるんだー。人望っつうヤツよ、人望！」

「へー。すごいなー。孝昭ー」

「貸してくれなかったら、今年中に、歴代のタイムカプセルぜんぶ掘り起こすつってあっからよ！」

「・・・・・」「・・・・・」「・・・・・」

それは「脅迫」であって、「人望」とは言わないのでは？


意外に大変だったのは、車椅子の移動。
バスケット用の車椅子は、折り畳むことができません。
もっとも、折りたたみ式など、さすがにノッポさん部隊でも作れなかったでしょうが。

それが9台も！

そこで考えたのが、ダンパに協賛してくれた運送会社さん。

「あー。それくらいの距離だったら、1台出してやるよ」

「ありがとうございます！社長さん！」

前回、婦警さんのふとももにダマされて3000円とられたあげく、この親切！

「女のふとももって偉大だなー」

ホントだね。


しかし、これがちょっとした失敗でした。

さっそく、運送屋さんが、
「9台。これで全部だなー？」

「はい！ありがとうございました！」

「帰りはどうすんだ？」

「帰りはパトカーで運びますから、いいです」

「パ・・・パトカー？」

公共の物は利用しない手はないのです。

「あーーー。駐在早く来ないかなーーーーー」
「うん。楽しみだな！」

「で、チャーリー。タイヤはずれるのってどれ？」

「1番前のやつ」

「1番前って？横1列なんだけど・・・」

「あーーーーーーー！」

「ど、どうした？チャーリー」

「ど、どれだかわかんなくなった・・・・」

そう。運んだ時と降ろした時は順番グジャグジャ。

「え！なんか目印ないのかよっ！」

「目印って・・・。でっかいタイヤがふたっつ付いてるヤツなんだけど・・・・」

「全部付いてるぞ！バカ！」

それでも手作り品。
溶接した坂本くんなら、

「さっぱり、わかりません」

バカばっか。

しかし、孝昭くんにしこたま怒られ、

「これだった気もします・・・・」
不安げな坂本くん。

「じゃ、それ、ジェミー、乗れ」

「え～～～～～！なんでボクなんですか～～～～～！」

「だって、お前が一番体重軽いだろ？」

「先輩がダイエットすればいいじゃないですか～～～～！」

今からやっても間に合いません。

と、そこへ、

「よーーー。孝昭ーーーー。やってるなーーー？」

「あ。先生」

なにごとが始まるのかと、運動着の先生がいらっしゃいました。

「へーーーー！車椅子でバスケット？」

「うん。そうなんだ。いろいろ事情あってよ」

「いや！素晴らしい！孝昭！高校生にもなるとちがうもんだなー！」

たいしてちがわない気もします。
だってタイムカプセルで脅迫。

「よし！先生もやってみよう！車椅子はあるか？」

「はい～～～～。ここに1台～～～～～～♪」


小学校の先生も交えて、車椅子バスケットの練習が始まりました。

この先生。孝昭くんの話では体育教師らしく、早くもリーダーになっちゃってます。

「おらぁ！孝昭ぃ！ドリブル遅い！」
「はい！」

「持ったらすぐパス！なにやってんだーーーー！河野！」
「はい！」

鬼コーチと化す、先生。
楽しむだけのつもりだった僕たちには、とっても予定外でした。

「遅い！遅い！遅い！遅い！」

星飛雄馬も真っ青の特訓です。
そこには、孝昭くんの「タイムカプセル脅迫」が、加味されていることは間違いありませんでした。

　ハァ・・・・ハァ・・・・
　ゼェ・・・・ゼェ・・・・

とにかく厳しい鬼コーチ。
里美さんに対する寅蛍なんてもんじゃありません。

「ヘタクソーーーーー！お前、何年やってんだ！」

さっき始めたばっかですけど・・・・。

「返事しろ！返事ーーーーーー！」

「うっふ～ん」

「フザケんなーーーーーーー！体育館10周！」

寅蛍とは、観点もちがうようです。

「遅いつったってよー・・・・先生。車椅子がなかなか・・・・」

「よし！先生が手本見せてやる！」

しかし、怒鳴るだけありました。
さすが体育教師。さっき乗ったばかりというのに、すでに車椅子を自由自在！

「すげー」
「まったくだ」
「しんじらんね」

「フッフッフ。実は、以前、腰の骨折った際に、乗ったことがあるんだ！」

「そうだったのかー」
「どうりでうまいと思ったー」
「シュートきまったらすごいなー」

絶賛の嵐に気をよくした先生。

「フ・・・。シュートか・・・・」

先生。ゴールを睨みつけます。
（当時の車椅子用バスケットは、高さの低いポートボール用のゴールを使うことが多かった）

「見せてやる！こうやってなー！」

　ダーーーー！

すごい速度で走り出す先生！

「見てろ！シューーー」

トの最中に、車椅子バラバラ。

あわれ先生は、前のめりに体育館をすべり、

　ガン！

置いてあったオルガンに、しこたま頭を打ちました。

「わかりました～。先生～」
「いい手本になりました～」
「オルガンには気をつけま～す」
「わははははははははは」

「やっぱりあの車椅子だったんだな」
「うん」

よかった。わかって。


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