ぼくたちと駐在さんの700日戦争

しかし、西条くんたちは、また、あらたな火種を拾って来てしまいました。

翌日の学校で。
僕は千葉くんを捕まえました。

「おい！千葉ぁ！おまえら！大丈夫か？」

「え？大丈夫かって？」

「だって『一本どっこ』でバイト・・・・」

「えっと。それのどこが危険なんだ？」

「あ・・・え？い、いや・・・・・」

どうやら『一本どっこ』は健全らしい。
まぁ、主である寅蛍が、里美さんつきっきりなのですから、他に危険と言ったら『365歩のマーチ』くらい。

「主にビラ配ってたんだよ」

「ビラ？『一本どっこ』の？」

「いや。ダンパの。もう近いだろ？」

ビラ？

「え？だって、ダンパは60名限定じゃなかったっけ？」

そしてそのチケットはケーキのオマケとして売りさばいてしまいました。

「んーーー。それがさー。店長の気が変わったらしい」

「店長って？」

「寅蛍」。

あ、そうか。店長なんだ。
なるほど。
あんなんでも店長だ。

「もっと、いっきに客増やしたいらしい」

「客を増やす？」

「マリエさんの希望らしい」

「マリエさんの？」

やはり、よくないのかな・・・マリエさん・・・・。

他に思いつく「心変わり」はありません。

「それでビラ配りを？」

「そう」

しかし、これが思わぬ火種を作っていました。

「ところがさー。配ったわきで破ったやつらがいてよー」

「あ！ひょっとして中央のやつら？」

僕をカツアゲしようとした連中です。

「そうそう。これにまーーーー、孝昭が怒っちゃって」

「な、なんだって？」

「しかも、こいつらが思ったより強かった」

「え？やられたのか？孝昭が？」

にわかに信じがたい話です。

「1分も持ちやがった」

「あ・・・そ・・・・」

そりゃ強いね。

「1分も持ったんで、これに孝昭がさらにキレてよー」

理由なき憤慨です・・・。
相手も気の毒です。

「相手にも援軍が来て」

「あ、6人くらいだろ？」

「そうそう。西条も加わって、もうめちゃくちゃ・・・・」

「えええええええ！」

そりゃまずい・・・。

「西条って・・・バレてた？」

「どうかなー。俺はバレた」

千葉もやってんじゃん・・・。

しかし、いずれにせよ、ダンパのビラは配っているわけですから、結果は同じです。
こうなると「荒らし」に備えなくてはなりません。

「ダンパ、ジャマしに来るかなー」

ありえる。

もともと当時の「興行」というものは、そういうものでした。
この「荒らし」に対抗するため、演歌歌手などの公演は、地元ヤクザと縁が切れず、週刊誌に『黒い関係』が、スッパ抜かれたりしていたものです。
中央のヤクザと地元ヤクザがもめるのも、たいていは「興行」がある時でした。

プロの世界でさえそうなのですから、高校生の開く文化祭程度でも「荒らし」はけっこうあり、不良たちはピリピリしていたものです。

「うーん。まずいことになった」
今さら心配そうに千葉くん。

「大丈夫だ。心配するな」

「そう？」

「ああ。それより車椅子バスケット、よろしく頼む」

と、そこに。

「あ、いたいたーーーーーー」

数名の女子が僕の元に。

「工藤先生が呼んでたよー」
「なんかカンカンだったよー」

「そ・・・・。ありがと・・・・・」

早い。って、普通バレますが。

職員室。

「このアッコちゃんはなんだ？」

「椅子です」

「なんでアッコちゃんなんだと思う？」

「それはですねー。実は、アッコちゃんじゃないんです」

「あ？」

「もうすぐ普通の椅子にもどります。♪ラミパスラミパスるるるるる～」

「それってアッコちゃんにもどる呪文じゃないか？」

「あ・・・・・・」

よく知ってやがんなー。

「そうですね。♪テクマクマヤコン、テクマクマヤコン。事務椅子になぁれ！」

「ならんな・・・・」

「機嫌悪いみたいですね。アッコちゃん」

「私も、悪い」

ああ・・・・・。

「でも、先生。なんで僕って決めてかかるんですか？」

「それはだな～」

工藤先生。椅子をひっくりかえすと

「ここに、マジックで君のクラスと名前が書いてあるからだよ」

「はあ・・・・・？」

井上のヤツ～～～～～～～～～～～！
やりやがったな～～～～～～～～～！

どうりで、あの妹思いが、気前良くくれるもんだと思ったら・・・・。

「アッコちゃんが、事務椅子にもどるまで返さんからな！」

「え～～～～～？」

♪ラミパスラミパスるるるるる～

♪ラミパスラミパスるるるるる～

♪ラミパスラミパス・・・・



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