ぼくたちと駐在さんの700日戦争

プログラムTがうまくいったことに、すっかり気をよくしていた僕たち。

なんと言っても一番の収穫は、

「第48問。好きな人はいるか、で、はい、だった」
「やっぱ富士見さんが好きなんだな？」
「うん」

「ま。イケメンだしな」
「もっともだ」

「でも、誰とは聴いてないだろ？」
と、森田くん。

「やなこと言うなぁ。富士見さんに決まってんじゃん。だってお弁当も手作りしたんだぞ？」

「そうそう。富士見さんも彼女が作ったって」

「いや・・・待て・・・」
今度はグレート井上くん。

「あ？なんだよ、井上まで」

「里美さんの、あの態度で、お弁当なんかつくるだろうか？」

「あ？」

確かに。
僕たちのクイズをやるまでは、とことんワガママで、それを隠そうともしなかった里美さん。
あの人がお弁当を作っている姿が想像できません。

「それに、あそこ、LDKだったからキッチンも見えたけど、あそこのシンクは85センチだった」

当時、日本の『流し台』の高さは80センチ。メーカーのシステムキッチンは【平均身長÷2+5cm】で算出されるため、日本人女性の身長が高くなってきたことから、その後、85センチが標準となります。したがって、この頃発売されたシステムキッチンは、たいてい85センチ。
この他に、背の低い人向けに、80センチと75センチの規格物が用意され、わかる人には、一目瞭然でわかりました。

「うちは妹も料理するから、低めにしてある。車椅子なのに85センチで料理できるんだろうか？」

「え～～～～～！夕子ちゃん、料理すんの？」
「食いて～～～～～～」
「夕子ちゃんそのものも喰いたい」

「最後は聞き捨てならないぞ!?孝昭ぃ」

「まぁまぁ。お義兄様」

「兄って呼ぶなっ!!」

「井上。なにが言いたいんだ？」

「少なくとも、そのお弁当は、あのお母様がつくったものじゃないか？」

「あ・・・・・」

ありえる。
あのお母さんなら。

推理派のグレート井上くんの言ったことは、たいてい当たります。

「なんだって・・・また・・・・」

「婚約しているんだろ？娘が嫌われないようにじゃないだろうか？」

するどい・・・。
するどすぎる・・・。

僕は、里美さんが笑ったことのうれしさに、そこまでは遠く考えが及びませんでした。

「いや、だってよー、富士見さんは、たぶん結婚するから警察やめるんだろ？」
と、西条くん。

「そこだよ。おかしくないか？」

「あ？」

「これから結婚するのに、安定した公務員をやめるってことがさ」

井上くんに言われるまでもなく、そこは、僕も気づいていないわけではありませんでした。
最も腑に落ちない点でもあったのです。

「あれ？」

急に雲行きが変わりました。

そう言えば、婚約に至るまでが早すぎる気もします。

「千葉。事故は去年って言ったっけ？」

「そう。3月。これが新聞」

「おお！」

そこには、確かに人身事故。
被害者は里美さん。
加害者は富士見さん。

「警察官って書いてない・・・！」

「初めの頃は、伏せるんだよ。あったりまえだろ？」
（つい最近まで、こうしたマスコミ操作は常識的にはびこっていた）

「だって、富士見さんって、警視長の息子らしいぞ」

「け、警視長って？」

「えらい人」
「えらいのか？」

「えらい。とっても」

「アグネスラムとはどっちがえらい？」
「そりゃアグネスラムだろ」

「おおおおおお・・・・！」

「アグネスチャンとは？」
「アグネスチャン、かな？」

「おおおおおお・・・・！」

「だよな！警視長つったて、アグネスチャンよりエラいわきゃないよな！」

比較対象になっているのか、よくわかりません。

「お茶の水博士とは、どっちがえらい？」
「お茶の水博士」

「なんだ、たいしたことないじゃん」

そうは言いますが、お茶の水博士。ああ見えて実は科学技術庁長官です。


＜お茶の水博士=ご存知『鉄腕アトム』登場の科学者。実はとってもエライ人だったのだ＞

結局よくわかりませんでした。


僕には、奥さんが言った「おイタはダメ」という言葉が再びよみがえっていました。

そう考えると、事態はとんでもない方向に向かっている気さえしてきます。

そしてそれは、久保くんの遅れた情報によって、確定することになりました。


「里美って人の情報、仕入れたぜ！」

「ホントか？久保！」

「ああ。意外にチョロい情報だった。さすが有名人だな」

「有名人？」

「ああ、あの人が国体選手だったってのは本当だった」

「へぇ。それで？」

「でな？事故直前までは、コーチとつきあってたらしい」

「はあ？」



人気ブログランキング｜ブログ村ランキング

　お詫びとお知らせへ→

　▲目次へ

関連記事

• 続・すもももももも 第71話
• 続・すもももももも 第70話
• 続・すもももももも 第69話