ぼくたちと駐在さんの700日戦争

＜シリアス恋愛モード。最終＞

”ゴメンナサイ・・・”

受話器の向こう側。
彼女は、僕がずっと奥さんに言えないでいた言葉を
いともたやすく言いました。

得てして思春期の女子は、同じ年頃の男子よりもずっと大人ですが、和美ちゃんと僕とには、親と子ほどの差がありました。

”森田クンから聞いたの・・・”

そうか・・・。森田のヤツ、連絡してくれたんだ・・・。

”君はいつも予想外だから・・・”

「うん」。

”でも・・・美奈子さんとの合成はやめて・・・・”

和美ちゃんの声が、少し鼻にかかっているのがわかりました。
ひといちばい泣き虫な彼女は、おそらく、この電話をかけるつい今しがたまで、泣いていたのです。

なのに、僕は。
ずるがしこいところだけは、和美ちゃんよりも上手で、

ここで彼女を素直に認めると
それが「つきあう」ことに発展してしまうのが怖くて。

「じゃ、脱いでくれる？」

”え・・・？”

「和美。脱げるって言ったじゃない」

”え・・・？”

”え・・・？”

彼女は、驚きのあまり、三度同じ問いを繰り返しましたが

ついには。

”・・・いい・・・よ？”

それが、彼女にとって、どれほどの決意で言っていたものなのか、

後にして思えば、そこで彼女が怒って電話を切らなかったことは幸いでした。

「冗談・だ・よ」

”え・・・？”

彼女は、これにも同じ問いを繰り返しました。

「冗談だってば。まぁ、和美のヌードは見たいけど」。

僕が、そう言って茶化すと。

なのに。
やっぱり女子のほうが、男子よりは上で

”君だけだったら・・・”

「え・・・？」

今度は僕の番。
おかげで僕は言葉に窮するところまで追い込まれました。

すると。

"冗談・だ・よ”

彼女は、僕の口調をそのままマネして返して

”ウフ。”

と、小さく笑いました。

　やられた・・・。
　まんまと・・・。

後にも先にも。こんなに女性がかわいらしく思えたことはありません。

「あのさぁ。和美」

”なに？”

「僕を・・・あきらめないで・・・」

へんな日本語。
どういう意味かわかってない。

「なにがあっても」

和美ちゃんは、しばらく無言になりましたが。

”それも・・・冗談？”

「いや・・・よくわかんないんだ」

和美ちゃんは、今度はほぼ速攻で、

”あきらめたことなんかないよ”

「うん・・・」

「うん・・・」

僕は、和美ちゃんがなんにもしゃべってもいないのに、二度もうなづきました。

「ダンスパーティさぁ」

”ああ。車椅子のダンスなんですってね？”

「うん。いっしょに行こうか」

”それでさそったんでしょ？”

あ・・・そうだった・・・・。
しまった。
すっかり忘れてた。

”それとも他の子にも声かけてるのかなぁああ？”

「そ、そんなことないって！」

他の子「たち」にも声をかけてるのです。


”だいじょぶ。あたし。負けないから！”

「え？」

”相手がたとえ理恵でも、負けないの”

そこまで知ってたのか・・・・。

”だいじょぶ！”

「ああ・・・・・・うん」

その言葉どおり
すももvsももの軍配は、この時点では、すももに上がり、

僕は、自分で「脱げ」と言っておきながら、
その夜には、和美ちゃんの裸が頭に浮かんで来て
眠ることができませんでした。



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