ぼくたちと駐在さんの700日戦争

＜シリアスに恋愛モードです＞

プールからの帰り道。

「じゃ、僕はお先にー」

森田くんは、和美ちゃんにつっこまれるのを恐れたのか、彼の家路とはまったく関係のないような交差点で、別れました。

僕は、西条くんたちがうまく情報を集めているかが気になっていましたが、
交差点を過ぎてからすぐに、

「ねぇ」

「ん？なに？」

「そろそろ白状すれば？」

和美ちゃん。森田くんがいなくなったとたん、するどく突っ込んで来ました。

「えっとーーーー。なにを？」

「なにをたくらんでるの？」

「あれれ・・・・」

さらにとぼけようとする僕に、和美ちゃん、
「教えて。どうしてなの？」

「怒らない？」

「あたしが君のしたことで、怒ったことなんてある？」

確かにないかも知れません。
あったのかも知れませんが、いちいち覚えていません。
なにしろ、僕は、少しばかり人より「怒られる」ことが多かったので。

というわけで、僕はすっかり油断し、ありのままのことを和美ちゃんに伝えました。

しかし、説明の順番を少し誤ったようです。

「美奈子さんって・・・駐在さんの奥さんの・・・？」

「そう。妹さん。井上は彼女にお熱なんだ」。

そこまで話したところで、和美ちゃんが、急に語気を荒げました。

「じゃ、なぁに？井上くんを誘うために、あたしを道具として利用したの？」

「いや・・・そういうわけじゃ・・・」

あるんですけど。


「ひどいよ！」

「だから、そういうわけじゃ・・・」

和美ちゃんは、僕に割り込ませるスキも与えず、
まるで、機関銃のように

「ううん、君の役にたつのなら利用されたっていい！でも、美奈子さんの写真に合成するのはやめて」

「え・・・・・？」

「あたしはあたしよ！それなら脱げって言えばいいじゃない！」

「え？」

聞き取れなかったのではありません。
あまりの和美ちゃんの唐突なセリフに驚いたのです。

「君が脱げって言えば脱ぐわよ！西条くんたちなら、あたしだけのヌード写真でもじゅうぶんよろこぶわ！」

「和美・・・・・」

「あたし、君のためだったらなんだってする！でも他の女の人と合成するのはやめて」

「かずみ・・・・」

「あたしは・・・・あたしよ！」

「かず・・・・・・」

正直なことを言えば、僕は彼女がどうしてそんなに怒っているのか
いまひとつわかっていませんでした。

ですから、彼女が走り去ろうとした時、
その腕を押さえて止めはしましたが。
彼女の涙の止め方までは、わかりませんでした。

「あたしは・・・・あたしよ・・・」

「ごめん。悪かった・・・・」

「ううん。わかってない」

「そんなこと・・・」

「君はちっともわかってないよ！」



「ちっとも・・・」


図星でした。

僕は。
家にもどってから、森田くんに電話をかけて、フィルムの処分をたのみました。

”本当にいいのか？”

「うん・・・・」

たのんではいましたが、実はそれでも「悪いことをした」とは思ってはおらず、
自分を正当化する言葉を探していました。

　他にどんな手があったって言うんだ。

同時に、人を傷つけたということの痛みを、思い知ることになったのですが、

それがなにかに似ている、ということまでは、頭がまわっていませんでした。

　他にどんな手が。

この時、僕にもう少しの情報と「心」があったならば、富士見さんの出した「警官をやめる」決断にたどりついたはずなのに。

そんな余裕も、情報も、僕にはまだなかったのです。

結局、自分に対する言い訳も見つからなかった僕は、和美ちゃんへの謝罪と、フィルムの処分を伝えるために、電話機の前にいました。

受話器を持ち上げては置いて。
何度も。何度も。
何度も。何度も。

まるで初恋でもした少女みたいに。

何度も。何度も。

おかげで、電話のベルが鳴った時、僕は、その電話を早撃ちのガンマンのように取ることができたのですが。


”もしもし・・・？”

「和美？」


電話は和美ちゃんからでした。



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