ぼくたちと駐在さんの700日戦争

スイスイと酔っぱらいをすり抜けていくBボタン西条くんに比べて、僕はちょっとばかし鈍かった。
脇道にそれたとたん、

　ドス！

「っテーーー！」
「あ、すいません！」

西条くん、
「あ。カメにぶつかってやんの！」

カメ？
カメなのか？

「そういう時はAボタンだ！」

Aボタンもあるのか？
だから、どこにあるんだ？

が。ぶつかったヤツは、カメではなく、ちょっと始末の悪いやつで

「テメェ！どこに目ぇつけてんだ！」

なんてこった。
一日に二度もからまれるとは。

と、思ったら

「あ！さっきの・・・・！」
「あ・・・テメェ！」

なんと。
待ち合わせの時にからんできた連中です。

そりゃそうだ。
いくら繁華街でも、そんなにゴロツキばかりいられたのではかないません。
（実際は、ゴロゴロいた）

さっきのウップンが溜まっていたのか、今度は容赦がありませんでした。

「てめぇ！さっきはよくも！」「女にたよりやがって！」

　ドス！

いきなり、押さえつけられ、蹴りを入れられました。

「う・・・・・！」

僕が沈みこんだと同時、さらに3人ほどが襲ってくるのがわかりましたが

　シュ！　シュ！

わずかな風切り音がして、僕のまわりのゴロツキたちがふっとんでいくのがわかりました。

そうです。西条くん！
すごい！わずか数秒です。

「こ、コイツ！」

不良たちは、露骨に動揺していました。

「見てたぜー。おまえら、わざとダチに当たりやがったな？」
「西条！ここはまずいって！」

なにしろ通りをそれたとは言え、ほんの数メートル。
わずかにもどった所には、「生徒指導連合」がいるわけで、

が、

「ウラァアアアアア！」
「オラァアアア！」

相手には、そんなことは無関係でした。

西条くん、
「させるかよっ！」

さらに襲いかかってきたメンツを、素早い蹴りで落としていきます。

が、そのうちのひとりが、

　ガラガラガラ！

悪いことに、そこにあった店の電飾看板に倒れ込みました。
看板が倒れると、

　バン！

まわりのカラー電球が割れる爆発音で、思ったよりかなり大きな音をたてました。

まずい！

「西条！逃げるぞ！」
「おお！」

僕は西条くんの手を引いてダッシュ。
Bボタンがないのが悔やまれます。

「ま、待てこらぁ！」

倒されたゴロツキたちは、声こそ荒げましたが、体勢をもどすのに若干時間を要しました。

西条くんなら、6人くらいは相手ではないかも知れません。
しかし、人ごみでもめごとはまずい。

走りながら、
「助かったよ。あいかわらず強いなー」

すると西条くん。
「だろ？ホレるなよ？」

「あ、ああ・・・。気をつけるよ」

でも。今度生まれ変わったなら。女になって、西条の嫁もいいかな？と、思った僕でしたが、

「あ？なに首ふってんだ？」

「あははは、なんでもない」。

不思議なことに、追いかけられているという緊迫感はまったくなく、
むしろ、それが楽しいような、不思議な感覚でした。

「待てーーーーーーーーーーーー」

それでも、僕の足が遅いせいで、すぐ後ろに相手が迫って来ます。

「しつっけーなぁ」
「まぁ、やられっぱなしってことないだろうから」。

「なんか投げつけるもんでもねーかな？」
「いや・・・さすがに・・・・」

「あ。ある！」
と、西条くん。

「え～～～～～！エロ本？」

そう。それは、僕が自販機で買った
もとい、早苗さんに買ってもらったエロ本。
『一本どっこ』で、まんまと西条くんにとりあげられていたのですが、

西条くん、テキトーにエロ本をやぶると、

「くらえ！エロ本ミサイル！」

不良たちめがけて、エロ本を投げつけました！

しかし、エロ本ミサイルには、推進力も破壊力もありませんので、ただただ道路にちらばっただけ。

「いや・・・西条。そんなもんじゃ、さすがに・・・」

効いた・・・・・・。
信じられん・・・・。

不良たちは追跡をやめ、エロ本ひろいに熱中しているのでした・・・。

「男って悲しい生き物だな・・・。西条」
「だな・・・・」

エロ本がゴロツキたちを防いでいる間に、

「こっちだ！」
「よし！」

通りかかった駐車場のフェンスを超え、大きなワンボックスの裏に身を隠す僕たち。

ワンボックスを背に、ペタンと腰を下ろすと、

西条くん。
「別に俺ひとりでなんとかなったけどな」。

「バカ言え。あんなとこで騒ぎおこしたらえらいことだぞ？」

ヘタをすれば、停学どころか、器物破損もとられかねません。
しかも、すぐお膝元に工藤先生。

「それもそっか・・・。くそぉおおおおお・・・・」

西条くんは、今まで見た事もないほどの悔しそうな顔をしました。
彼にすれば、勝ち目のあった相手からの「敵前逃亡逃」。
それが彼にとって、いかに屈辱的であったか・・・。

「エロ本。惜しかったなー・・・・」

あ。そっちか・・・・。



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