ぼくたちと駐在さんの700日戦争

その後、『一本どっこ』ディスコタイムは、次の客が来ないのをいいことに、延々と『水前寺清子』メドレーをやってのけてくれました。
ああ、これなら駐在さんでも踊れそうだ。

「やっぱアンタたちもおどんなさいなーーーー」
と、寅蛍。

「え！水前寺清子なんか知りませんよ？」

「いいから！フォックストロットに比べたら簡単だから！」

フォクストロットと水前寺清子は並べて語れないと思います。

けれど、成り行き上、とうとう一緒に踊るハメに・・・。

驚いたのは、西条くんが意外に踊りがうまいこと（←ノンフィクション）。
どこで覚えたか知りませんが、バッチリかっこよく踊りまくっています。

そりゃぁもう、男の僕でもホレボレするほど。

「だろーーーーーーー？」

「うん」

しかし、爆音とも言える『水前寺清子』は、強烈で、

「ところでさーーーー」

”んにゃ！”

「なんだぁあああーーーーー？」

”んにゃ！”

真ん前にいる西条くんとの会話もままならないほど。

「こっちに来る時のひともんちゃくってなんだーーーーー？」

「いそぎんちゃくーーーー？そんなのに会ってねーぞーーー？」

普通、往来でイソギンチャクには会えません。

「イソギンチャクじゃなくってーーーーひともんちゃくーーーーー」

「あーーーー！喰ったことねーーーーー！」

ぜんぜん会話が通じてない・・・。
それにしても、西条くん。なんて聴こえてるんでしょう？

「ひーーーとーーーもんちゃくーーー！」

「あーーーーーー！はいはいーーーー！」

あ、通じた？

「お前って、見かけよりいやらしーーーなーーーーー」

ダメだ・・・。
ぜんぜんダメだ・・・。

なんとか曲の合間に、とも思うのですが、なんと『水前寺清子』は、ノンブレイクメドレー！
どこでこんなディスク作ったんでしょう？
しかも、寅蛍とター坊たちの盛り上がりは、ハンパじゃなく、

「ひともんちゃくーーーーーーーーー！」

”んにゃ！”

「あ？ひともんちゃくあったのかーーーーー？」

”ヘイ！”

「いや、西条がーーーーーーーーー」

「ああ！」

ようやっと通じました。

「実は駅でよーーーーーーー！×＠★△＃に会っちゃってよーーーーー」

「誰ーーーーーーー？」

「なんかよーーーーー＄％＠■○￥に♢☆※％фーーーーー」

「だから、誰ーーーーーーーー」

なにか、とっても重要なことがあったように思えたので、

「西条ーーーーーー、一端出ようーーーーーーーー！」

「はあああああーーーーーーーー？」

「ちょっと外につきあってくんないーーーーーーーー？」

「はああああーーーーーーーーー？」

らちがあきません。
しかたないので、踊る西条くんをおもいっきりつかまえまして、

「だーかーらーーーー、ちょっと外にーーーーーーーーー」

が。ここで突然、ディスコタイム終了。
音楽が途切れました。

おかげで、

「つきあってくんないーーーーーー？」

いきなり訪れた静寂の中、ありったけの大声で西条くんに告白している僕がおりました・・・・。

「え？お前と？」

「い・・・いや。そう、って言うか、そうじゃなくって・・・」

「いやぁ。お前のこと好きだけど、さすがにそこまでは・・・」

だからぁ！

と、思ったら

「ひゅ～～～ひゅ～～～～～～～♪」
「ひゅ～～～～～～♪」
パチパチパチ！

寅蛍とター坊たち、いっせいに拍手喝采！
勝手に盛り上がります。

　こらこらこら！

「いやぁ～～～～～～～」

お前もそこで照れるなっ！
なんで照れるっ!?

「そうじゃなくって！外につきあえって言ったのっ！」

「あー。なんだ」。

ようやく話が通じた。

「男どおしで？」

通じてない・・・(泣)。

「もういい・・・・・」。

こうして僕は、西条くんの「重要なひともんちゃく」を聞き逃してしまいました。

落胆する僕を見て、西条くん、

「ん～～～～。少し考えてみるから！」

「考えなくっていいよ・・・」。



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