ぼくたちと駐在さんの700日戦争

12枚も売りつけました。
合計、ケーキ屋さんだけで28枚。

つまり28セットの『大きな栗の木の下で』が売れなくてはなりません。

コレ。実は、ド田舎のケーキ屋にとっては、けっこうな数字。
ケーキは、生ものなので、えらく『歩留まり率』の悪い商品なのです。

「歩留まり？」

「だから、古くなったのは捨てなくちゃいけないだろ？1個5割儲かっても、2個捨てたら赤字」。

「へー。お前、商売くわしいなー」。
と、西条くん。

「ああ。簿記の講習とったから」。

「あーーーーー、千葉もすごいよな？簿ッ記」

「そこはハネないんだよ・・・・」

千葉くんが簿記を取った話は聴きませんので、西条くんのイントネーションこそ正しいのだと思いますが、

「千葉先生の簿ッ記講習！」

「お前だけ受講しろ」

「いやぁ。俺は千葉に習わなくってもできるぜ」

たいていの男は習わなくってもできるんだよ。

「ってか、俺は千葉以上だぜ。千葉が3級なら、俺が2級つったとこかな？日商で言うとこの」

日商は、そんなもんに「級」を与えていません。

（簿記検定には、主催団体によって5種類があり、それぞれでレベルがちがう。日商は、日本商工会議所が実地しているもので最も有名。だけど、この際どうでもよい）

問題はケーキ。

デザインは、麻生くんのものを渡して来ましたが、ケーキ屋の新製品というのは、普通、個別買い。
セットで購入する人は、めったにいません。
よしんばいたとしても、それがダンスパーティの年代層と一致していなくてはならず、これは実にむずかしい課題でした。

「さばけなくても負担はケーキ屋だろ？」

「そうなんだけど、そうもいかない」。

全部でチケットは60枚。
もしケーキ屋さんが、28枚をさばけなければ、参加人数は半分になってしまいます。
『ウィルチャー協会』としては、かなりショックな状況、となるはず。


しかし、問題はもっと身近にありました。

西条くんと駅へと向かう道沿いに、駐在所があるのですが、

その駐在所。

「げ！ぜんぜんはがされてねーじゃん！」
「あ！ホントだ！」

ってことは、『視察願い』ファックスは失敗？

「それどころか、増えてんじゃん！」

さらに、どこから入手したのか、僕と西条くんの『停学の時の反省文』が！

「か、拡大コピーされてる・・・・！」
「しんじらんね～～～～～～～～～～」

駐在所は、駅への通り道である上に、バス停が近くにあるため、人通りがやたら多いのです。

これはいかに駐在さんとは言え、やりすぎ。
というか、警察官がこんなことやって、許されると思ってるのでしょうか？

「くっそーーーー！こうなったら郵便だ！」

「え？また『視察願い』をか？」

「ちがうっ！離婚届だ！」

が。役所では、
「いいけど、キミ、結婚してんの？」

怒りにまかせてやって来たはいいのですが、ごもっとも。

「あ。離婚届って、既婚者しか応募資格ないんですか？」

「ウーーン。そういう懸賞みたいなもんじゃないんだけどね。離婚届は」
と、受付のお姉さん。

「とにかく、役所の紙もタダじゃないんだからね？アナタの悪戯にはあげられません！」

手厳しい・・・。

なぜ、手厳しいかと言うと、以前にも役所に悪戯したからなわけですが。
たいした学習能力です。

しかし、離婚届で、ふと、考えました。

駐在さんのあの執拗な逆襲は、ただごとではありません。
もともと分別などない人でしたが、さらに磨きがかかってるというか、
常道を逸していると言うか・・・。

しかも、あの状態を、奥さんや美奈子さんが放置しておくってのもヘンです。

「ひょっとして・・・・。駐在さんとこ・・・・」

そこで、日商簿ッ記3級の千葉くんに頼んでさぐりを入れてもらいました。

「俺は1級だって～～～～～」

「わかったから電話入れてくれ」

工藤先生のふりをして、電話を入れてもらいましたが、

「よくわかんなかった」。

「役たたねーなー。1級の割合に」。

「将来役立つ！」

なにが？


そして決定的情報は、その日。夜に1級の千葉くんから入りました。

”兄貴にさぐってもらったけどさー。やっぱ、奥さん、美奈子さん連れて実家帰っちゃったみたいだぞ”

「やっぱり・・・・・・」

えらいことです。
少なくとも、発端は、僕なのですから。

なんとかしなきゃ・・・・。

「さんきゅー！千葉」

”あ？だから俺は1級だって～～～～～”


↓最近、忘れ去られてます。『大きな乱クリの木の下で』

人気ブログランキング｜ブログ村ランキング

　CDジャケットへ→
　第20話へ→

　▲目次へ

関連記事

• 続・すもももももも 第20話
• 続・すもももももも 第19話
• 続・すもももももも 第18話