ぼくたちと駐在さんの700日戦争

駐在所の交番部は公共機関であるため、「視察を申し出ると見ることができる」。
このことを、普段より駐在所と親しくしている僕たちは、よ～く知っておりました。
これを送れば、さすがに交番に「あんなもんを貼ってはおけなくなるはず」と、考えたのです。

そこで、学校名義で『視察願い』を書いたわけですが、

ファックスの使い方がいまいちわからない・・・・。

なにしろ町で、駐在所以外でファックスを持っているのは、総合病院と役所と、その役所のおさがりがあるこの学校だけ。

（ファックスは1930年代には登場して、警察機関にいち早く導入され、70年代には末端の交番まで導入された。役所にファックスが配備されたのはこれより少し後。次が病院で、学校にはとある試験が元で配備されることになった）

当時のファックスは、独立した電話番号を持っておらず、あくまで一般電話の付属でした。
このため、かけかたもかなり特殊で、バカでっかいファックスの置かれた台には「ファックスの送り方」が貼られていましたが・・・

「えっと・・・紙を入れて・・・。こうかな？」

さっさとしないと、人が入って来そうな事務室。

「こんなことなら森田に、ついて来てもらうんだったなぁ」

うまく動かず、焦りまくる僕です。

ようやく、

”プルルルー　プルルルー”

かかりました！

「やった！」

と、思ったら、

”はい～～～。もしもし。駐在所”

　げ！電話に出た!?

駐在さんの声です。

確かファックスは、人の声はしないはず・・・・。

　なんで？

泡を食った僕は、

「ぴ・・・、ぴ～～～～、がが～～～、ががが…」

一応、『ファックスのモノマネ』をしてみました。
通じるわけないけど。

”あー、なんだー。ファックスかー”

　え！通じた？
　ウソでしょ？
　駐在さんって、そこまでアホ？

でも、確かに駐在さんはアホですから、
せっかく通じたので、

「ががが～～～　ぴ～～～～～～～～」

モノマネを続ける僕です。

すると受話器から、

”ピー、ピー、ピー”という電子的な音が聴こえて

「お！いった！」

ジワジワと紙がファックスに吸い込まれて行きます。
（当時のファックスは、まだG3規格になっておらず、遅かった）

「よしよし！その調子だ！」

”ピピーーーー”

送信完了！

なんかランプがつきましたが、これ以上事務室にはいられません。

早々に事務室を後にすると、
部活をやっていた西条くんを捕まえまして

「宣誓書は今日はがされるから。あとは報復するな」。
と、停戦命令。

「ほんとだろうなぁ？」

「ああ」。

視察まで来るというのに、あんなもん貼っておけるはずがありません。
ファックスがうまく届いていれば、ですが。

「ってことはだ・・・・」
と、西条くん。

「貼ったエロポスターは、ぜんぶ駐在のものに・・・・」

「え！大事なもんだったのか？」

「当たり前だろう！」

どう「当たり前」かはわかりませんが。

「くぅ・・・う・・・う・・・・」

泣くほど大事なら貼らなきゃいいのに・・・。

「泣くなよ。命にかかわるもんでもなし」

「命にかかわるっ！」

断言されてもなぁ・・・・。エロ写真・・・・・。

が。理由がありました。
「あん中の1枚は奥さんに似てた」

え～～～～～～～～～。

「マジ？」

「マジ、マジ。見ろよ、これ」。

そのポスターをとったと思われる「超エロ本」を鞄から出しました。

ページを開くと、そのまま見始める西条くん。

「西条。なに見入ってんだ？」

「・・・あ？　あ、そうだったそうだった」。

西条くん。エロ本を開くと、自動的に熟読する仕組みになってるようです。
たいしたもんだ。

「えっとー。こっちのページのー、・・・・ほら！この白黒の」

ようやく開かれた超エロ本の、見開き。

「ほ、ほんとだ・・・。似てる・・・・！」

「だろ～～～～～～～？」

他の写真はそうでもないのですが、角度の関係なのか、その白黒写真だけが、そこはかとなしに、

「奥さんだ・・・」

「なっ！なっ！なっ！」

うーん。こりゃ駐在さんも怒るわけだ・・・。

なぜか赤面してしまう僕です。


しかし。これで思いつきました。

僕たちは、そのまま『大きな栗の木の下で』のケーキ屋さんを訪ねると、

「へっへっへ。若旦那。この本つけますから、チケットもう12枚、いかがでしょう？」

ああ・・・越後屋も近江屋も、ここまで悪くはなかったなぁ・・・・。

黄門様のいない時代でよかった・・・。



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