ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「そいつは許せねーな！」
話を聞いた西条くんと孝昭くんが、ほぼ同時に言いました。

「よし！まかせておけ！」

「いや・・・。待てよ」

「心配すんな！カタキはうつ！」

「いや・・・だから、お前らじゃ・・・」

「うぉおおおおおおおおお!!」

勝手に盛り上がってアジト教室を出て行ってしまいました・・・。
いつものことではあるのですが。

まぁ、いいや。

僕は僕で復讐策ねろうっと。

僕は、少しだけ「報復」に躊躇がありました。

赴任されて以来、駐在さんご夫婦は、人様もうらやむ（主に奥さんの美人さを）おしどり夫婦でした。
全体としては、奥さんのほうが立場が強いようにも思えましたが、それが、心ならずも自分の作戦のせいで険悪になってしまったわけで・・・。

今回のことを天秤にかければ、ジェミーがチケットを渡した時点から、どう考えても、僕たちに分が悪かったからです。


ところが。

西条くんたちがやった仕返し、というのが

「名前んとこ、変えて来てやったぜ！」

意気揚々と西条くんたち。

「え！」

急いで駐在所に向かうと、

なんと。僕の名前のとこに、駐在所の名前を貼って来ただけ！

「レベルひくっ！」

「あん？なんだそりゃ。友情ふみにじるのか？」
と、息まく孝昭くん。

「あ・・・いや・・・。そういうわけじゃないけど・・・・」

しかも張り紙には、どヘタクソな駐在さんの顔の絵まで！

「な！おもしろいだろ？」

うん。おもしろい。
めちゃくちゃおもしろいけど、
こんなもんが、明日までそのままあると思ってるんでしょうか？

でも、友情まで持ち出されたのでは、ここは、一応

「あ・・・ありがとう・・・・」

「いやぁ。やられた時はお互い様だって～～～～」

『やられた時はお互い様』。僕たちならではの格言です。


が、事と次第によっては、駐在さんご夫婦に謝罪しようと思っていた僕は、完全に出ばなをくじかれた形になりました。


翌朝。案の定と言うか、

張り紙の上には、さらに紙が貼られていて、なんと今度は、西条くんと孝昭くんが連名に！

　こっちもレベル低っ！

しかも、ご丁重にも、誰の指紋か拇印まで押されています！

「駐在の野郎～～～～～～～～～！」
「誰の指紋だ、こりゃ！」

「みてろーーーーーー！」

この日の昼、西条くんたちは、これにさらに上に張り紙を貼り、『人妻エロ写真』という「核」を投入！

「わはははーーーー！駐在めぇ。ざまぁみやがれ！」

核を投入された駐在さんが、黙っているはずはなく、

これに対し、なんと

「うわぁ！俺らの写真！」
「どっから入手しやがった!?」

駐在さんも核を投入！

僕たち3人の顔写真を貼った上に、

「ガ、ガラス・・・・・」

窓の内側から貼られたため、手が出せません。

「し、信じられん・・・・」
「チッキショー！こうなったら・・・・・」

限りなく続く報復合戦。

西条くんたちは、とうとう「人妻エロポスター」乱貼り！
まるまる『人妻には手を出しません』ポスターを隠してしまいました。
こんな駐在所、「日本にある」というだけで驚異です。

もうダンスチケットはどこへやら。
ひたすらエスカレートするポスター戦争！

なんにもしなきゃ、ここまで目立たなかったのに。
毎日、繰り返される『人妻には手を出しません』ポスターの張り紙合戦は、当然、話題になり、事態を悪化させました。


とうとう駐在さん。よっぽど切れたのかA4版『人妻の妹にも手を出しません宣誓書』を投入！

これはおだやかではありません。

「どういうことだ？」
親友グレート井上くん。

「あー・・・いや。それが、聴いてくれよ。井上」

「お前とは絶交だ！」

「え！そりゃないだろ？」

それだけでは済みませんでした。

「先輩～～～～～～！」

「あ！ジェミー！」

「なんだって人妻に手ぇ出すんですかぁ～～～～！」

「お前だろ？奥さんにチケット売ったのは!?」

という、僕の「正論」には、まったく耳を貸さず、

「おかげでポスター見た他の女の子たちがチケット返品してきたじゃないですか！」

あーーーー。そっか・・・・。
そりゃそうだ。

「もう12枚ももどってきてしまいました！どうしてくれるんですか!?」

「あ・・・いや・・・。悪い・・・・」

ジェミーの勢いに押されて謝ってしまいましたが、ここは僕が詫びるトコか？

「これ！先輩が責任持って売ってくださいね！」

「え！」

やっとケーキ屋さんに16枚、はけたのに・・・・。


これ以上はほっとけません。

僕は、自ら事態の収集に乗り出すことにしました。

「森田。ちょっと手伝ってくれよ」

僕たちの中では、最も字のうまい森田くんを呼び出し、1枚の用紙を作成しました。

「こんなものつくって大丈夫か？」
心配そうな森田くん。

「しかたないんだよ・・・・」

「またいろいろやってるみたいだなー」

「まぁ・・・ね・・・・」

僕は、5時すぎ、学校の事務室に侵入すると、駐在所宛に1枚のファックスを送りました。

謝罪文ではありません。

それは

『駐在所視察願い』。



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