ぼくたちと駐在さんの700日戦争

＜一足先に『続・すもももももも』。こんな感じで始まります＞

続・すもももももも

第1話 『素直になれたら(1)』

「ジェミー！遅いぞ！」

ジェミーは、待ち合わせのバス停に遅刻して来ました。

「おそいぞ！ジェミー！バス出ちゃうだろうがぁ！」

「いやいや、待たせるのも作戦のうちです～」

「待ち合わせに作戦はいらねーの！」

　宮本武蔵か？

「ふっふっふ。先輩、愚かですね」

「なにが？」

「まだ気づいてないんですか？」

「だから、なにを？」

「ボクが夕陽を背にして来たことを！」

「意味のねぇことすんじゃねぇ！」

待ち合わせに、夕陽を背にして、なんの得があるのでしょう？
ジェミーの思考はわかりません。

「西側からまわるの大変でした～～～～～」

それで遅れたのか？
もっとわかりません・・・。

実は今日はご招待です。

和美ちゃんのバレーボール部が、県大会に上がった祝勝会。

バレーボール部の1年と2年の有志が集まって、男子も呼んで盛り上がろう、という企画。
まぁ、今で言うとこの合コンです。

主催者は、1年の女子。
1年女子は、僕たちの学年よりは、だいぶオープンになっていて、男子に対しても積極的でした。

ですから、招かれた主体は、実はジェミー。
その主体が「夕陽を背にして」遅刻されちゃ困るわけです。

ジェミーは、こう見えて、1年の女子には圧倒的人気がありました。

なんてったって、なにをしてても「笑顔」。
我々から見ると、ただの「バカみたいに笑ってる」だけなのですが、女子にとってはちがったようです。

そしてもうひとつに、圧倒的ファッションセンス！
今日もそうですが、そのシティナイズされたスタイルは、靴ヒモひとつにもこだわりがあり、
おそらく上から下まで、総額10万はいっているのではないでしょうか？

噂では、靴だけで3万くらいするらしい。

対して、僕は、アサヒシューズの、1980円ですので、だいぶ引け目があります。

「いや。先輩の靴だってかっこいいですよ？」
と、ジェミー。

「そうか？」

「はい～～～。とても500円には見えません！」

「1980円なんだよっ！」

安く見積もってなぐさめとは・・・・。
しかも1/4？

「え！1980円もするんですか！」

「お前の靴ほどじゃないよ」

「いや～～～。でも、やっぱりカッコいい人が履くと、高く見えますよ。先輩」

「え？そ、そうか？」

ちょっと照れます。

「はい～～～～。先輩が履くと1000円くらいに見えます」

「だから1980円なんだよっ！」

なに聴いてんだ。こいつ！

「え！やすっ！」

くそぉおおおおおおお！
ここで今さらは腹がたつ。

会場はパーラー『末広』（←実名）。
パーラーなどと言っても、大衆食堂に毛がはえたような所です。
どこに生えたかは、とってもここでは言えません。

僕が招かれたのは、ジェミーと仲が良かった（？）というのもありますが、
おそらく、1年女子が、先輩の和美ちゃんに気遣ってのことでしょう。

つまり彼女たちには、この会で、僕と和美ちゃんを「くっつけちゃおう」という裏の魂胆があります。

それはそれで、先輩思いでけっこうなことですが、
僕としては、その場で和美ちゃんとなんとかなろう、などとは、まったく思っていないわけで、
はっきり言って「余計なお世話」です。

「センパ～～～～イ♪」
「こっちこっち♪」

1年女子が入り口まで来てのお出迎え。
私服姿の16歳たちは、なかなか悪くありません。

会場は、なんと2階貸し切りです！
もっとも、田舎で貸し切りは簡単でした。
そもそも、たいして客がいないからです（実名で出しておきながら）。

「センパイ。座敷席ですから、ここで靴脱いでください」
「うん。わかった」

ジェミー。
「残念ですね～。先輩」
「なにが？」
「せっかく900円には見えるのに」

「だから1980円！」

なんで値下がりしてる？


1年生たちの魂胆から考えて、僕の席は、和美ちゃんの隣りだろう、と勝手に想像していました。

しかし。若干ちがいました。

「こ、小町っ！なんでここに！」

「アンタこそ！」

その隣りに和美ちゃん。

　ああ、最悪・・・・・・・・。



　続・すもももももも第2話へ→

　▲目次へ

Tweet

関連記事

• 『続・すもももももも』 第2話
• 『続・すもももももも』 第1話
• 第5話 くりはし(1)