ぼくたちと駐在さんの700日戦争

＜本日フィナーレ。←第70話からどうぞ＞


その後。僕が小町のことを思い出すことになったのは、さらにずっと後。
年の瀬に、とある大型スーパーにいた時です。

閉店間際のスーパー。
そこに、その曲が流れていました。

その歌詞の中に「Tomorrow will be happy」という言葉を耳にしたからです。

「Tomorrow will be happy・・・・」

＜Tomorrow will be happy86年=こちらで視聴できます＞

それは、なつかしくほろ苦い、青春時代の夏。
僕が小町を騙し続けようとして、
実は騙されていた夏。

そして。彼女にプレゼントした言葉。

閉店の人の流れの中。
ひとり、立ち止まって、感慨にひたっていた僕でしたが、

その人の流れの中から、

「あれ・・・・？君は？」

僕は、その人が誰であるか、容易には思い出せんでした。

が。

「ボクです。ほら、小野理恵の・・・・」

その口調から

「こま・・・理恵ちゃんのお父さん・・・・・！」

「ひさしぶりですねー」

「覚えててくださったんですか？」

あんなわずかな縁だったのに・・・・。

「そりゃ、娘の婿になるかも知れなかった人ですからね。ハハハ」。

昔と変わらず丁重で。
理知的な話し方。

そういえば。この人は並の人じゃなかった。


「その節は、生意気を申し上げて・・・・」

「いえいえ。今、なにをやっておられるんですか？」

ありふれた世間話をしているうちに、

スーパーの奥から

「あなたーーー・・・」

女性の声がしました。

「あ。再婚・・・されたんですか？」

「ええ。もう、7年になります」

当時ならば。怒りもわいたかも知れませんが。
僕がそのことに憤慨するのには、あまりにも時間が経っていました。

「そうですか。おめでとうございます」。

と、そこへ

「パパーーー」

防寒着を着た女の子がかけよって来ました。
歳の頃なら5歳くらい・・・？

「小町！」

僕は、その子が、あまりに小町にソックリで、驚きました。

するとお父さんが、
「ハハハ。理恵に似てるでしょ？親のボクが驚いてるくらいですから」。

「ええ・・・ほんとに」

やはり優秀な遺伝子は強いのだなー、などと感心していると

奥から、奥さんが
「チエ！こっちにいらっしゃい！パパ、お話ししてるでしょ？」

「チエ・・・ちゃん？」

「ええ。智恵と言います。理恵が名付け親なんですよ？」

「え・・・・・・・！」

僕は、お父さんが、まだ小町と交流があることに驚きました。
それどころか、小町の話はタブーとさえ思っていたくらいですから。

「あの。今、こま・・・理恵ちゃんはどこに？」

「彼女はアメリカで結婚しました」。

「アメリカ・・・・で・・・・。そうですか・・・」

さすが小町だ・・・・・・。
しっかり夢は叶えてる。

ところが。
お父さんが、
「2歳年下のアメリカ人と」

「2歳・・・・年下？」

僕がこの時。

それは、アレックスにちがいない、と考えたのは、僕の思い過ごしでしょうか？

いいえ。

「そう言えば！あの時、君といっしょにいらしたじゃないですか」

「やっぱり・・・・・・！」

「そうそう、これがね。孫の写真です」。

うれしそうに見せられた、お孫さんの写真は。

やっぱり、小町にソックリで・・・。

「ははは・・・・やっぱ小町に似てるや・・・・・」

「でしょう？」

ほんとに・・・。
涙が出るくらいに・・・。

「パパー。お店閉まっちゃうよ？」
「あー、はいはい」

「かわいいねー。チエちゃん」
僕が言うと。

チエちゃんは
「まーた、ソーセージ言っちゃってー」

「あ？」

「そういうの、ソーセージって言うんだよ？」

あ。お世辞のことか。

「こらこら。智恵！どうもすいません、生意気で。ハハハ」

　なるほど・・・
　こりゃ小町の血筋だ・・・。

「それじゃ・・・・」

「はい。よいお年を・・・・・」。

お父さんに手を引かれ、去って行く小さな小町。

どこかから、小町の

「アンタもまだまだねー」

という声が、
聴こえた気がしました。


Tomorrow will be happy.


　--- 『チクリ小町のポーラスター』　＜完結＞　---



お疲れ様でした。


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文庫化されました！
『チクリ小町〜』は、個人的にもともと好きな話でしたが、かなり改稿しまして一番好きな巻に仕上がりました。例によってブログ版とはストーリーが異なります。こちらからどうぞ。

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