ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「どうでした？のぶ君の様子・・・」。

「うん、主人が説明して、だいぶ理解したみたいだったわ。頭のいい子だし。のぶくん」。
奥さんが答えました。

「そうですか・・・」。

「ところで昨夜はのぶくんとお風呂一緒だったんですか？」

西条くんの質問に、ちょっとだけ黙った奥さんでしたが
「ええ！もちろん！ながしっことかしたわよぉ～。あーんなとことか、こーんなとことか！」

「え・・・・」。

読まれてるぞ。西条。


僕たちは、のぶ君がいるであろう、駅前広場へと向かいました。
駅前の広場は、少しずつ工事がすすんで、だいぶ狭くなっていました。

そこにひとりぼっちののぶくん。
先日、孝昭くんに教えられた投球フォームを、石を使って練習しているようでした。

これを見た西条くんは、
「俺、またミカつれてきてみる。村山、自転車貸せ」。
ミカちゃんの家へと向かいました。

残った僕たちは、大急ぎでのぶ君の元へ走りました。

「のぶーーーーーーーーーーー！」

千葉くんが最初に叫びます。

「あ・・・。おにいちゃんたち・・・・」。

「のぶ・・・。大丈夫か？」

「え・・・・」。

のぶくんは、一瞬顔をくもらせましたが
「うん・・。だいじょぶ、だいじょぶ」。

コンサートの時のように、自分に言い聞かせるように答えました。

「今日も投球教えてやろうか？のぶ。もう少しで巨人軍だぞ」。

「え？う、うん」。

歯切れ悪く答えるのぶくんでしたが
しかし、やっぱり子供。孝昭くんや、千葉くんたちと野球を始めると、あっと言う間に元気になります。

この広場の向こう側には、河川敷の堤防があって、多くの子供たちが遊んでいるのが見えます。
野球が一段落して、ジュースを飲みながら休んでいるとき、千葉くんがたずねました。

「なぁ、のぶ。あっちで一緒に遊ばないのか？まだ仲間はずれ、おさまんないのか？」
「え。ううん。もうみんなと仲良しになれたよ？」。
「じゃぁ、みんなで一緒に遊んだほうが楽しいだろ？俺たちみたいな高校生よりはさ」。
「え・・・お兄ちゃんたちと遊ぶのも楽しいよ？」

まぁ、知能程度が近いですからね。孝昭くんたちは。

「よし！俺が交渉してきてやっから」。
孝昭くんが腰をあげました。

「だめなの」。
「あ？なんで」。

「僕。飛行機ないから」。

「飛行機？」

確かに、河川敷の子供たちは、みんな模型飛行機を使って遊んでいるようでした。
ちょうどこの頃にA級模型飛行機を改造して、長く、遠くまで飛ぶ飛行機をつくることが、小学校で流行していたのです。

「飛行機・・・持ってないのか・・のぶ」。
「ううん・・・前に買ってもらった・・・ママに・・・」。
「じゃぁ・・・なんで・・・」。

「僕、おねだりしたことなかったけど、学校で流行ったからお願いしてみたの。ママ・・すっごい困ってたけど・・・買ってくれたの・・。ともだちできるといいねって・・・・」。
やはり。駐在さんの推理はみごとに当たっていました。彼女は彼女なりに、のぶくんをせいいっぱい愛していたのです。

「それ持ってくれば？」

「僕。すっごくうれしくって、その日のうちにつくった。でも、その日のうちにおじちゃんに見つかって・・・」

「あ？壊されたのか？片桐に」。

首をこくんとふるのぶ君。

「こんなもの買う金どこにかくしたって・・。ママ、ものすごくぶたれたの・・・・」。

「・・・・・・・・・・」。

「駐在さんに頼んだら買ってくれるぞ。きっと」。

「ああ。A級飛行機なんか安いもんだからな。俺たちが出し合って買ってやってもいいよ」。
「うんうん」。

みんながうなづくところに、チャーリーが怒ったように言いました。

「だめだ。そんなんじゃ。だめだぞ。のぶ！」。




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