ぼくたちと駐在さんの700日戦争

脱出していたのは、やはり、昼に会ったS工業の連中でした。

それもどうやら、タバコを吸いに抜け出したようです。

「じゃ、もめごとはなかったのか？」

「ああ。モクくらいじゃなぁ」
「ったく、しょーもない連中やで～～～～」

うーん。女風呂覗きに行ったヤツが言うことでしょうか？
というか、未遂とは言え、ノゾキのほうがずっとずっと犯罪な気もします。


「けど、どうやってもどる気なんでしょうね？S工業」
と、ジェミー。

「避難ロープかなんか使うんじゃねーの？」
「ったく、しょーもない連中やで～～～～～」

ついさっき、自分がそうやってもどったのは、「ON THE 棚」のアメリカ人。

「でも、S工業は3階ですよ？」

「そうなのか？」

「ええ。叔父さんがそう言ってました」。

「3階まで登るのはしんどいよな」。

「ええ。先輩なんか2階でも落っこちてましたもんね？」
「あははは。ダセ～～～～～」

そりゃてめーらがロープ放したからだろーが！

「中のやつらと打ち合わせて、1階の非常口か窓でも開けんじゃねーの？」
と、西条くんらしい発想。

「僕なら・・・・1階の窓は使わないけどなぁ・・・」

「なんでや？」

「なんでって・・・・」


　と、このタイミングで

　RRRRRR RRRRRR…

「うわぁ！ビックリした！」

内線電話のベル。

「やばい！これ久保の電話演習だ！」

もどったら、こっちからかけると言ったきり。

「え？まだ終わってなかったのか？」

「ああ。西条、出ろよ！」

「え～～～～～。相手、誰？」

「たぶん、シンシア」

「シンシア～～～～～～～～？」

躊躇する西条くん。
が、ここで、弟子アレックス。

「わいにまかしとき！」

いきなり受話器をとると、

「Hello！」

「おお！アレックスが！」
「英語しゃべってる！」
「まるでアメリカ人のようだ！」

アメリカ人ですが。

アレックス、
「あ、オカン？ボク」。

なんと普通にしゃべり出しました。

「KUBO？　ああ、久保は寝たわ。旅の疲れが出たんやろな～～～」

うまいぞ！アレックス！
ウソつかないギネス記録はあきらめたのか！
その代わり、ウソ連続記録を達成できるぞ！

「え？宿題？」

「うんうん。だいじょぶや。弟子に教わっとるさかい」

（弟子～～～～～～？）

なんて裏表のあるヤツでしょう？

「うんうん。だからほっといてくれんか？」

「うん。うん。GOOD NIGHT オカン」

「え？キス？かんにんして～な！」

おお・・・
なんかしっかりアメリカ人だ！

　ガチャ。

「ほら。うまくいったで～～～～」

「ああ、助かったよ」
「助かったけど・・・・」

「誰が弟子だ！こらぁ！」
「しかも宿題まるまるやらせやがって！」

「かんにんや～～～。小師匠、大師匠～～～」

「騙されるか！」
「絞めろ、西条！」

「うわ～～～～～～～～～～～」

しかし、さわいでいる場合ではありません。
すでに夜9時半を過ぎていました。

「そうだったそうだった、寝なきゃ」

「じゃ、ボクは自分の部屋にもどりますから～」
と、ジェミー。

「ああ、おやすみ」

「先輩方は、5時起床ですよね？」

「うん。井上が戻って来るのがその頃だから」

午前5時には、グレート井上くんが、孝昭くんに送られて戻って来るはず。
睡眠時間は貴重です。

「ボクは7時半までですけど～～～。おやすみなさ～～～～い」

「いちいち、カンに障るヤツだな・・・・」


とにかく。
僕たちも就寝しなくてはなりません。

「じゃ、寝るか？」
「ああ。いつまでも明かりつけてると、工藤がまわってくるぞ」。

「え！Mr.KUDO、まわって来るんか？」

「ああ。合宿じゃたいていまわるな」。
「うん」

「あははは～～～。見回りくるって～～～～～。中学生みたいでんな～～～～～」

現役中学生に笑われると腹がたちます。

「とにかく寝るんだよ！」


が。


僕たちが、この日の疲れで、どっぷりと眠りについた頃

　ジリリリリリリリリリリリリ！

けたたましい非常ベルの音が、館内に鳴り響いたのです。


「なななな、なんやなんや？」
「か、か、か、火事？火事か？」


「ちがう！たぶん、侵入したんだ！」

恐れていたことが起きました。



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