ぼくたちと駐在さんの700日戦争

想定した「最も悪いパターン」に沿って、西条くんたちは戻ってきません。

「一戦まじえちゃってる、ってことですかね？」
と、ジェミー。

「おそらく・・・」。

「でも、西条先輩なら、負けませんよね？」

「まぁ・・・よほどの奇襲じゃない限りは」。

西条くん単体なら、恐れることでもないのですが。

「アレックスくんはどうなんでしょうね？」

「さぁ・・・。なにしろまだ中学生だからなぁ」。

喧嘩は体格だけでは語れません。
その証拠を、僕たちは、西条くんによって何度も見せられていました。

「アメリカ人ですもんねぇ。拳銃とか持ってないといいですが」。

「ははは・・・。まさか」。

と、ちょうど言ったところで、

遠いところで

　パン！

爆竹の音よりも、だいぶ乾いた爆発音がしました。

　パン！
　　　パン！

2発。　3発。

「ほら～～～～！先輩！」

「ま、まさか・・・・」

「だって、アレ、花火とかの音とはちがいますよ？」

「バ、バカ言うなよ・・・」

そして再び静寂。

　どうしたってんだ？
　西条、アレックス・・・・。

しかも、このタイミングで

　RRRRRR！　　RRRRRR！　　RRRRRR！　

内線電話の音が響きました。

そうです。噂の「電話演習」です。

僕は、必要以上に慌てて、内線電話の受話器をとりました。

　落ち着け・・・！
　落ち着いて井上を演じるんだ・・・！

「H・・・Hello？」

「Inoue here」
（こちら井上です）

「Oh、Yes.　Speaking」

「Sure. Who's calling, please？」
（どなたです？）

相手はシンシアでした。
聡子先生は騙せましたが、アメリカ人であるシンシアを騙し通せるでしょうか？

電話演習は、幸いにして、中3レベルくらいの会話でした。
アメリカ人であるアレックスではむずかしいでしょうが、日本人の僕には簡単・・・。ちょっとおかしいけど。

が、

「あ～～～、Hold on a minute, Please」

やばい・・・。
久保に換われと言って来ました。

部屋にはジェミーのみ。
そのジェミーは、さかんに首をふっています。

「えっと～～、I understand、understand」

「Ah～～～～、Sorry to have kept you waiting, Mr.Kubo is in a・・・・・」
（待たせてすいません・・・久保くんは～）

「In a ・・・・・・」

「Toilet now！」
（ハウドゥユドウです）

「Shall I tell him to call you when he gets back？」
（もどったら電話させましょうか？）

「Ok. Bye Bye～～～～～～」

ふ～～～～～。

井上役終了。


「ジェミー。どうだ？戻る気配は？」
「ありません」。

「まいったな・・・・」。

「様子見て来ますか？」

これ以上、ジェミーなどを送り出そうものなら、たいへん、かとも思いましたが
ジェミーはここの正規な宿泊者。
しかも、責任者の甥っ子です。

「うん、そうだな。頼めるか？」

「はい～～～」

「避難ロープは、上にあげておくから。もどったら窓に小石でもぶつけて、合図してくれ」。

「わかりました～～～～～」

さらにジェミーが暗闇に消えました。


ところがなんとなんと！

ジェミーは、迎えに行って数分とたたずに、2人を連れて戻って来たのです！

「ジェミー！」

僕が窓から身をのりだすと

　ブーーーーン・・・

　ゴッ！

「イテッ！なんで石投げるっ!?」

「え？だって先輩が石ぶつけろって・・・」

「窓の話だよ！本人が顔出してんのに、投げるバカいるかっ！」

しかも、さらにもうひとつ投げようとしています。

「あ～～～～。そうだったんですか～～～～～」

今のは小石じゃありません。立派な立派な石。
ガラス窓なら平気で割れます。


ようやく、3人が部屋に這い上がって来ました。

「なにやってたんだ？なんかまずいことでもあったのか？西条！」

「いや・・・それが・・・」
「最悪やった・・・・」

西条くんとアレックスが肩を落とします。

「うまく、いかなかったってこと？」

「ああ・・・・」。
「はい～～～。すんまへん」。

「詳しく話せ！」

「それが・・・・・」
「天窓があんじょう高くって・・・・」

天窓？

「天窓って？」

「女風呂の天窓に決まってますやろ？」

「はあ？」

「他に天窓あるとこなんか、おますかいな。あっはっはっはっは」

「誰が女風呂の話聞いてる？」

「え？他に」
「なにか？」

大師匠と弟子。

「井上だよ！」

「あ～～～～。井上なら無事行ったぞ？」

「そこさえ聞けばいいんだよ！」

「え？女風呂の話はいいのか？」

「いいに決まってんだろ！」

「小師匠は変人でんな～～～～～」
「まったくだ～～～～～～～～」

この師弟は・・・。

「じゃ、あのピストル音はなんだ？」

「え？あ～～～。あれは爆竹を空き缶に入れて鳴らした音でんがな」。

「爆竹を・・・空き缶？」

「いや。そうすりゃきっと、女風呂の窓が、なんやなんや、ちゅうて開くかと思うて！」

アレックス・・・・・・。

だいたい、なんで爆竹なんか持ってんだ？

「でも、あきまへんでした・・・・ショック・・・」。
「ああ、ショックだったよな～・・・・」。

つまり。

僕が気をもんでいた時間は、
こいつらの女風呂覗きを、ひたすら待っていただけなわけで。

「お前らってやつは・・・・・！」


しかし。

本当の問題は、翌日に発覚したのです。


＜引き続きギャラリーやりま～す＞


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