ぼくたちと駐在さんの700日戦争

アレックスが驚きの白状をしたのは、その談笑の最中。

「はぁ～～～～？14歳～～～～～？」
「中学生じゃん！」

「誰が高校生って言うた？」
開き直るアレックス。

「だって・・・・」

アレックス。
デカい。
平気で千葉くんくらいあります。
さすが肉食人種。米食とは、こんなに差がつくものなんでしょうか？

しかも14歳でハワイ経由。
てことは、まだ子供料金？

「まぁまぁ。別に、歳の差あるからって、気ぃつかわんでええで～」

そういうことは、歳上の者が言うことです。
なんで一番年下のこいつが言う？

「愛があれば歳の差なんて～～～！でんがな！」

「愛なんかねーよ！」
と、言っているのに、

「ほいでな。みんなが歳上っちゅうことで相談あるんやけど」

「態度もデカいなー」
「まったく・・・」

年下とわかると急に鼻につきます。

しかもアレックスの相談というのが

「夏休みの宿題教えろだぁあああああああ？」

「いや。教えてくれやおまへん。やってくれ、でんがな」

「なおさら悪い！」
「なにをぬけぬけと！」
「そうだそうだ。宿題くらい自分でやれ！」

「え～～～～。さっき作戦協力しましたやろ？」

く・・・。
とんだ引き換え条件です。

さらには、アレックス。
「小師匠。さっき聞きましたで？Mr.クボの論文は小師匠がやったそうでんな～～～？」

なんと思わぬことを「脅し」に使ってきました！

「それ、オカンに言うてもええんやけど～～～～～」

高校生を脅迫？
しかし、工藤の疑っているところを、かばっているシンシアに知られるのはやっかいです。

「ああ、わかったわかった！やってやるから。持って来てんのか？」

ハワイ経由で宿題持って来てるってのも、また別な意味で驚きですが。
中学生らしいと言えば、中学生らしい。

「そうこなくちゃ！小師匠！おおきにぃ！」

「で、なんの宿題だ？」

「英語」。

「お前、アメリカ人だろうがぁあああああ！」


こうして、僕たちが、本来なら縁もゆかりもないようなアメリカ人中学生の宿題をやってあげているうちに、

ついにその時間がやって来ました。

消灯まであと1時間ちょうど。

グレート井上くん脱出作戦の時間です。

ジェミーの叔父さんは、とっくにあがってしまい、結局、僕が登って来た避難ロープという、実に原始的な方法。

「みんな！すまない」

「いいって！井上！成功を祈る！」
「美奈子さんによろしく！」

「テレフォン演習、たのんだぞ」
念を押すグレート井上くん。
もともと僕が身代わりを引き受けざるを得なくなった、最大の難関。『内線電話によるテレフォン演習』。

「ああ。まかせとけ。お前そっくりにやってみせるよ」。

「And I love herはナシだぞ？」

「はいはい・・・・」。

「えっと～～～。ところで俺の代わりって西条？」
と、久保くん。

「まー。そういうことになるかなぁ。なまじっかペラペラやったらもっと疑われるから」。

「うーん・・・。めっちゃ不安だ」。

しかし、今さらそこを議論している暇はありません。

スルスルと避難ロープを下る2人。
中段から飛び降り、地面に着地したと同時に駆け出しました。

暗闇の中、遠ざかる2人を見守る僕たち。


が。


「ん？」

「どうした？西条」

「今、井上たちとは別な人影が見えた」。

「別な人影？」

「ああ。4、5人いたな。ほら、あのへん」

僕には見えませんでしたが、

「それって・・・・」

もし、グレート井上くんたちの他にも脱出組がいるとすれば、やっかいです。

「昼のS工業の人たちですかねぇ？」
と、ジェミー。

「わかんねー。久保がからまれなきゃいいが・・・・」

「久保先輩、からまれやすいですからね」。

「そんなんなったら、美奈子さんどこの騒ぎじゃねーぞ？」

その通りです。

「西条。お前、門まで追っかけてくれないか？」
と、僕。

「だな。そうするか」。

しかし、ここでアレックス。
「大師匠が行かはるんならわいも！」

「えええええ？アレックスも？やめとけよ！」

これ以上、騒ぎのタネを撒きたくありません。

「弟子としては、ほっとけまへん！」

「ばか！捕まったらどうするつもりだ！」

「そん時は、小師匠たちが缶蹴ったらええがな！」

「あのねぇ・・・」。

缶蹴りじゃないっちゅうの！
まったく。日本人も忘れ去ったような遊びを知ってるヤツです。
ホントにアメリカ人か？

「宿題たのんまっせ～～～～～～」

「あ！こら！」

あー・・・行っちゃった・・・。



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