ぼくたちと駐在さんの700日戦争

僕たちは裏手を歩いて、「どうやって部屋にもどるか？」を相談しました。
アレックスは簡単ですが、僕たちはちがいます。

裏手を探索しているうちに、搬入扉前を通りかかり

「あ！ジェミー！」
「そうだ！忘れてた！」

「あん？ジェミーって？女の子なんか？」
と、アレックス。

もとより、ジェミーの名前は、バイオニックジェミーから。
アメリカでは、しっかり女の子の名前です。

「ん～～～。まぁ、そんなもんだ」。

「へ～～～～～～。それも紹介してくれるんか？」

どんだけ欲張りなんだ？アレックス。

が、
「もちろんだとも！アレックス！」
「紹介するぜ！なんだったら、つきあわせてやってもいいぞ！」

「ほんまかっ!?」

「ほんまほんま～～～」。

しかし、ジェミーの姿はどこにも見当たりません。

「おっかしいな。どこ行ったんだ？アイツ」

「どないな子なんや？」
と、アレックスの興味はそっち。

「ん～～～。背がちっちゃくて～～～～」
「セーラー服が似合ってて～～～～」
「黒髪で～～～～～」
「黒い瞳がクリクリしてて～～～～～」

ここまでウソ偽りなし。

「おぉ！くりくり！」

「とにかく、さっきの小町よりずっとキュートだ」。

「おお・・・・！」

「なんだったらアメリカ、連れてってもいいから」。

「えええええ！お前ら、サンショウダユウ？」

へんな日本文化に詳しいアレックスです。

しかし、当のジェミー。
どこへ行ったのでしょう？

一旦、リヤカー付きバイクのところへもどってみましたが、やはりいません。

「あいつぅ～～～～。また勝手な行動を」

しかし、ジェミーの勝手気ままには慣れっこの僕たち。

「まぁいいや。そのうち現れるだろ」

「それより工藤だよな」
「だな！」
「そや！」

日米共同作戦、開始です！


僕たちは、まず、昼のかき氷のおばちゃんの店へ。

「え？スイカとビール配達？かまわないけど？」

「配達は手伝いますから！」

「え？そりゃ助かるね～～～～～ウチは女手だけだからねぇ」

こうしてスイカを4個。
ビールを半ダース注文。

これを「小町の勤めているスーパーからの差し入れ」と称して、運び込むことにしました。
これで搬入口から、堂々と侵入できます。

ビール代が思ったより高く、ふところにひびきましたが、

「へ～～～～。日本人ってこないなことでゼニ使うんか？そないなもん、学校のツケにしたらええがな！」
と、「いつも母親にツケ」のアレックスはびっくり。

「うん。学校に払わせることもできるけど、それだと犯罪だからな」

「へ～～～～～～」
ひたすら感心するアレックス。

「こんなんでも経済効果は経済効果だからさ。あはははは」

僕は、昼にオバちゃんが「青年の家の恩恵はない」と言ったのを覚えていました。

と、

僕が財布の小銭を数えているのを見て、オバちゃん。
「兄ちゃんたち。スイカならうちで作ったのがあるから。1個10円でいいよ」

「え～～～～！ほんとか？オバちゃん！」
「ありがとうございます！」

「いやいや。配達までしてくれるとあっちゃねぇ。どっちにしろ腐るだけだから。こっちこそ、覚えててくれてありがとね」

世の中、なにが役にたってるかわかりません。

さっそく青年の家に「小町のスーパー」をカタって、電話を入れます。
これで小町が追い出されることは、間違ってもありません。
なにしろ、小町がいるからこその「差し入れ」なのですから。

「搬入、OKだ！」

「スーパーのほうは大丈夫か？」
「そうだな。店長に電話入れとく」。
「そのほうがいいな。お礼の確認とか入れられるとやっかいだぜ」。

念には念。僕と西条くんにとって、いつも通りのやりとりでしたが、
これにひたすら尊敬の目を向けているヤツがいました。

そうです。アレックス。

スイカとビールを運びながら、アレックス。

「どんだけ人、巻き込んでんねん！」

「え？迷惑はかけてないって」。

「ごっついな～～～～！日本人！　わい、ちょっと感動しとるで！」

「そうか？悪戯もちょっとは喜ばれないと」。

「エライっ！　真珠湾、忘れました！」

さっきも忘れたって言わなかったか？

「師匠と呼ばせてもらいまっせ！」

「師匠～～～～？べつにいいよ・・・・」

「いや！師匠！そいで、わいはなにすればよろしんでっしゃろ？」

「アレックスは、夜食のとき、工藤にひたすら飲ませて、ひたすら食わせてくれ」。

「了解！師匠！」

思わぬことで、国際的な弟子ができました。


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