ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「Mr.クドー。理恵がどんな子かは、学校が一番よくご存知でしょう？」

シンシアは、小町を「My girl」と呼んだほど。
これは予想外の強力な助っ人でした。

なのにアレックス。

「え！オカン！あれはわいのやで～～～～～～」

ここで否定!?

「なんやて～～～～？」

こらこら！なんでそこで争う？
別に親子なんだから、どっちのでもよさそうなものを・・・。

「ほほぉ。アレックスくんだっけ？じゃ、これがどこのメーカーだかわかるよねぇ？」

工藤。小町の物、というのは先刻承知の模様。
もともと『持検』は、実は運動部系合宿では定例行事。生活指導の工藤先生はウソにも慣れっこです。

「どうした？メーカーくらいわかるだろ？シンシア先生でもけっこうですが？」

様子を見る限り、工藤先生にとって、アレックスがいることはもちろん、シンシアが参加していることも不愉快なように見えます。
わざわざ招いておいて失敬な話ですが、聡子先生はまだ新任。僕たちにはわからない「大人の上下関係」があるのでしょう。

「えっと～～～～～。なんやったかな～～～～」

下窓の僕たちをチラチラと横目で見るアレックス。

ソニーやらナショナルならアレックスでもわかりますが、まさかまさかの旺文社。

僕は、必死に口を

「おーーー・ぶん・しゃーーーーー」

と動かします。

あー、はいはい。と、アレックス。

「そやった！オープンカーや！」

近いけどちがう～～～～～～～

　フフン、と工藤。

ところが。ここでなんとアレックス、口ごたえ炸裂！

「メーカー知らなあかんのか？」

「ぁん？」

「これ！アレックス！言葉えらばんかい！」
シンシアもビックリ！

「アメリカやったら、合宿にゃ音楽は付きもんやで」

ツカツカと工藤に近づくアレックス。

「オカン。わいのもん、勝手に女の子に貸さんでくれるか？」

カセットLLをむんずとつかむと

「ほな、もらってきますさかい」。

「ま、待ちたまえ！君！」

するとアレックス。

「なんや。うちのオトンは、外務大臣ともお友達なんやで？国際問題おこしたいんかいな」

すげ～～～～～～～～～！
ポーラなんてもんじゃありません！アレックス！

「ほな」。

脅しに屈したと言うより、あっけにとられる工藤先生。
小町もグレート井上くんたちもビックリです。


やがて裏手に小走りでやってきたアレックス。

「待たせたな～～～～～～」

「すげ～～～～アレックス～～～～」
「外務大臣と知り合いなんだ？」

「え？あ？ま～～～な～～～～」

「ところで外務大臣、誰だか知ってる？アレックス」

「し、そそそりゃ、知っとるがな！」

「誰？」

「ジ、ジョン万次郎やろ？」

ウソ。発覚。

「よ、よくオトンと一緒に酒くみかわすんやで～～～～～」

ジョン万次郎が。
そりゃすごい。

しかし、なんにせよカセットLL奪取。
ごちゃごちゃはありましたが、小町の強制退去も、可能性はほとんどなくなり、

「Eカップはいただきや～～～～！」

外務大臣まで動員してのEカップ。
すごい価値にはねあがりました。
誰も「あげる」とは言ってないんですが。

「けど、あのカセットの持ち主もなかなかやったな！こらぁ！」

「え？小町のこと？」

「KOMACHIゆうのんか？メガネのキュートな子！」

「あ・・・うん。本名はRIEだけど」
「キュート・・・かなぁ？」

外人特有の感覚があるのかも知れません。

「あれも紹介せぇ！クラスメイトなんやろ？」

「うん。別にいいけど・・・・」

「やり～～～～～～～！」

「アレックス。アイツのどこがいいんだ？胸フラットだぞ？フラット」
と、西条くん。

「ちっちっち！ろっ骨にどんな肉ついたかは関係あらへんがな！」

なんか似たような台詞を聞いたような・・・。

日米安保条約は、こうして当の女子たちの知らないところで、勝手に強固なものとなり、

「にしても、あのKUDOとか言うティチャ～～～！」

「ゆるせん！」
「まったくだ！」

工藤先生への国際共同戦線を誓うのでした。


「で？このカセットどする？」

「ああ。シンシアに渡してくれる？わかってたみたいだから」

「え～～～～！オカンにか～～～～～～!?」

確かに、部屋をたずねた時のシンシアの怒り具合は、ただごとではありませんでしたが。

「シンシア、さっき、なんであんなに怒ってたんだ？」

「あ～～～～、あれは～～～～～～」。

タイプライターはわかりましたが、青年の家には別々にやって来た親子。
他の悪戯をしかけたとは思えません。

「いや。ちっちゃいことやさかい」。

そう言いながらもアレックス。急に神妙になると、

「いや～～～ちとな。大阪からこっち来る時にな・・・・空路がようわからんかったさかいに・・・・」

シンシアが怒り心頭だった理由。


「ハワイ経由して来ただ～～～～～～～？？？？」

「夏休み直行便ちゅうのがあったんや！おかげで1本で来れたんやで！」

「ハワイから？？？」

「そや！」

「それも・・・オカンのツケで？」

「そや！」

大阪から青年の家まで・・・
なんと日付変更線超えてます。

　そりゃ怒るわ・・・・。

アレックス。なんだかとってもアホのスケールがデカい。



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