ぼくたちと駐在さんの700日戦争

”モ～～～～～～～”

「あ。十兵衛？　久保に換わってくれる？」

”モ！”

”・・・電話？俺に？”

”モ～”

”あー、もしもし”

「すっげーーー！　久保！　十兵衛って電話換われるんだ!?」

”あ？だから細かいこと気にすんなって。なんの用だ？明日のことか？”

「いや、だから細かくないぞ！」

”あんだよ！牛のことしゃべりたいなら牛丼屋でも行けっ！”

「あ・・・。ご、ごめん」

結局、久保家の様子は伺い知ることができませんでした。
まったく不思議な家です。

僕は久保くんと、最後の「交代」の打ち合わせをして、部屋にともどりました。

西条くん、今夜は、僕の家に泊まりです。
今日走り回ったこともあって、すでに睡眠体勢。

「西条！すごいんだ！久保んちの十兵衛って牛さー！」

「あんだよ・・・息きらしてもどったと思ったら牛の話ぃい？」

「いや。それがすごいんだってば！」

「細かいこと気にすんなって。明日早いんだぞ。女の話んときだけ起こせ」。

寝ちゃいました・・・。

　細かいことなのかなぁ・・・・。
　電話の換われる牛。

僕はこの驚きをどうしても誰かに伝えたくて、台所の母のところへ。
だって電話が換われる牛です！

「母ちゃん母ちゃん！聴いてよ！久保んとこの牛ってさー」

食器を水洗いしながら、母。
「なに？高校生になってモーモーのお話？」

はなっからバカにしています。

「む・・・。そりゃないだろ？母ちゃん。子供の話、聴けよ」。

「あーあー。聴きますよ、聴きますよ？　モーモーちゃんがどうちたの？」

「く・・・それがね。電話、換われるんだよ・・・」。

母の対応がおかしかったので、僕が言っていることがバカみたいです。

案の定、母。
「あらちょ～～～。よかったわね～～～。ボクちゃんも、牛さん、みならってね～～～～」。

「くそ！僕だって電話くらい換われらい！」

「あら、えらいわね～～～～～。じゃ、おやちゅみなさ～～～い」。

こうして、「電話を換われる牛」十兵衛は、誰にも語り継がれることなく、歴史から埋没されていったのでした。


翌朝。

青年の家のあるT市は、僕の町からはめちゃくちゃ遠いのですが、グレート井上くんたちが天体観測をする姫沼からは40分間ほどの近道がありました。
もっともそれは、オートバイでの話であって、僕と西条くんは原付。
その2倍は覚悟しなくてはなりません。

しかし、出かける前に、さらに予定外なことがおきました。

「おはよーございます！先輩っ！」

「ジェミー!?　なんで来た？」

「父の車です！」

なんと家にジェミーが訪ねて来たのです。

「そういう意味じゃなくって。どうして来た？」

「だから父の車で。牛車で来たと思いますか？」

「・・・・・・」。

まぁいいや。

「送られて？」

「はい～～～～～～」。

「お前わかってる？僕と西条は、今日、青年の家行くんだぞ？」

「青年ですもんねっ！」

「だからそういう意味じゃなくって・・・」。

あたまいて～～～～～～

「だからぁ。悪いけど、僕と西条は出かけるの！」

「悪くないです～～～～～」。

「そうか。じゃあな」。

「ボクも出かけます～～～～」

「どこへ？」

「え？青年の家でしょ？」

「いや・・・僕らはそうだけど・・・・」。


着いて来ちゃいました・・・。ジェミー。
理由は、「夏休み、暇だから」。

たいへんだったのは交通手段です。
僕も西条くんも原付ですから、2人乗り禁止。

そこで、僕のヤマハメイトにリヤカーを取り付け、そこにジェミーを乗せました。
これでも立派な違反なのですが、当時の田舎では「お百姓さん特権」として、許されたのです。

「メットないから、ジェミー、これ、かぶれ」。

「え！剣道の面ですかぁ？」

「そう。ただの面じゃないぞ。早苗お姉さんのだぞ」。

「わ～～～い。どれどれ～～～～・・・・」


「・・・・ぐ・・・ふ・・・・・」


さすが夏の剣道防具。
ジェミーは、とっても都合よく、リヤカーで倒れてくれました。

これでリヤカーは遺体運搬車。
すでにご承知のように「遺体は乗車人数に含まれない」。違反ではありません。

「よっしゃ！行くかーーーーーー！」

「出発～～～～～～～～～！」


＜20日、庄内で上映会です。みなさん、お待ちしてま～す＞


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ぼくちゅうラジオ更新。
今週のゲストは、ジェミー役、宮田幸季さん！
こちらからどうぞ。

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