ぼくたちと駐在さんの700日戦争

しかし。
西条くんはくじけません。

「あ。慣れれば、これはこれで癖になるかも・・・」

ここまで来れば「本物」です。

「よしとけよ」。

と、言ってるのに

「フェロモン～～～～～～～」

数秒と持たず、

「ンぐ・・・・・・」

「西条ーーーーー！しっかりしろーーーーー！」

なにやってんでしょうか？
フェロモンも摂取のしすぎはよくないようです。

「それよりもう1個の面どうする？」
と、相談していたところへ

「こんばんは」。

玄関に誰か訪ねて来ました。

「よぉ。孝昭」。

それはなんと村山くん。

「借りて来てやったよ」。

「え！マジか？村山！」

防具を見せる村山くん。
驚きの僕たちでしたが

「ああ。井上のことで使うんだろ？」

そう。村山くんとグレート井上くんの友情は、表面張力ではなかったのです。

「ありがて～～～～～～～～！」

「で、誰の？」
と、尋ねるまでもなく、
胴に名前が縫い付けてありました。

「赤城」

「え～～～～～。赤城のかぁあ？」
落胆する孝昭くん。

なぜなら、赤城さんは、大柄な上に、なんと言うか。顔立ちが、
シンシアを若く日本人化したかた、とでも言うか。
オブラートせずに言うなら学年有数の「ブス」。です。

ところが、西条くんは、

「こ、今度こそ、薔薇の・・・・」

まだ女子への幻想を捨て切れないようです。

「西条。赤城のだぞ？」
と、孝昭くん。

「顔はどうあれ女子は女子だ！」

そうです。
西条くんは、良い意味でも悪い意味でも、女子は平等。
ここが彼の良いところであり、そのへんのスケベと違うところです。
偉大なるスケベ。西条。

「孝昭。じゃぁ、聴くが、夕子ちゃんが顔に大ヤケドしたら嫌いになるか？」

「え・・・いや・・・・そりゃ夕子ちゃんなら・・・」。

なんてするどい仮定でしょう。

「だろ？女子は女子だって。頭蓋骨の外側にどんな肉ついたかは関係ねぇ！」

説得力あります。
これに村山くんも同調。
「西条の言う通りだ。せっかく貸してくれたんだぞ？」

「う・・・うーん。俺が間違ってたよ・・・。西条」

でも、西条くんが言わんとしていたのは、

「尻はまるい！」

骨盤についた肉は関係あるのです。

そしてまた、

「・・・・ンあがっ！」

「西条ーーーーーーー！しっかりしろーーーーーー！」

なんて学習能力のないヤツでしょう？

西条くんの幻想が、少し冷めて来たところで、村山くん。
「ところで、お前、理恵に渡していない物あるだろ？」

「え？僕が？」

「ああ。お前に伝えてくれって」。

あ～～～～。
カセットテープだ！
テープレコーダーは直しましたが、かんじんな『チエちゃん』の入ったテープを渡していませんでした。

「そうだった。どうしよ？あ、そうだ。孝昭、陽水の『氷の世界』録ってない？」

「ああ。あるぞ」。

「悪いけどくんない？後で僕のやるからさ」。

「え！小町にやんのか？」
孝昭くんは、やはりイマイチ、小町が気に入っていないようです。

「そう言わずくれよ。アイツはアイツで、けっこういいとこあるんだぞ？」

僕は素直にそう言いました。
すると西条くんが援護。
「そうだそうだ！」

「西条・・・・」

「小町の尻はちっちゃくてかわゆい」。

やはり評価基準は「骨盤の肉」。
あってもなくても評価するところが、西条くんの偉大なところです。

「ほらよ。陽水」

しぶしぶ、テープを渡す孝昭くん。
＜テクニクス・カセットCM。79年ものですが、おもしろいです→こちら＞

「さんきゅ、孝昭。ちょっと届けて来る！」

僕は自転車をとばして、小町の働くスーパーへ。
孝昭くんの家からスーパーは、すぐです。

「あれ？店長さん。こま・・・理恵ちゃんは？」

「ああ。明日合宿だからって、今しがたあがったよ」。

「あ・・・そうかぁ・・・・」。

そりゃそうです。
この合宿を一番と楽しみにしていたのが小町。
それでも、完全に休みにしないのは、さすが小町です。

「ほんと。いい子だねぇ。あの子は」。

「でしょうね」。

「同じ高校とは思えないよ」。

「誰とですか？」

「なんでおんなじ高校でねぇ・・・・」

「だから誰とですか!?」

「あ。追っかければ間に合うかもよ？ほんと、つい今しがただから」。

なんかテキトーにごまかされた気もしますが。

僕が、自転車をこぎだしたのとほぼ同時。
実にあっけなく、小町は見つかりました。
というより、僕が彼女「たち」に見つかった、というのが正しい言い方です。

「あら・・・」。
「どうしたの？」

小町は、和美ちゃんと一緒でした。

「あーーー。えっと。あのさ・・・。これ、カセット」

「あ・・・ありがと・・・・・」。
意外なタイミングだったのか、困惑した表情の小町。

「カセットって？」
和美ちゃんがたずねたので、

僕は、とっさに

「えっと。孝昭から・・・・」。

小町の目の前で、またウソをつきました。



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