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<おことわり>
今日のぼくちゅうは、ほぼ笑える部分はありません。というよりも、今日の話がぼくちゅう中、もっとも過酷な話です。
37話、38話。2話1セットです。本日のぶくんの謎が全て明かされます。


<おことわり>
今日のぼくちゅうは、ほぼ笑える部分はありません。というよりも、今日の話がぼくちゅう中、もっとも過酷な話です。
37話、38話。2話1セットです。本日のぶくんの謎が全て明かされます。


7章[のぶくんの飛行機]第37話 のぶくんの飛行機(2)
本署。僕がつれていかれたのは、いわゆる刑事ドラマの取調室のようなものとはほど遠く、ただの会議室のような場所。
例の電気スタンドもなければ、背広の刑事さんもいません。
「いろいろやってんだってなー」。
「ええ。まぁ、バンドとか、いろいろ」。
「んー。本官が聴いてるのは、そういうんじゃないんだけどね。どっちかって言うと」。
そんなこたぁ百も承知です。
取り調べとは言え、僕がなにか悪いことをした、という意識はありませんから、とにかく早く帰ることだけを考えていました。
しかし、この取り調べが思いのほか長く、すでに窓の外は暗くなっていました。
「あの~。おまわりさん」。
「ん?もうちょっとで終わるからね」。
「いえ、そうじゃなくって。お腹すいたんですけど、カツ丼とか出ないんですか?」
「あ?」
「ほら。刑事ドラマとか出るじゃないですか~。カツ丼」。
「あー。出してもいいけど、あれ、みんな自腹って知ってた?」
「え!そうなんですか?」
「そう。取り調べられるほうの負担だよ」。
そうだったのか。あんなに温情あるふりして。ヤマさん。
結局払わせてたのか・・・。
その日から僕は『太陽に吠えろ』の見方が変わりました。
結局、取り調べが終わったのは午後7時をまわった頃。パトカーに乗せられ町に帰ることに。
考えてみると、ほんと、よくパトカーに乗る高校生でした。良くも悪くも。
「駐在所でいい?」
「ええ。けっこうです。自転車あるんで」。
パトカーから降りた僕は、すでにみんながいないことを知りながら、駐在所に寄ることにしました。
言うまでもなく、のぶ君のことが気になったからです。
「駐在さん~。ただいまもどりました~」。
扉を開ける僕。
しかし、そこは普段平然と入っていた駐在所とは、あきらかに雰囲気が違っていました。
警察官が2人。背広姿の男性がひとり。そしてのぶくん。もうひとり、のぶくんのお母さんがそこに座っていました。
「ん。ご苦労さん」。
駐在さんが、小さな声で言いました。
「帰っていいぞ」。
「え、ええ・・・・」。
しかし僕はそこに立ちすくんでいました。雰囲気に飲まれる、とでもいいますか。とても動ける状況になかったのです。
取り調べをしているらしき警察官が言いました。
「お母さんねぇ。これは児童福祉法に違反してるんですよ。犯罪ですよ?わかってますか?」
この質問にはなにも答えないお母さん。
続けて警察官が言います。
「親には養育義務ってのがあるんです。これはわかりますよねぇ?」
やはり無言のお母さん。
そして会話は、僕を側においたまま、核心に入っていきました。
「どうして、その・・・子供さんにご飯とか与えないんですか?自分の子供がかわいくないわけじゃないでしょう?」
「可愛くなんかありません」。
え?
「可愛くなんかあるもんですか。別れた男の子供なんか」。
のぶくん本人を横にして、それはあまりに残酷で、そして信じがたい言葉でした。
のぶくんはただうつむいていました。
さすがに取調べの警察官も絶句し、次の言葉をさがしているのがわかりました。
「この子の父親はねぇ。この子ができたってわかったとたんに逃げたのよ」。
「・・・・・え」。
じゃぁ、妹って・・・?
「わかった時はもう3ヶ月過ぎでねぇ。堕ろせったって堕ろせやしない。殺人になるんですってねぇ」。
「その後に、わたしが女ひとりでどれほど苦労したか、想像つきますか?おまわりさん」。
「この国はねぇ。妊婦なんかまともに働けやしない。えーえー、あらゆることやったわ。なにからなにまでね」。
「・・・・・」。
「でもねぇ。お腹おっきくなってくると、そういう下衆な商売さえできなくなるのよ」。
ここで背広の男が言いました。
「いや、生活保護とかあるでしょう?」
「あはは」。
お母さんは馬鹿にしたように笑いました。
「あのねー。ここいらの田舎ならともかく、都会って家賃いくらだと思ってんの?あんた。働いても働いても半分はそれでなくなるんだから。まぁ、お役人のあんたにゃわかんないでしょうけどね。女ひとりで子供かかえたら地獄よ。この国は」。
「安いとこに引っ越そうったってねぇ。敷金だ紹介料だって、都会は5ヶ月分よ。あるわけないでしょ?そんな金」。
「結局ね。家賃滞納で追い出されるまでいすわるのよ。内容証明とかなんとか、極悪人のように言われてね。お金ないのが悪人なの?ねえ、おまわりさん」。
「電気もガスも止められてんのに、どうやって子供育てんの?ミルクのお湯がないのよ?わかる?」
「しかたないからね。粉ミルク水でといてさぁ。お腹であっためんだよ。人肌にねぇ。その間こいつがビービー泣くんだよ」。
そこにいた誰ひとり、言葉を出すことができませんでした。
僕は、あまりに若かったため、この「世の中の仕組み」に愕然とするばかりでした。
本日は2話1セットです。続けて第38話へどうぞ
本署。僕がつれていかれたのは、いわゆる刑事ドラマの取調室のようなものとはほど遠く、ただの会議室のような場所。
例の電気スタンドもなければ、背広の刑事さんもいません。
「いろいろやってんだってなー」。
「ええ。まぁ、バンドとか、いろいろ」。
「んー。本官が聴いてるのは、そういうんじゃないんだけどね。どっちかって言うと」。
そんなこたぁ百も承知です。
取り調べとは言え、僕がなにか悪いことをした、という意識はありませんから、とにかく早く帰ることだけを考えていました。
しかし、この取り調べが思いのほか長く、すでに窓の外は暗くなっていました。
「あの~。おまわりさん」。
「ん?もうちょっとで終わるからね」。
「いえ、そうじゃなくって。お腹すいたんですけど、カツ丼とか出ないんですか?」
「あ?」
「ほら。刑事ドラマとか出るじゃないですか~。カツ丼」。
「あー。出してもいいけど、あれ、みんな自腹って知ってた?」
「え!そうなんですか?」
「そう。取り調べられるほうの負担だよ」。
そうだったのか。あんなに温情あるふりして。ヤマさん。
結局払わせてたのか・・・。
その日から僕は『太陽に吠えろ』の見方が変わりました。
結局、取り調べが終わったのは午後7時をまわった頃。パトカーに乗せられ町に帰ることに。
考えてみると、ほんと、よくパトカーに乗る高校生でした。良くも悪くも。
「駐在所でいい?」
「ええ。けっこうです。自転車あるんで」。
パトカーから降りた僕は、すでにみんながいないことを知りながら、駐在所に寄ることにしました。
言うまでもなく、のぶ君のことが気になったからです。
「駐在さん~。ただいまもどりました~」。
扉を開ける僕。
しかし、そこは普段平然と入っていた駐在所とは、あきらかに雰囲気が違っていました。
警察官が2人。背広姿の男性がひとり。そしてのぶくん。もうひとり、のぶくんのお母さんがそこに座っていました。
「ん。ご苦労さん」。
駐在さんが、小さな声で言いました。
「帰っていいぞ」。
「え、ええ・・・・」。
しかし僕はそこに立ちすくんでいました。雰囲気に飲まれる、とでもいいますか。とても動ける状況になかったのです。
取り調べをしているらしき警察官が言いました。
「お母さんねぇ。これは児童福祉法に違反してるんですよ。犯罪ですよ?わかってますか?」
この質問にはなにも答えないお母さん。
続けて警察官が言います。
「親には養育義務ってのがあるんです。これはわかりますよねぇ?」
やはり無言のお母さん。
そして会話は、僕を側においたまま、核心に入っていきました。
「どうして、その・・・子供さんにご飯とか与えないんですか?自分の子供がかわいくないわけじゃないでしょう?」
「可愛くなんかありません」。
え?
「可愛くなんかあるもんですか。別れた男の子供なんか」。
のぶくん本人を横にして、それはあまりに残酷で、そして信じがたい言葉でした。
のぶくんはただうつむいていました。
さすがに取調べの警察官も絶句し、次の言葉をさがしているのがわかりました。
「この子の父親はねぇ。この子ができたってわかったとたんに逃げたのよ」。
「・・・・・え」。
じゃぁ、妹って・・・?
「わかった時はもう3ヶ月過ぎでねぇ。堕ろせったって堕ろせやしない。殺人になるんですってねぇ」。
「その後に、わたしが女ひとりでどれほど苦労したか、想像つきますか?おまわりさん」。
「この国はねぇ。妊婦なんかまともに働けやしない。えーえー、あらゆることやったわ。なにからなにまでね」。
「・・・・・」。
「でもねぇ。お腹おっきくなってくると、そういう下衆な商売さえできなくなるのよ」。
ここで背広の男が言いました。
「いや、生活保護とかあるでしょう?」
「あはは」。
お母さんは馬鹿にしたように笑いました。
「あのねー。ここいらの田舎ならともかく、都会って家賃いくらだと思ってんの?あんた。働いても働いても半分はそれでなくなるんだから。まぁ、お役人のあんたにゃわかんないでしょうけどね。女ひとりで子供かかえたら地獄よ。この国は」。
「安いとこに引っ越そうったってねぇ。敷金だ紹介料だって、都会は5ヶ月分よ。あるわけないでしょ?そんな金」。
「結局ね。家賃滞納で追い出されるまでいすわるのよ。内容証明とかなんとか、極悪人のように言われてね。お金ないのが悪人なの?ねえ、おまわりさん」。
「電気もガスも止められてんのに、どうやって子供育てんの?ミルクのお湯がないのよ?わかる?」
「しかたないからね。粉ミルク水でといてさぁ。お腹であっためんだよ。人肌にねぇ。その間こいつがビービー泣くんだよ」。
そこにいた誰ひとり、言葉を出すことができませんでした。
僕は、あまりに若かったため、この「世の中の仕組み」に愕然とするばかりでした。
本日は2話1セットです。続けて第38話へどうぞ
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- 7章-第38話 のぶくんの飛行機(3)
- 7章-第37話 のぶくんの飛行機(2)
- 7章-第36話 のぶくんの飛行機(1)
おもいっすね~
現実って
>S☆3σさん
重いだけで終わるつもりはありません。
ぼくちゅうはぼくちゅうです。
今回あんまコメントないっすね色付きの文字斜体の文
3ヶ月って…ほとんどの女性が妊娠に気付く頃、というか赤ちゃんがお腹に宿ったばかりの頃ですね。
そんな頃に中絶できないなんて嘘、やはり男性だと信じてしまうのですね(^_^;)
色々な意味で悲しいです(^_^;)
男性も妊娠・出産の知識を持ってほしいな~
うん、法律で堕胎が禁止されているのは、たしか5ヶ月だったような……
がんばって一応子育てしようとは、考えて、考えて(自分の生活を優先しちゃったのかなぁ)行動が無理だったのかなぁ・・・???
自分の子供がかわいく無いなんて、当時の感覚からすると、ちょっと私には、理解不能!!!
家の親も大変苦労して私達、兄弟4人を育ててくれたので、すっごく感謝してます。
まぁ、片親では無かったですが・・・。
この話
かなり重いっす
なんか哀しい
カツ丼、・・・・・・・・
親友が異国で未婚で子供を身ごもった時
のぶくんのお母さんのような状況にならないとも限らないと思うと
「産みなよ!後は何とかなるよ!」とは言えませんでした。
この上どちらかか、最悪母子共に病気になりでもしたら
人生は簡単に行き詰ってしまいますよね。
お母さんには助けが必要です。
のぶくんのお母さんにはそれがなかったんですね。
というか、それを得ようとして片桐みたいな男に引っ掛かってしまったんですね・・・