ぼくたちと駐在さんの700日戦争

駐在さんの話によりますと、なんとシンシア。
大阪府警で、外国人凶悪犯罪の「尋問の通訳」をやっているのだとか。

1970年の大阪万覧を境いに、日本でも外国人の犯罪が、激増。
府警は、さっそくこれに対応するため、元々いた「相談」のための通訳とは別に、「犯罪取り調べ専門」の通訳を依頼することにしたのです。

それが

「シンシア・・・・かぁ・・・」

とっても納得な僕たち。

「呼び捨てするとは、ええ度胸しとるやないけ？ボーイズ」

「シンシア・・・先生・・・・」

「Good！」

恐るべし、大阪府警。

先日、英語で大失態をさらした駐在さんは、この情報を聞きつけ、工藤先生を通じて、シンシアに英語訓練をお願いした、というはこびのようです。

「じゃ、NEXT」

「はい？」

「次、やらんかいっ！」

「はい・・・」

35曲目突入。曲は、あべ静江で『水色の手紙』。

「♪みずいろは～～～～～　涙色～～～～～～～」

このあたりになると、西条くんはほとんど歌っておらず、もっぱらタンバリン係。
彼は、音楽はからっきしでしたが、武道をたしなんでいるせいか、リズム感だけはありました。

「西条だけ楽しやがって・・・」

「だって俺、カマヤツだから」。

くそ～～～～。

「次、カマヤツが歌うとこあったら言ってくれ」

「ねーよ。そんな歌」。

僕たち、というか、僕が熱唱している間、駐在さんは警らに行き、出たり入ったり。
グレート井上くんは、シンシアに発奮されて、ESSの練習にもどってしまいました。

当のシンシアは、というと、例の夕子ちゃんのオリベッティで、なにやらずっと打っています。
そのリズムが、歌に合っているのが、また腹がたつ。

さらには、時折、なにか考え込むと

「静かにせんかい！気ぃちるやろ！」

てめぇで歌わせておいて・・・・！

「なんてアマだ・・・・！」

「アマやおまへん。Woman！はい！Repeat after me!」

そうだ。外見は外人だけど、大阪人だった。シンシア。

「なんてWomanだ・・・」

「Good！」

くそぉ・・・・日本語に通じてる外人ってやりにくい・・・。
今までにない種類の「敵」です。

が、42曲めで・・・

「よしゃ！少し休憩や！」

どうやらシンシア。タイピングが一段落ついたようで、ようやく席をはずしました。

これを見逃す手はありません。

「シンシアのヤツ、人にBGMやらせて、なに打ってんだ？」

「たぶん、弁論大会の書類じゃないか？台詞部分がある」


打ち終わった何枚かを見ているうちに、どちらともなく、

「よし！打ち替えちゃえ！」

絶好の復讐の機会です！

「お前、タイプライター打てるか？」

「心配すんな。夕子ちゃんから借りてる間、かんっぺきにマスターした！」
「舐めないで？」

だから舐めるもんじゃないんだよ。タイプライターは。

なにを打つかと言いますと

「あれだよ、あれ！」

鞄から出したのは、言うまでもなく

『おんどりズキズキ』です。

「こっから台詞部分だけとって入れ替えよう！」

「わははは～～～。おもしれ～～～～～～」

見てろ～～～～～・・・シンシア～～～～～～

「西条、見張りたのむ！」
「おお！」

西条くんに、シンシアがもどって来ないか見張ってもらっている間、すさまじい速度で『おんどりズキズキ』の台詞を文中に転写。

「あ。この台詞、激しそうでいいな～～～」

「わかんのか？」

「わかんない」

わからなくとも、海外の官能小説には、共通した部分があります。

「ひたすらに、Ah～～～　だの、Oh～～～～だの入ってる台詞を写すだけ」。

「Ah～～～～・・・・」
「Oh～～～～・・・・」

「あと少し！」

　チン！

打ち終えました。『おんどりズキズキ』Ah～Oh～シリーズ。

それを、元あった原稿の中にまぎれこませると
なにごともなかったかのように、

「♪水色は～～～～～～～」
また歌い出します。

そこへ、

「それ、さっき聴いたで？」

なにも知らないシンシアが戻って来ました。

「あ～～～。そうですね。はい」

ニコやかに僕たち。

「シンシア先生～～～。さっきからずっと、なに打ってたんですかぁ？」

するとシンシア。書類を紙袋に入れながら、
「あ？これかいな？」

「はい～～～～～～♪」

「英語弁論大会のな」

「はい～～～～～～♪」

「中学の部の原稿の添削」


「はい？」


「中学の部の原稿の添削。頼まれとってな」

「中学・・・・って・・・」
「確か・・・・・・・・」

「えっとぉ。誰やったかいな。あ！そやそや！Mss.Yuko Inoue。Mr.井上の妹はんやね！」

「ウソ・・・・・・・」
「Yu・・・Yuko・・・Inoue・・・・・」

に、おんどりズキズキ・・・・

「Ah～～～～～～～～～～～～～～～!!」
「Oh～～～～～～～～～～～～～～～!!」


※選挙、おつかれさま～


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